皮膚科の豆知識ブログ

日々の小さな疑問を解決する論文を紹介。講演、お仕事の依頼は「お問い合わせ」からお願いします。

脂漏性皮膚炎の予防法

脂漏性皮膚炎は皮脂の過分泌が原因とされています。

皮膚の常在菌(マラセチア)によって皮脂が刺激性の脂肪酸などに分解され、皮膚の炎症を引き起こします。

そのため脂漏性皮膚炎の予防には、抗真菌薬によるマラセチアのコントロールが有効です。

具体的な効果を論文で見てみましょう。

Br J Dermatol. 132(3): 441, 1995 PMID: 7718463

 

症状が軽快した頭部の脂漏性皮膚炎患者312人に対して、週1回のケトコナゾールシャンプーとプラセボのシャンプーが使用されました。

そしてその後の再発率が調査されています。

【再発率】

・プラセボシャンプー :47%

・ケトコナゾールシャンプー :19%

 

このようにケトコナゾールシャンプーを週1回使用した群では、プラセボと比較して再発率が低くなっています。

 

ただし日本ではケトコナゾール入りのシャンプーは販売されていません。

そのためケトコナゾールローション(ニゾラールローション)が使用するしかありません。

 

また医薬部外品として発売されているミコナゾールシャンプー(フルフルシャンプー)が使用されることもありますが、ケトコナゾールほどの効果があるかはわかりません。

 

蕁麻疹の原因はなに?

蕁麻疹の診療で最も多く遭遇するのが「原因は何ですか?」という質問です。

世間一般では蕁麻疹はすべてアレルギーによって起こると思われています。

そのためアレルギー検査を希望されることも多いです。

 

それではアレルギーによる蕁麻疹の割合はどれくらいなのでしょうか。

論文を見てみましょう。

アレルギー 55(2): 134, 2006 NAID: 110004665194

 

広島大学病院を受診した蕁麻疹患者260人の病型が調査されています。

・原因不明(特発性):73%
・刺激誘発性:23%
・その他:4%

 

このようにはっきりと誘因が分かる蕁麻疹は2割程度で、70%以上が原因不明の特発性です。

この中でアレルギー性はどらくらいあるのでしょうか。

刺激誘発性の内訳

・物理:16.5%
(機械7%、コリン7%、寒冷2%、日光0.5%)

・外来物質:6.5%
(アレルギー5.5%、その他1%)

 

アレルギー性の割合は5%程度です。

患者自身が気づいていない抗原によるⅠ型アレルギーの症例を見逃してはいけません。

ですが病歴から明らかな誘発因子が認められない場合は、網羅的なアレルギー検査を行う意義は乏しいと考えられます。

 

蕁麻疹は感染、ストレス、疲労などにより悪化することが多く、患者の46%が発症前に何らかの感染症状を示したという報告があります。

J Dermatol. 21(2): 73, 1994 PMID: 8182214
.

原因不明の症例は、これらが間接的なマスト細胞活性化因子になっているのかもしれません。

したがって原因を追究することよりも、内服を継続して行うことが大事ということを十分に説明する必要があるでしょう。

 

蕁麻疹が治るまでどれくらいかかる?

急性蕁麻疹はどれくらいの期間で治癒するのでしょうか。

それを調べた論文があります。

J Dermatol. 21(2): 73, 1994 PMID: 8182214

(こちらの文献に詳しい数値の記載あり:臨床医薬 17(5): 727, 2001

 

急性蕁麻疹患者50人に抗ヒスタミン薬を投与し、治癒までの経過を追跡した前方研究です。

治癒までの期間

・1週間以内:70%
・2~6週間以内:24%
・6週間以上:6%

 

蕁麻疹は通常は1週間以内に治癒することが多いようです。このような経過を示すと患者は安心感を持てるでしょう。

 

とはいえ6%の患者では症状が続き慢性蕁麻疹へ移行してしまいます。

慢性蕁麻疹では数ヶ月から数年にわたって症状が続く例が多いようです。

 

慢性蕁麻疹患者78人を1年間追跡した前方研究では、1年以内に治癒する患者は約半数と報告されています。

J Am Acad Dermatol. 45(3): 387, 2001 PMID: 11511835

1年以内に治癒した慢性蕁麻疹患者:47%

 

さらに症状が長期にわたる場合もあるようです。

慢性蕁麻疹患者139人を5年間追跡した前方研究では、約14%が5年を超えても治癒しなかったようです。

Allergy. 59(8): 869, 2004 PMID: 15230821

1年以内に治癒:25%(軽症例では32%)
2年以内に治癒:48%(軽症例では100%)
5年以内に治癒:86%

 

そのため慢性蕁麻疹の場合は治療目標を2段階にわけて考える必要があります。

最初の目標は、抗ヒスタミン薬の内服を継続することで皮疹の出現を完全に抑制することです。

その後、無治療で症状が現れない状態を目指します。

 

蕁麻疹に抗ヒスタミン薬はどれくらい効く?

蕁麻疹治療の第一選択は抗ヒスタミン薬です。

それではどれくらいの効果があるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

臨床皮膚科. 57(5): 40, 2003 NAID: 10012879599

 

蕁麻疹に対する抗ヒスタミン薬の臨床試験の結果がまとめられています。

【症状が中等度以上改善した患者(2週間後)】

・アレジオン:81%
・エバステル:80%
・ジルテック:82%
・アレロック:78%
・クラリチン:81%

 

いずれの薬剤も有効率は8割程度のようです。

つまりほとんどの患者に抗ヒスタミン薬は有効と考えられます。

 

しかし薬剤の効果が乏しい患者が2割程度存在します。

その中で1割の患者は抗ヒスタミン薬が無効です。

【症状が改善しなかった患者(2週間後)】

・アレジオン:9%
・エバステル:9%
・ジルテック:7%
・アレロック:12%
・クラリチン:9%

 

そのように効果が乏しいor無効の場合は2つの選択肢があります。

 

  1. 種類の変更
  2. 増量

 

まず抗ヒスタミン薬の効果には個人差があり、特定の薬剤で高い効果が得られることがあります。

そのため一種類の薬剤で十分な効果が得られない場合でも、他の種類の抗ヒスタミン薬に変更してみる価値があります。


また抗ヒスタミン薬を増量することでも効果を期待できます。

システマティックレビューでは、標準的な用量に反応しなかった患者の約63%で、増量によって痒みが抑制されることが示されています。

Br J Dermatol. 175(6): 1153, 2016 PMID: 27237730

 

抗ヒスタミン薬の効果が乏しい場合はこれらの方法を試してみるとよいでしょう。

 

睡眠薬代わりに第一世代抗ヒスタミン薬を出す?

第1世代抗ヒスタミン薬には鎮静作用があり、鎮静性抗ヒスタミン薬と呼ばれています。

Allergy. 65(4): 459, 2010 PMID: 20146728

眠気の発生率

・ポララミン:40%
・アタラックス:80%

 

そのため基本的には第2世代抗ヒスタミン薬が使用されます。

ところが内科医101名へのアンケート調査では、第1世代抗ヒスタミン薬を第一選択として使用している医師が15%いるようです。

J Environ Dermatol Cutan Allergol. 33(3): 153, 2009 NAID: 10025618750

治療の第一選択

・第2世代抗ヒスタミン薬:83%
・第1世代抗ヒスタミン薬:15%
・その他:2%

 

どうやら「痒くて眠れない患者が眠れるからいい」という考えで睡眠薬代わりに処方されるケースが多いようです。

 

ですが本当に「眠れるからいい」のでしょうか。

論文を紹介します。

Curr Med Res Opin. 22(7): 1343, 2006 PMID: 16834833

 

健常人18人に対して眠前に抗ヒスタミン薬を投与し、ポリソムノグラフィーで睡眠が調査されています。

(1日目:プラセボ、2日目:第2世代(アレグラ)、3日目:第1世代(ポララミン))

REM睡眠の時間

・プラセボ:93分
・第2世代抗ヒスタミン薬:96分
・第1世代抗ヒスタミン薬:78分

 

このように第1世代の抗ヒスタミン薬はREN睡眠を障害し短縮します。

つまり睡眠の質を低下させてしまうのです。

したがって睡眠薬代わりに使うのには不適切です。

第一世代抗ヒスタミン薬

Allergy. 65(4): 459, 2010 PMID: 20146728

 

さらに主観的な眠気と鎮静作用は必ずしも相関しません。

眠気を感じていない患者でも,自動車運転などの認知機能は低下している可能性があるのです。

 

患者が眠れないのは蕁麻疹の皮疹が痒いからであって、不眠症だからではありません。

したがって私は第1世代抗ヒスタミン薬を夜間不眠対策で用いることはほとんどありません。