皮膚科の豆知識ブログ

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ステロイドは1日何回塗ればいい?

ステロイドはどのくらいの量を1日何回塗ればよいのでしょうか。

添付文書には「1日1~数回適量を塗布」と記載されていることが多く不明瞭です。

今回はステロイドの外用回数について考えてみます。

 

1日に何回も外用するのはかなり面倒です。

実際、1日2回の外用は1回に比べてアドヒアランスが半分程度に低下するというデータがあります。

【アドヒアランス(乾癬患者)】

・1日1回:82.3%
・1日2回:44.0%

Arch Dermatol. 140(4): 408, 2004(PMID)15096368

 

それでは1日1回でも効果は期待できるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

アトピー性皮膚炎に関する臨床試験を集積したシステマティックレビューです。

Health Technol Assess. 4(37): 1, 2000(PMID)11134919

 

メタアナリシスは行われていませんが、いずれの試験でも1日1回と2回の間に有意な差はないようです。

 

この結果からは1日1回でも効果は期待できると考えられます。

 

ただアトピーのガイドラインでは、急性期は1日2回の外用が推奨されています。

急性増悪した皮疹には1日2回外用させて早く軽快させ,軽快したら寛解を目指して1日1回外用させるようにするのがよい

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021

 

急性期には1日2回外用が勧められるが,1日1回でも効果は期待できると考えられる

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021

 

確かに1日1回よりも2回の外用のほうが皮疹の改善は早い実感があります。

私は初診時には1日2回の外用を指示し、その後の経過に応じて外用回数を変更しています。

とはいえ1日2回の指示で塗らないよりも丁寧に1回塗ったほうがはるかによいため、患者の性格や外用範囲に応じて回数を調整するのが望ましいでしょう。

 

次回の記事では外用量について解説します。

www.derma-derma.net

 

 

ステロイド外用薬は1回に何gくらい塗ればいい?

ステロイド外用薬はどのくらいの量を1日何回塗ればよいのでしょうか。

添付文書には「1日1~数回適量を塗布」と記載されていることが多く不明瞭です。

前回の記事では外用回数について解説しました。

www.derma-derma.net

 

今回はステロイドの外用量について考えてみます。

 

finger tip unit(FTU)

海外にFTU(finger tip unit)という概念があり、外用量の1つの目安になります。

Clin Exp Dermatol. 16(6): 444, 1991 PMID: 1806320

 

具体的には示指の先端から第一関節までチューブから押し出した量(約0.5g)が、手のひら2枚分に対する適量とされています。

 

全身に塗ると40.5FTU。

1FTU=0.5gで計算すると約20gになります。

 

このようにFTUは患者の理解を得やすく、外用指導の便利なツールとして用いることができます。

 

ただし日本のチューブは欧米より小さいため、FTUが0.5gより少ない可能性も指摘されています。

【1FTUの比較】

・5gチューブ=約0.2g 
・10gチューブ=約0.3g
・25gチューブ=約0.5g

治療. 91: 1375, 2009 NAID: 50007064327

 

つまりFTUで外用すると必要量より少なくなる可能性があるのです。

(5gチューブ:40.5FTU=8g)

 

日本でFTUは使えるか?

それでは日本ではFTUは使えないのでしょうか。

別の論文を見てみましょう。

(広範囲皮膚炎におけるステロイド外用剤必要量の研究 皮膚科紀要. 82(1): 75, 1987)

 

広範囲皮膚炎患者41人に対してステロイドを1日2回外用し、皮疹改善に要した外用量を調べた研究です。

体表面積9%あたりの1日平均外用剤量:2.31~2.28g

全身の1日平均外用剤量:25g(1回12.5g)

 

全身に1日2回で25gなので、1回あたりの外用量は12.5gになります。

海外の基準(20g)と比べると約半分の量ですが、それでも十分な効果は望めるようです。

つまり日本のチューブでFTUを用いると、「1FTU=0.5gより少ないが十分な効果は期待できる」と考えられます。

 

私は全身に使用する場合、以下の教科書の記載を参考にして1回10g(上半身に5gチューブ1本、下半身に5gチューブ2本)と指導することが多いです。

私の経験では、通常の体格の成人では1回5gチューブを上半身、さらに5gチューブを下半身に要し、全体で10g必要となる。したがって1週間で140g必要となる。

(アトピー性皮膚炎が楽しくなる)

 

ステロイド外用薬の副作用はどれくらいの期間で出る?

ステロイド外用の代表的な副作用は、塗った部位の「皮膚萎縮」と「皮膚バリア機能低下」です。

それではこれらの副作用はどれくらいの期間で出現するのでしょうか。

 

皮膚萎縮

 

まず皮膚萎縮についての論文を見てみましょう。

Skin Pharmacol Appl Skin Physiol. 15(2): 85, 2002(PMID)11867964

 

健常人24人の前腕にワセリンとステロイド(very strong~strongクラス)を1日2回6週間外用し、「皮膚の厚さの計測」と「肉眼的所見の観察」が行われています。

 

まず皮膚の厚さから見てみます。

以下のようにステロイド外用2週間程度で皮膚の菲薄化が生じています。

 

ただし肉眼的な皮膚萎縮が観察されたのは2人で29日目からだったようです。

Two subjects developed slight, just identifiable atrophic changes in the test fields. These were first documented on day 29.

 

つまり肉眼的な副作用が生じるのは1か月くらいからと言えるでしょう。

 

バリア機能

 

それではバリア機能についてはどうでしょうか。

Br J Dermatol. 170(4): 914, 2014(PMID)24328907

 

20人のアトピー患者の前腕にステロイド(strongクラス)を1日2回外用し、4週後のTEWL(経皮水分蒸散量:バリア機能の指標)が調べられています。

以下のようにTEWLは有意に上昇しており、1か月間使用するとバリア機能が低下することが示されています。

【TEWL】

(外用前)12.6 →(外用4週後)13.2

P=0.038

 

まとめ

 

これらの結果を総合すると、外用の副作用は1か月くらいから出現するようです。

3週間以内であれば比較的安全に使用できるでしょう。

 

ただし吸収率が高い顔面ではもっと早く副作用が出現する可能性があります。

そのためアトピー性皮膚炎ガイドラインには、顔面に対する1日2 回の外用は1週間程度にとどめるように記載されています。

高い薬剤吸収率を考慮して,原則としてミディアムクラス以下のステロイド外用薬を使用する.

その場合でも 1日2回の外用は 1 週間程度にとどめ,間欠投与に移行し,休薬期間を設けながら使用する.

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2008

 

このような副作用を予防するために間歇外用が有効と言われています。

次回の記事で紹介します。

www.derma-derma.net

 

ステロイド外用薬で全身性の副作用は出る?

ステロイドには様々な全身性副作用があります。

しかし外用で体内に吸収されるステロイド量は少なく、問題になることは多くはありません。

それでは全身性副作用に注意する必要がある使用量はどれくらいなのでしょうか。

論文を見てみましょう。

Therapeutic Research. 8(1): 222, 1988

 

3~6週間ステロイド外用(very strongクラス)を行い、副腎皮質機能の抑制の指標となる血中コルチゾール値が測定されています。

 

1日の使用量ごとに結果をまとめたのが以下のグラフになります。

使用量が1日10g以下であればコルチゾール値の低下はありません。しかし20g以上では1週間後から値が低下しています。

 

この結果からは、1日の使用量が10g以下であれば全身性副作用の可能性は低いと考えられます。

 

ただしstrongestクラスの場合は注意が必要です。

デルモベート1週間外用とリンデロン1週間内服のコルチゾール値を比較したデータを見てみましょう。

以下のようにデルモベート10gがリンデロン1錠に相当するようです。

 

つまりstrongestクラスは10g以下であっても全身性副作用が生じる可能性があります。

安易には使用せず、使う場合も短期間に留めるほうがよいでしょう。

 

外用ステロイドも漸減したほうがいい?

自己免疫疾患に内服ステロイドを使用する際、症状が改善した後も急に中止せず漸減するのが一般的です。

そして減量の際、副作用を軽減するために間歇投与(2日に1回など)が行われます。

 

外用薬を使用する場合にも漸減は必要なのでしょうか。

そして間歇投与で副作用は軽減するのでしょうか。

 

ステロイド外用薬を漸減(間歇投与)した論文を見てみましょう。

 

副作用

まず副作用に関してアトピー性皮膚炎の論文を見てみます。

Br J Dermatol. 147(3): 528, 2002(PMID: 10354080)

 

ステロイド(very strongクラス)の外用で皮疹が消退したアトピー患者348人の調査です。

プラセボ群119人とステロイド群229人に分けられ、もともと皮疹があった部位に対して以下のような間歇外用が行われました。

 

週4回外用1か月間→週2回外用4か月間

 

結果ですが、いずれの群でも皮膚萎縮は生じておらず、副作用に関しては有意差はなかったようです。

【副作用】

・プラセボ群:皮膚萎縮0%、皮膚感染症12%
・ステロイド群:皮膚萎縮0%、皮膚感染症14%
(有意差なし)

 

週2回の外用であれば、長期間使用しても副作用は少ないと考えてよさそうです。

 

漸減の有効性

 

次に漸減の有効性について見てみます。

 

アトピー性皮膚炎

先ほどのアトピー性皮膚炎に関する論文です。

Br J Dermatol. 147(3): 528, 2002(PMID: 10354080)

 

以下のようにステロイド間歇外用を行った群では再燃率が低くなっています。

【再燃率】

・プラセボ群:66%
・ステロイド群:25%
(P<0.001)

つまりアトピー性皮膚炎では、ステロイドの漸減が有効(漸減せずに中止すると再燃する)とわかります。

 

手湿疹

次に手湿疹に関する論文を見てみましょう。

Br J Dermatol. 140(5): 882, 1999(PMID)10354026

 

ステロイド(very strongクラス)外用で症状が改善した手湿疹患者106人の調査です。

A群(ステロイド週3回外用)、B群(ステロイド週2回外用)、C群(外用なし)の3グループに分けられ、9カ月間の再燃率が調べられています。

【再燃率】

・A 群 (ステロイド週3回外用):17%
・B 群(ステロイド週2回外用) :32%
・C 群 (外用なし):74%

 

やはり外用を中止すると多くの患者が再燃していますが、ステロイドを漸減した患者は再燃が少なくなっています。

 

まとめ

以上の結果からアトピーや手湿疹では、ステロイド外用薬を漸減したほうがよさそうです。

また週2回の外用であれば副作用は少なく、比較的安全に使用することができます。

ただ間歇投与をどれくらいの期間続けたらよいかについては、まだはっきりしたデータがないようです。