皮膚科の豆知識ブログ

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IL-2Rは悪性リンパ腫の診断に有用なのか?

IL-2レセプター(IL-2R)は悪性リンパ腫の腫瘍マーカーとして使用されています。

しかし様々な疾患で上昇するため、どの程度有用な検査なのかは知られていないように思います。

皮膚悪性リンパ腫を疑ってスクリーニング検査を行ったときにIL-2Rが高値に出ることがありますが、判断に迷うことが多いです。

そこでIL-2Rの感度・特異度を調べた報告を紹介します。

Kawasaki Medical Journal 37(1): 19, 2011

・500以上⇒感度83%、特異度25%(陽性尤度比:1.1)
・1000以上⇒感度59%、特異度59%(陽性尤度比:1.4)
・2000以上⇒感度40%、特異度84%(陽性尤度比:2.5)
・3000以上⇒感度34%、特異度92%(陽性尤度比:4.1)
・4000以上⇒感度28%、特異度96%(陽性尤度比:6.5)
・5000以上⇒感度23%、特異度97%(陽性尤度比:8.8)

 

このデータからは、可能性が大きく上がる(陽性尤度比5以上)のは4000を超えてからのようです。

ただし可能性は高まりますが、非血液疾患でも非常に高くなる症例(劇症肝炎で18100 U/mLなど)が存在し、確定診断は難しようです。

やはり診断には生検が必要で、IL-2Rはあくまでそれを補助するものでしかありません。

 

TARCでアトピーの重症度がわかるか?

アトピー性皮膚炎の病勢を測る指標としてTARCがあります。

しかし測定値が100~30000 pg/mlと非常に幅があるため、目安が分かりにくいです。

数値の目安として、重症度ごとの平均値を調べた報告が参考になります。

J Dermatol 33(4): 300, 2006(PMID: 16674799)

 

健常人39人、軽症アトピー44人、中等症アトピー27人、重症アトピー52人のTARC値が測定されています。

【TARCの平均値(pg/ml)】

・健常人:270
・軽症:1520
・中等症:2600
・重症:8010

 

どうやら2500、8000くらいが重症度の基準になるようです。

ただしカットオフ値は設定されていないため、どちらかというと治療の効果を判定するために使うのが適切な使い方なのでしょう。

 

治療の指標としてはTARC 500 pg/ml以下という数値が示されています(日本皮膚科学会雑誌122(13), 3526)。

かなり厳しめの目標値(タイトコントロール)ですが、参考になります。

 

TARCが薬疹でも役に立つ

DIHSは重症薬疹の一つです。

しかし診断のためには「原因薬剤中止後の経過の遷延」や「HHV-6の再活性化」を確認する必要があり、早期に診断するのは難しい場合があります。

そこでDIHSの発症早期にTARCが役立つことが示された論文があります。

J Dermatol Sci. 69(1): 38, 2013 PMID: 23141052

 

8人のDIHS患者、7人のスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)患者、14人の紅斑丘疹型薬疹患者で、急性期のTARC値が測定されました。

【平均TARC値(pg/ml)】

・DIHS:31259
・SJS:2198
・紅斑丘疹型:2531

 

このようにDIHSではTARCが大きく上昇しています。

5桁のTARC値をみた場合はDIHSを強く疑う必要がありそうです。

TARCが上昇する機序はまだわかっていないようですが、HHV-6の再活性化に先行して上昇するため、早期診断マーカーになるようです。

 

抗BP180抗体の陽性率はどれくらい?

高齢者に多い水疱性類天疱瘡(類天疱瘡)は、高齢化に伴い増加しています。

高齢者施設では、入所者の1%に類天疱瘡がみられるという報告もあります(MB derma: 161 p39-45, 2010.)。

 

診断基準を満たすためには皮膚生検が必要なのですが、皮膚科受診が難しい場合もあるでしょう。

そんなときは血液検査で診断できれば便利です。

そこで類天疱瘡を診断するための血液検査として抗BP180抗体があります。

 

それでは抗BP180抗体でどれくらい類天疱瘡を診断できるのでしょうか。

検査の感度と特異度を調べた報告があります。

J Dermatol Sci 41: 21, 2006(PMID: 16364599)

 

94人の類天疱瘡患者血清と、336人の健常人血清に対して、抗BP180抗体の検査(ELISA法)が行われました。

・感度:69.9%
・特異度:98.8%

(陽性尤度比:58、陰性尤度比:0.3)

 

特異度はなかなか高く、陽性であれば類天疱瘡と考えてよさそうです。

ところが感度があまり高くないことに注意が必要です。

抗BP180抗体が陰性であっても類天疱瘡を否定することはできません。

 

さらに最近増えているのは薬剤性の類天疱瘡です。

糖尿病の治療薬であるDPP4阻害薬は類天疱瘡を引き起こします。

薬剤性類天疱瘡では抗BP180抗体の陽性率は低いようです。

Br J Dermatol. 178(6): 1462, 2018(PMID: 29478242)

【DPP-4阻害薬内服中に発症した類天疱瘡】

抗BP180抗体の陽性率:58%

 

抗BP180抗体の検査を行う際には偽陰性に注意が必要です。

 

蛍光抗体直接法の生検を行う部位はどこがいい?

血管炎や水疱症の診断では、生検組織を用いて蛍光抗体直接法を行う必要があります。

それでは生検を行う部位はどこがよいのでしょうか。

論文を調べてみました。

 

血管炎

IgA血管炎の診断では、蛍光抗体法で血管壁へのIgA沈着を証明します。

しかしどこを生検してもよいというわけではありません。

IgA陽性率と皮疹出現からの経過時間の関連を調べた報告があります。

Arch Dermatol. 134(3): 309, 1998 PMID: 9521029

 

血管炎患者102人に対して行われた蛍光抗体直接法の結果です。

48時間以降はIgA陽性率が低下し、72時間以上経過した病変ではほとんどが陰性になっています。

 

つまり皮膚の血管壁に沈着したIgAは48時間程度で破壊されてしまうということです。

したがって生検は出現したばかりの初期の紫斑から行うことが重要になります。

 

水疱症

水疱症の診断では、表皮や基底膜へのIgG沈着を証明する必要があります。

生検は水疱から行うのがよいと思いがちですが、実はそうでもないのです。

蛍光抗体直接法の陽性率を非水疱部、水疱部、水疱辺縁部の3か所で比較した論文があります。

JAMA Dermatol. 155(2): 158, 2019 PMID: 30624575

 

水疱性類天疱瘡患者343人に行われた蛍光抗体直接法の結果です。

意外にも水疱部の陽性率は非水疱部より低く、一番高いのは水疱辺縁部となっています。

【蛍光抗体直接法の陽性率】

・非水疱部:81%
・水疱部:76%
・水疱辺縁部:90%

 

そのため蛍光抗体直接法は水疱周辺の皮膚で行うのがよさそうです。