皮膚科の豆知識ブログ

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アナフィラキシーの原因は何が多い?

アナフィラキシーを見たときは、どんな原因を考えればよいのでしょうか。

アナフィラキシーの原因を調べた論文を見てみましょう。

アレルギー 71(2): 120, 2022

 

日本アレルギー学会の研修施設79か所、780例の調査です。

【アナフィラキシーの原因】

1. 食物:73%(FDEIA:5.2%)
2. 薬剤:12%
3. 昆虫刺傷:4%

 

このように食物と薬剤が8割以上を占めています。

次にそれぞれの内訳を見てみましょう。

【アナフィラキシーの原因(食物)】

1. 牛乳:22%
2. 鶏卵:20%
3. 小麦:12%

 

【アナフィラキシーの原因(薬剤)】

1. 造影剤:33%
2. 抗菌薬:16%
3. NSAIDs:16%

 

アナフィラキシーを見たときは、まずこれらの原因を考えるのがよいでしょう。

 

ちなみに発症までの時間は食物は10~30分が多く、FDEIAは1~2時間、薬剤と昆虫刺症は10分未満が多いようです。

全体の8割以上が2時間以内に発症しており、2時間以内に摂取したものが原因の可能性が高そうです。

【アナフィラキシー発症までの時間】

・10分未満:26%
・10分~2時間:60%
・2時間~4時間:11%
・4時間以上:3%

 

ペニシリンアレルギーにセフェムは投与できるのか?

ペニシリンアレルギーを持つ患者がいます。

その患者にセフェム系の抗菌薬を投与することは可能なのでしょうか。

これを調べた報告があります。

J Allergy Clin Immunol Pract. 6(5): 1662, 2018(PMID: 29408440)

 

ペニシリンアレルギーと診断されている272人の患者に対して、複数のセフェム系抗菌薬のアレルギー検査が行われました。

抗菌薬を①ペニシリンと側鎖が同じor類似のものと、②側鎖が異なるものに分類して検査陽性率をみてみましょう。

【アレルギー検査陽性率】

・側鎖が同じor類似のセフェム:37.7%

・側鎖が異なるセフェム:1.6%

 

側鎖が同じセフェム系では比較的高い頻度で交差耐性を持つようです。

そのため使用しないほうがよいでしょう。

しかし側鎖が異なれば交差耐性はほどんどないようで、ペニシリンアレルギーがあっても使用ができそうです。

 

ペニシリンと側鎖が同じ薬剤は(R1側鎖がNH2基)4種類あります。

一般的に使用されているのはセファレキシン(ケフレックス)とセファクロル(ケフラール)の2種類です。

R1側鎖がNH2基

  • セファレキシン
  • セファクロル
  • セファドロキシル
  • セファトリジン

 

意外ですが同じ第一世代に分類されるセファゾリン(セファメジン)は側鎖が異なっています。

そのためペニシリンアレルギーがあっても使用ができる可能性がありそうです。

 

造影剤アレルギーはアナフィラキシーだけではない

アレルギーには即時型と遅延型の2種類があることは、誰もが知っていると思います。

ところが造影剤の副作用の相談を受けてみると、即時型と遅延型が区別されていないことが多いと感じます。

「造影剤の副作用=アナフィラキシー」と考えている人が多いのですが、遅延型も存在しています。

 

まずそれぞれの頻度がそれぞれどれくらいなのかのデータを紹介します。

7505人のヨード造影剤投与患者の前向き研究です。

Eur Radiol. 13(1): 185, 2003 PMID: 12541129

【造影剤の副作用の頻度】

・即時型:2.1%

・遅延型:2.8%

 

このように遅延型反応も結構多いのです。 

造影剤の副作用をみた場合、まずどちらの型なのかを判断しなければなりません。

皮疹が発症したタイミングを把握することで、即時型と遅延型を鑑別することができます。

 

  • 即時型:投与から1時間以内(多くが5分以内)
  • 遅延型:投与から数時間~数日後

(Allergy. 60(2): 150, 2005 PMID: 15647034)

 

それでは遅延型反応はどれくらいの時間で発症することが多いのでしょうか。

造影剤投与から皮疹出現までの時間を調べた論文を紹介します。

皮膚科の臨床 54(11): 1562, 2012

【遅延型反応の発症時期】

・1~2日後:35%
・3~4日後:6%
・5~6日後:43%
・7日以降:16%

 

1~2日後と5~6日後に2つピークがあります。

1~2日で発症しているのは既感作の患者です。

一方、5~6日で発症するのは未感作だった患者です。造影剤アレルギーは、体内に残る造影剤で感作が成立し約1週間後に発症するのです。

 

5日~6日後の発症では、造影剤の使用が見落とされやすいので注意が必要です。

 

造影剤の即時型反応の頻度はどれくらい?

造影剤の副作用である即時型反応は、どれくらいの頻度で起こるのでしょうか。

CT造影剤の投与患者9290例とMRI造影剤の投与患者4919例を調査した日本の論文を紹介します。

MB derma 229: 131, 2015

【即時型反応の頻度】

・CT造影剤:3.3%
・MRI造影剤:0.94%

 

CT造影剤のほうがMRI造影剤よりも即時型反応の頻度は高いようです。

また重篤な反応(アナフィラキシーショック)の頻度も調べられています。

【アナフィラキシーショックの頻度】

・CT造影剤:0.03%
・MRI造影剤:0.02%

 

どうやらアナフィラキシーショックが起こる頻度は、CT造影剤もMRI造影剤も同じくらいのようです。

 

ちなみにCT造影剤の即時型反応の既往がある場合、MRI造影剤を使っていいかという質問を受けることがあります。

CT造影剤とMRI造影剤は全く別の物質なので(CT:ヨード、MRI:ガドリニウム)、交差反応はなく使用は可能です。

(アレルギー. 67(2): 98, 2018.)

 

 

造影剤の即時型反応はアレルギーではない?

即時型反応は一般的に、IgEを介したⅠ型アレルギーで起こります。

しかし造影剤では少し異なっています。

造影剤はマスト細胞を直接刺激することがあり、アレルギーではない機序で反応を起こすことがあるのです。

 

造影剤の即時型反応

  • IgE依存性(アレルギー性)
  • IgE非依存性(非アレルギー性)

 

そのため初めての投与でも反応が起こる可能性があります。

このような非アレルギー機序で即時型反応が起こるのはどれくらいの割合なのでしょうか。

CT造影剤の投与患者9290例とMRI造影剤の投与患者4919例を調査した日本の論文を紹介します。

MB derma 229: 131, 2015

【初回投与での発症】

・CT:70.3%
・MRI:82.6%

 

このように初回投与で発症する症例はかなり多いようです。

まだ感作されていない初めての投与で反応が出た場合は、非アレルギー性と考えられます。

このように造影剤の即時型反応はアレルギーとは限らないので注意が必要です。