皮膚科の豆知識ブログ

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検査の性能がわかる「尤度比」とは?

 

検査の性能は、感度と特異度からある程度わかります。

しかし「感度38%、特異度96%」の検査と言われても、イメージがつきにくいのではないでしょうか。

そんなときに便利な尤度比について解説します。

 

尤度比とは

 

尤度比は感度と特異度から計算することができます。

 

・陽性尤度比=感度/(1-特異度)
・陰性尤度比=(1-感度)/特異度

 

そして尤度比から検査後の疾患の確率を知ることができるのです(検査前確率が5~95%の場合)。

【陽性尤度比】

•10~:確定診断的な所見
•5~10:可能性をかなり上げる
•2~5:可能性を上げる
•1~2:可能性を変えない

 

【陰性尤度比】

•~0.1:除外診断的な所見
•0.1~0.2:可能性をかなり下げる
•0.2~0.5:可能性を下げる
•0.5~1:可能性を変えない

(日本内科学会雑誌 96:831-832, 2007、ジェネラリストのための内科診断リファレンス)

 

尤度比5以上、0.2以下からが質のよい検査。

尤度比10以上、0.1以下からが非常に質のよい検査と考えられています。

 

最初に示した感度38%、特異度96%の検査の尤度比を計算してみましょう。

 

•陽性尤度比:1.55(1~2=可能性を変えない)
•陰性尤度比:0.12(0.1~0.2=可能性をかなり下げる)

 

この検査が陽性でも疾患の可能性は変わらず診断はできません。

一方、陰性の場合は可能性がかなり下がり、除外診断することができます。

このように感度・特異度ではなく尤度比で考えると、検査がわかりやすくなると思います。

 

さらに詳しく

 

もう少し詳しく見てみましょう。

尤度比から検査後の疾患の確率を数値として知ることができます。

J Gen Intern Med 17:646-649,2002(PMID:12213147)

【陽性尤度比】

10→ +45%
5 → +30%
2 → +15%
1 → +0%

【陰性尤度比】

1 → -0%
0.5 → -15%
0.2 → -30%
0.1 → -45%

 

(検査前確率が5~95%の場合)

 

たとえば尤度比10の検査が陽性であれば、確率はだいたい45%増すということです。

検査前の確率が50%であれば、検査後の確率は95%でほぼ確定診断することができます。

 

そして陰性尤度比0.1の検査が陰性であれば、確率は45%減ります。

検査前の確率が50%であれば、検査後の確率は5%でほぼ除外診断できます。

 

検査の性能を知りたいときは、感度・特異度から尤度比を計算してみてください。

 

ASOはどんなときに使うのか?

溶連菌感染症を診断するための血液検査としてASOがあります。

ASOはどのような場面で使用するのでしょうか。

 

A群溶連菌が産生する活性蛋白streptolysin Oに対するIgG抗体がASO(anti-streptolysin O)です。

IgG抗体なので上昇するまでに時間がかかることに注意が必要です。

 

上昇するまでにどれくらいの時間がかかるのでしょうか。

それを調べた論文があります。

Br J Rheumatol. 37(3): 335, 1998(PMID: 9566678)

【溶連菌感染後のASOの陽性率】

・1週後:35%

・2週後:45%

・3週後:65%

・4週後:95%

・8週後:100%

 

このように感染後1週間くらいから上昇し、約4週間でピークになるようです。

蜂窩織炎などでASOが測定されていることがありますが、ASOでは急性期の溶連菌感染症は診断できないことに注意が必要です。

 

一方、溶連菌感染後に生じる結節性紅斑やIgA血管炎などの疾患で、感染の証明のために使用する場合は有用です。

 

マイコプラズマ抗体検査はどう使う?

マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニエ)感染症はスティーブンスジョンソン症候群の原因にもなるため、皮膚科でも重要な感染症です。

肺炎のイメージが強いですが、肺炎に至るのは3~10%で、ほとんどが感冒症状のみなのだそうです(Chest. 95(3) 639, 1989 PMID:2646077)。

そのため皮疹の原因をつきとめるためには、抗体検査が必要になる場合があります。

しかし抗体検査にはいろいろな種類があり、使い分けや判定法などを知っておかなければなりません。

 

まず抗体検査にはCF法とPA法の2種類があります。

  1. CF法(主にIgG)
  2. PA法(主にIgM)

CF法とPA法はIgMとIgGの両方を反映した抗体検査ですが、CF法は主にIgGを、PA法は主にIgMを調べています。

そのため現時点での感染を知るためには、PA法のほうが良いようです。

 

それではPA法の感度・特異度はどれくらいなのでしょうか。

Clin Vaccine Immunol. 13(6): 708, 2006(PMID: 16760332)

・40倍:感度89.4%、特異度83.7%(陽性尤度比5.56)

・320倍:感度56.1%、特異度 97.4%(陽性尤度比18.7)

 

抗体陽性(40倍)だけでは特異度が低く、診断確定は難しそうです。

診断基準では320倍以上の数値が必要とされています。

 

またPA法は主にIgMを測定していますが、IgGも一部含まれているため、ペア血清での診断も可能です。

・ペア血清4倍以上:感度 88.5%、特異度100%

 

可能であればペア血清での診断が望ましいでしょう。

 

抗核抗体が陽性だけど症状がないとき

抗核抗体が陽性、しかし臨床症状は無いという状況に遭遇することがあります。

健常者での抗核抗体の陽性率はどれくらいなのでしょうか。

Arthritis Rheum. 40(9): 1601, 1997(PMID: 9324014)

 

健常人120人に対して抗核抗体の検査が行われています。

【健常者の抗核抗体陽性率】

・陰性:68%
・陽性:32%

(40倍以上:32%、80倍以上:13%、160倍以上:5%、320倍以上:3%)

 

以上のように抗核抗体は健常者でも陽性になることがあるため、判断はなかなか難しいです。

そのため有意な上昇は160倍以上とされています。

 

しかしその所見はSLEの発症を予見するものかもしれません。

SLEの初期は抗核抗体のみ陽性になり、その後に特異抗体が検出されるようになるそうです。

N Engl J Med. 349(16): 1526, 2003

①抗核抗体陽性(2年前)

②dsDNA抗体陽性(1年前)

③Sm抗体陽性(半年前)

④発症

 

とはいえ抗核抗体の判断には悩むことが多いです。

臨床症状がない患者に抗核抗体をオーダーすることは控えたほうがいいでしょう。

 

成人スティル病でフェリチンはどれくらい有用なのか?

成人スティル病ではフェリチンが上昇することが知られていますが、どれくらい有用なのでしょうか。

フェリチンの感度・特異度について書かれた総論を紹介します。

日本内科学会雑誌 92(10): 1977, 2003 NAID: 10011933566

・フェリチン上昇 ⇒ 感度91.9%、特異度47.0%

(陽性尤度比:1.73、陰性尤度比:0.17)

 

フェリチンは様々な疾患で上昇するため特異度は低く、陽性尤度比は1.73と診断にはあまり役に立たなさそうです。

 

もう少しフェリチンが高ければどうでしょうか。

 ・フェリチン5倍以上に上昇 ⇒ 感度74.8%、特異度83.2%
(陽性尤度比:4.45)

・フェリチン10倍以上に上昇 ⇒ 感度58.8%、特異度88.5%
(陽性尤度比:5.11)

 

この結果から、正常上限の5倍以上が診断の参考項目、10倍以上は診断価値が高いとされています。

SRLのホームページによるとフェリチンの正常上限値は男性340ng/mL、女性114ng/mLです。

・5倍以上⇒男性1700ng/mL以上、女性570ng/mL以上

・10倍以上⇒男性3400ng/mL以上、女性1140ng/mL以上

 

またフェリチン高値と判断する基準は1000 ng/ml以上と書かれた教科書もあります。

「高値っていうのは何千以上でしょうか?」

「1000以上ですね。1000超えてたら、何かが変だと思ったらいいんじゃないでしょうか。」

ジェネラリストが知りたい膠原病ホントのところ

 

さらに5000 ng/ml以上になると、ほぼ成人スティル病と血球貪食症候群に限られるそうです。

5000 ng/ml以上をみたときには鑑別は成人スティル病と、血球貪食症候群にほぼ限られる。

Fever 発熱について我々が語るべき幾つかの事柄

 

とはいえフェリチンのみでの確定診断、除外診断は難しそうです。

成人スティル病の診断ではフェリチン以外の臨床症状を正確に把握することが先決です。