皮膚科の豆知識ブログ

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【医師国家試験皮膚科領域①】臨床で役立つ解説-総論

今回は医師国家試験に出題された皮膚疾患の写真から、皮膚科診断について解説したいと思います。

医師国家試験皮膚科領域の解説 

国試の皮膚科の分野では症例写真が数多く出てきますが、写真から診断することは難しいのではないでしょうか。

過去問の写真を丸暗記するか、問題文から疾患を推測するか。

合格のためにはそれで十分だと思います。

 

 

しかしせっかくなので、将来臨床で役立つ皮疹のみかたを勉強してみてはいかがでしょうか。

まず以下の2つの写真をみてください。診断はわかるでしょうか。

医師国家試験皮膚科領域の解答の図

 

これらの紅斑の違いは皮疹の表面の性状です。

よく見ると、Aは表面がツルツルしていて、Bは表面がザラザラしているのがわかると思います。

答えはAが薬疹、Bが湿疹です。

 

組織学的な皮疹のみかた

この違いが皮膚科診断では非常に重要になります。

それではなぜこのような違いがあるのでしょうか。 

少し病理組織学的に考えてみましょう。

 

皮膚は3層構造になっています。

外側から表皮、真皮、皮下組織です。

皮膚の模式図

 

表面がザラザラしているのは、一番外側の表皮に病変があることを表しています。

一方表面がツルツルしているのは、病変が表皮にはなく、真皮のみに存在していることを表しています。

皮膚科診断学の図

 

つまり表面の性状から病変が存在する深さが分かるということです。

さらにこの深さの違いがなぜ起こるのかを考えてみましょう。

 

接触皮膚炎などの湿疹は、原因物質が体の外からやってきます(外因性)

そのため皮膚の外側の表皮に病変が生じます。だから表面がザラザラしています。

医師国家試験湿疹の図

 

一方薬疹は、摂取された原因物質が体の中からやってきます(内因性)

そのため皮膚の内側の真皮から病変が生じます。だから表面はツルツルです。

医師国家試験薬疹の図

 

つまり病変の深さがわかれば、皮疹の原因を推測することができるのです。

 

まとめと復習

もう一度最初の写真を見てみましょう。

 

表面がツルツルしているAは真皮に病変があり、原因物質は体の中からやってきたと考えられます。この場合は、まず薬疹を考えます。

 

表面がザラザラしているBは表皮に病変があり、原因物質は体の外からやってきたと考えられます。この場合は、まず湿疹を考えます。

 

それでは次の写真で練習してみてください。どちらが湿疹で、どちらが薬疹かわかるでしょうか。

医師国家試験皮膚科領域の解説の図

 

答えは

A:薬疹、B:湿疹です。

 

いかがでしょうか。

例外も多いのですが、まずこの原則を覚えておけば、皮膚科診断がわかりやすくなると思います。

 

・表面がザラザラ→表皮の病変(湿疹)

・表面がツルツル→真皮の病変(薬疹)

 

これからこの原則を使って、他の疾患についても解説していきます。

つづく

www.derma-derma.net

 

梅毒の検査が変わった

最近梅毒の検査法が変わっています(用手法→自動化法)。

それに伴っていくつかの変化があり、教科書の記載内容が古くなっています。

そのため知識をアップデートしておく必要があります。

 

まず治療効果判定が「RPR 1/4以下」から「RPR半分以下」に変更されていることに注意です。

梅毒診療ガイド2018

【治療効果判定】

<旧検査法(倍数希釈)>
RPRが1/4以下に低下

<新検査法(自動化法)>
RPRが半分以下に低下

 

次に誰もが知っている梅毒検査解釈の表があります。

しかし新しい検査法では解釈に注意が必要です。

日本性感染症学会誌29(1): 53, 2018

【陽性になる順番】

<旧検査法(倍数希釈)>
RPR→ TP抗体(TPHA)

<新検査法(自動化法)>
TP抗体(TPLA)→RPR

 

新検査法ではTP抗体の方が先に陽性になることが多いようです。

そのため1期梅毒でTP抗体のみ陽性(RPR陰性)の症例が増加しています(25%程度)。

【1期梅毒の抗体検査】

・RPR、TP抗体陰性:6%
・TP抗体のみ陽性:25%
・RPR、TP抗体陽性:69%

 

表ではSTS陰性、TP抗体陽性は「梅毒治癒後」となっていますが、新しい検査法では「感染後早期」の可能性があります。

STS

TP抗原系

結果の解釈

非梅毒

生物学的偽陽性

梅毒

梅毒初期、梅毒治癒後

 

国立感染症研究所のホームページにもその旨が記載されています。

従来の希釈倍率法では梅毒感染初期において, まず, RPRが陽性を示すようになり, その後TP抗原法も陽性を示すとされてきた。しかし, 自動化法ではTP抗原法の方が先に陽性を示すこともあり, 検査結果の解釈に注意を要する。

 

疥癬はどれくらい見逃してしまうのか?

私たち皮膚科医を最も怯えさせる疾患が疥癬です。

一見して湿疹や痒疹と見分けがつきづらい。

よくよく手や陰部を観察すれば、疥癬トンネルや疥癬結節が見つかりますが、注意していないと見逃してしまいます。

疥癬は忘れた頃にやってくる。

常に頭の片隅に置いておく必要があります。

 

疥癬の診断法は疥癬虫や虫卵を皮膚から直接検出することです。

ところが必ず見つかるわけではありません。

疥癬虫の寄生数は、多くの症例で1〜5匹と少数であるためです(衛生動物 43(2): 117, 1992)。

 

それでは実際の検出率はどれくらいなのでしょうか。

いくつかの論文を見てみましょう。

ある論文では、137人に検査を行い陽性は81人(検出率60%)と報告されています。

臨床皮膚科33(2), 155, 1979. (NAID)40003792984

 

また別の論文では、57人に対して検査を行い陽性は39人(検出率68%)と報告されています。

STD 70(1): 19, 1989

 

このように検査の感度は60~70%程度のようです。

一度陰性であっても安心せず、複数回の検査を行う必要があります。

 

しかし最近はダーモスコピーで確認する方法が確立してきています。

ダーモスコピーを併用すると、検出感度が47%から84%に上昇したという報告があります。

(Ann Dermatol. 24(2): 194, 2012 PMID: 22577271)

これからは検出率は上がってくるかもしれません。

 

マダニに咬まれたらどうするか?

マダニ刺症の対応法は人によって微妙に異なっています。

そこで虫の大家・夏秋優先生の「マダニ刺症への対応提言」をまとめてみました。

Visual dermatology 17(11): 1064, 2018

 

皮膚に吸着したマダニは除去する必要があります。

それでは除去はいつすればよいのでしょうか。

Q:マダニはすぐに除去する必要があるのか?
A:除去は1~2日以内であればいい。

 

虫体は即座に除去する必要はなく、1~2日以内でいいそうです。

 

次に口器が皮膚に残ってしまった場合はどうすればいいのでしょうか。

Q:口器が皮膚に残った場合はどうするか?
A:異物肉芽腫を生じた場合は除去が必要。しかし必発ではなく対応を急ぐ必要はない。

 

口器が皮膚に残存した場合も異物肉芽腫は必発ではなく、必ずしもその場で除去する必要はないようです。

とりあえず様子をみて、異物肉芽腫が生じた際に対応してもよいでしょう。

 

次に予防的抗菌薬が必要かどうかです。

・感染症発症の確率は低く、予防的抗菌薬投与は推奨されない

・感染症が強く懸念される場合は、ドキシサイクリン200mgの単回投与を行ってもよい(エビデンスはない)

 

 基本的に予防的抗菌薬は推奨されていないようです。

ただしドキシサイクリンの単回投与を行ってもよいとされています。

 

これらの指針は現場で役に立ちそうです。

 

スミスリン耐性シラミの治療法

最近ピレスロイド(スミスリン)耐性のシラミが増加しているそうです。

スミスリンシャンプーが効かないときどうすればいいのか、海外のガイドラインを調べてみました。

 

まずカナダ小児科学会で推奨されているのは2つの薬剤です。

Paediatr Child Health. 23(1): e18, 2018

【カナダ小児科学会】
①ジメチコンローション
②ミリスチン酸イソプロピルローション

 

次にCDCのガイドラインでも2つの薬剤が推奨されています。

MMWR Recomm Rep 64(3): 101, 2015

【CDCガイドライン2015】
①マラチオンローション
②イベルメクチン内服

 

このように効果のある薬剤はいくつかあるようです。

それではこれらを日本で使用できるのでしょうか。

 

・ジメチコン(2021年8月発売)
・ミリスチン酸(日本では入手不可)
・マラチオン(日本では入手不可)
・イベルメクチン内服(保険適応外)

 

これまでは日本では入手できる薬剤はなく個人輸入するしかありませんでした。

しかし2021年8月にジメチコンローション(アース シラミとりローション)が発売され、今後は治療が楽になりそうです。