皮膚科の豆知識ブログ

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重症薬疹の死亡率はどれくらい?

重症薬疹とされているのは以下の4つです。

 

①Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson syndrome :SJS)

②中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)

③薬剤性過敏症症候群(drug induced hypersensitivity syndrome:DIHS)

④急性汎発性発疹性膿疱症(acutegeneralized exanthematous pustulosis:AGEP)

 

これらの薬疹は生命予後に関わるため注意が必要です。

それではどれくらい危険なのでしょうか。

論文を見てみましょう。

 

SJS・TEN

SJSとTENは一連の病態で、水疱の面積が10%以下がSJS、10%以上(海外では30%)がTENになります。

SJS・TENの総説に死亡率がまとめられています。

Orphanet J Rare Dis. 5: 39, 2010 PMID: 21162721

The average reported mortality rate of SJS is 1-5%, and of TEN is 25-35%.

 

SJSの死亡率は1~5%ですが、TENの死亡率は25~30%とかなり高い数値のようです。

 

DIHS

次にDIHSについて見てみましょう。

薬疹の総説には、DIHSの死亡率は10%程度と記載されています。

N Engl J Med. 331(19): 1272, 1994 PMID: 7794310

 

しかしDIHS117例の前向き研究では死亡率は2%で、そこまでは高くないのかもしれません。

Br J Dermatol. 169(5): 1071, 2013 PMID:23855313

 

合わせると2~10%というところでしょう。

 

AGEP

最後にAGEPについて見てみましょう。

AGEP患者207例の後方研究では死亡率2%と報告されています。

Ann Dermatol Venereol. 130(6-7): 612, 2003 PMID: 13679697

 

まとめ

以上の結果をまとめてみます。

 

重症薬疹の死亡率

SJS

1~5%

TEN

25~35%

DIHS

2~10%

AGEP

2%

 

このようにTENは危険性が特に高いため注意が必要です。

 

SJS/TENの治療はどれくらい早く始めればいい?

スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症(TEN)は危険な重症薬疹です。

SJSの死亡率は1~5%、TENに進行した場合の死亡率は25~35%と報告されています。

www.derma-derma.net

 

治療の第一選択はステロイド全身投与です。

ところが全身にびらんが拡大した段階でステロイドを投与すると、感染症を併発して逆に死亡率が上昇する可能性が指摘されています。

 

熱傷センターに搬送された重症のTEN患者30人(ステロイドあり15人、なし15人)の調査を見てみましょう。

Ann Surg. 204(5): 503, 1986 PMID: 3767483

 

進行してしまった段階では、ステロイドを投与したほうが死亡率が高いという結果が出ています。

【死亡率】

・ステロイドあり:66%
・ステロイドなし:33%

 

皮疹が広がる前にできるだけ早く治療を開始することが重要です。

それではどれくらい早く治療を始めればよいのでしょうか。

論文を見てみましょう。

 

ステロイドの投与が行われなかったSJS/TEN患者321人の経過が調査されています。

Br J Dermatol. 167(3): 555, 2012 PMID: 22639874

病変が最大に拡大するまでの期間(Duration from onset to maximum detachment):7.6日

 

このように病変が全身に拡大するまでには平均7.6日かかるようです。

治療開始がそれ以降になると死亡率が上昇する可能性があり、発症後7日以内に治療を開始するのが望ましいでしょう。

日本皮膚科学会のガイドラインでも、発症7日前後までの治療開始が推奨されています。

 

実際、TEN患者54症例の解析では、発症から皮膚科受診までの日数と死亡率が相関すると報告されています。

日本皮膚科学会雑誌 130(9): 2059, 2020 NAID: 130007889713

発症から皮膚科受診までの期間

・生存群:5.4日
・死亡群:13.5日
(P=0.003)

 

アレルギー検査を行う時期はいつがいい?

薬剤アレルギーの原因を調べるために検査が行われることがあります。

・即時型→プリックテスト、皮内テスト
・遅延型→DLST、パッチテスト

 

それではこれらの検査はいつ頃行うのがよいのでしょうか。

 

即時型アレルギー

まず即時型アレルギーについて。

検査時期について書かれた総説から引用してみます。

Ann Fr Anesth Reanim. 21(Suppl 1): 7, 2002(PMID:12091990)

Skin tests are best done after a delay of at least six weeks. If necessary, they can be carried outearlier, but with an increased risk of false negative results.

 

皮膚テストは発症から6週後以降に行うことが望ましいようです。

この理由は、放出されたケミカルメディエーターが補充されるまでにある程度の時間を要するからです。

急性期ではケミカルメディエーターが枯渇しており、検査が偽陰性になる可能性があります。

 

遅延型アレルギー

それでは次に遅延型アレルギーについてです。

こちらDLSTに関する報告です。

Allergy 62(12):1439, 2007(PMID: 17983378)

LTT should be performed within 1 week after the onset of skin rashes in patients with MP and SJS/TEN.

 

DLSTは発症1週間以内の陽性率が最も高く、その後は低下していくようです。

ただしDIHSの場合だけは異なっています。

LTT reactions can be exclusively observed 5–8 weeks after onset in DIHS/DRESS.

 

DIHSでは発症直後はDLSTは陰性で、5~8週後に遅れて陽性化するようです。

この理由としてDIHS発症直後は制御性T細胞が活性化しているため、薬剤特異的なT細胞の活性化を阻害する可能性が考えられています。

 

遅延型アレルギーは薬疹の病型によって適切な検査時期が異なります。

通常の薬疹であれば1週間以内が望ましいようですが、DIHSはある程度時間が経ってから検査を行う必要があります。

 

アレルギー検査(遅延型)の陽性率はどれくらい?

遅延型アレルギーの原因を特定するための検査として「DLST」と「パッチテスト」があります。

それではこれらの陽性率はどれくらいなのでしょうか。総説から引用してみます。

治療 89(12): 3281, 2007 NAID: 40015720937

【薬疹検査の陽性率】

・DLST陽性率:40-60%
・パッチテスト陽性率:30-50%

 

このように陽性率は50%程度とあまり高くありません。

あまり検査を当てにしすぎると、陰性の結果が出たときの判断に苦労することになります。

 

DLSTは患者のリンパ球に薬剤を加えて培養を行う検査です。

そのため細胞の増殖に影響を及ぼす薬剤は偽陽性、偽陰性になりやすいとされています。

皮膚科の臨床59(6): 801, 2017 NAID: 40021234114

【偽陰性になりやすい薬剤】

抗癌剤:細胞毒性でSI値↓

抗癌剤はリンパ球に対する細胞毒性があるため数値が低下して偽陰性になりやすいようです。

 

【偽陽性になりやすい薬剤】

MTX:サルベージ回路を活性化しSI値↑
TS-1:サルベージ回路を活性化しSI値↑
NSAIDs:プロスタグランディン阻害でSI値↑

これらの薬剤は様々な機序で細胞の増殖を促進し、偽陽性になりやすいとされています。

特にMTXの偽陽性率は50%と非常に高いようで注意が必要です。

(臨床リウマチ 19(3): 170, 2007 NAID: 130006789737)

 

アレルギー検査(即時型)の陽性率はどれくらい?

即時型アレルギーの検査として皮膚テスト(プリックテスト、皮内テスト)が行われます。

しかしアレルギーを強く疑いながらも検査が陰性になる場合もあり、判断に迷うケースが多いです。

それでは皮膚テストの陽性率はどれくらいなのでしょうか。

具体的な数字が書かれている古い論文を紹介します。

J Allergy Clin Immunol. 60(6): 339, 1977(PMID: 925260)

 

ペニシリンアレルギーの既往がある患者(アナフィラキシー26人、蕁麻疹366人)に対して皮膚テストが行われています。

【皮膚テストの陽性率】

・アナフィラキシー:46%
・蕁麻疹:17%

 

アナフィラキシーの場合でも陽性率はあまり高くないようです。

さらに蕁麻疹での陽性率はかなり低く、皮膚テストで原因を特定するのは難しいかも知れません。

検査が陰性だったとしても、即時型アレルギーは否定できません。