皮膚科の豆知識ブログ

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2種類の粉瘤の違い

粉瘤と呼ばれる腫瘍には主に2つの種類があります。

 

  • 表皮嚢腫
  • 外毛根鞘嚢腫

 

これらにはどのような違いがあるのでしょうか。

 

内訳

まず内訳に関する論文を見てみましょう。

日本臨床外科学会雑誌 68 (3), 547, 2007 NAID: 130004516519

 

手術で切除された粉瘤401例の調査です。

以下のように表皮嚢腫が大多数のようです。

・表皮嚢腫:97%
・外毛根鞘嚢腫:3%

 

発生部位

先ほどの論文では発生部位も調べられています。

表皮嚢腫は全身に発生しますが、顔面、頸部に多い傾向があります。

【発症部位(表皮嚢腫)】

・顔面:23%
・頸部:19%
・背部:17%

 

一方、外毛根鞘嚢腫の半数は頭部に発生します。

【発生部位(外毛根鞘嚢腫)】

・頭部:50%
・頸部:20%

 

表皮嚢腫が頭部に発生するのは3%であり、頭部の病変は外毛根鞘嚢腫と考えてもよいかもしれません。

 

経過

それではこの2つの腫瘍に臨床経過の違いはあるのでしょうか。

炎症を起こす頻度について記載された論文があります。

Br J Dermatol. 94(4): 379, 1976 PMID: 1268052

 

以下のように外毛根鞘嚢腫では15%と頻度が低いですが、表皮嚢腫は半数で炎症を起こすようです。

Clinically, trichilemmal  cysts become inflamed  infrequently 14.8%, in this series compared  with 50% of epidermoid  cysts.

Br J Dermatol. 94(4): 379, 1976

 

そのため表皮嚢腫は積極的に切除したほうがいいかもしれません。

 

粉瘤は見た目だけで診断できる?

粉瘤の診断は一般的に視診と触診から行われます。

しかし典型例では診断は容易ですが、ヘソが目立たない場合は、正直なところ診断に確信が持てないケーズも少なくはありません。

粉瘤はどれくらい正確に診断できるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

日皮会誌 2004; 114: 1889-97. NAID: 130004708322

 

粉瘤の臨床診断名で病理検査が行われた2856例の後方研究です。

これらの症例の病理診断が調査されています。

【病理診断】

・粉瘤(表皮嚢腫、外毛根鞘嚢腫):86%
・粉瘤以外:14%

 

このように粉瘤として切除された症例の14%は誤診されていたことになります。

 

誤診された症例は石灰化上皮腫や皮膚線維腫などの良性疾患がほとんどですが、悪性腫瘍も含まれており注意が必要です。

【粉瘤と誤診された疾患】

・良性腫瘍(石灰化上皮腫,皮膚線維種など)    72%
・腫瘍以外(炎症性疾患や沈着症など)    24%
・悪性腫瘍    4%

 

それでは臨床所見だけでどれくらい診断できるのでしょうか。

別の論文を見てみましょう。

Arch Dermatol 2009; 145: 761-4.(PMID)19620556

 

手術で切除された皮内、皮下腫瘍183例の後方研究です。

臨床診断、エコー診断、病理診断の一致率が調査されています。

臨床所見の陽性尤度比は6.67で、粉瘤を確実に診断するのはやはり難しいようです。

【粉瘤の臨床診断】

・感度:43%
・特異度:94%
(陽性尤度比:6.67、陰性尤度比:0.61)

 

それではエコー検査を併用した場合はどうでしょうか。

以下のように陽性尤度比が大きく上昇します。

【粉瘤のエコー診断】

・感度:66%
・特異度:99%
(陽性尤度比:91.6、陰性尤度比:0.34)

 

典型的な所見(後方エコー増強、外側陰影など)があれば確定診断的な検査と言えそうです。

診断に迷う場合は積極的にエコー検査を行うのがよいでしょう。

 

ただし感度は低く特徴的所見がみられない場合も多いようです。

そのため陰性尤度比が低く、エコーでも除外診断はできないことに注意が必要です。

 

粉瘤の炎症は細菌感染なのか?

粉瘤は炎症を起こすことがあります。

炎症を起こす頻度は表皮嚢腫で50%、外毛根鞘嚢腫で15%と報告されています。

Clinically, trichilemmal  cysts become inflamed  infrequently 14.8%, in this series compared  with 50% of epidermoid  cysts.

Br J Dermatol. 94(4): 379, 1976

 

従来、粉瘤の炎症は細菌感染症の一つとしてとらえられていました。

しかし近年は考え方が変わってきています。

論文を見てみましょう。

Arch Dermatol. 134(1): 49, 1998 PMID: 9449909

 

炎症を起こした粉瘤25例と、起こしていない粉瘤25例の調査です。

皮膚を切開し両者の内容物から細菌培養検査が行われています。

 

結果は以下の通りで、両者に培養陽性率、陽性菌種の差はなかったようです。

 

この結果から、粉瘤の炎症はほとんどが細菌感染によるものではなく、角化物に対する異物反応と考えられています。

皮膚感染症に対して一般的に使用されるセファロスポリン系の抗菌薬は効果がないと考えてよいでしょう。

 

そのため米国皮膚科学会は炎症性粉瘤に対するルーチンの抗菌薬投与は推奨していません。

Don’t routinely prescribe antibiotics for inflamed epidermal cysts.

Ten Things Physicians and Patients Should Question

 

万が一抗菌薬を使用せざるをえなければ、抗炎症作用のあるテトラサイクリン系やマクロライド系を選択するのがよいかもしれません。

If the organism is not significantly contributingto the inflammation, then would use of antibiotics withknown anti-inflammatory properties, such as erythromycin or tetracycline, alter the clinical course?

 

粉瘤はどれくらい再発するの?

粉瘤の術後再発症例に出会うことがあります。

手術中に嚢腫壁を取り残すと再発することが多い印象がありますが、再発率はどのくらいなのでしょうか。

論文を見てみましょう。

Dermatol Surg. 28(8): 673, 2002 PMID: 12174056

 

くり抜き法で切除を行った粉瘤825例の後方研究です。

これらの患者にアンケート用紙を郵送し、再発率が調査されました。

再発症例:45例(5.5%)

再発までの期間(平均):19.8カ月

 

結果は5.5%ですが、アンケートに返信しなかった患者もいるため、再発率は5~10%程度と推測されています。

Patients should  be  warned  of  the  5–10%  risk  of  cyst  recurrence in addition to possibilities of infection and scarring as part of the informed consent process.

 

別の論文も見てみましょう。

Dermatol Surg. 32(4): 520, 2006 PMID: 16681659

こちらは粉瘤60例の前方研究です。

切開法(29例)とくり抜き法(31例)で手術を行った後、1~2年間の経過観察を行い、それぞれの再発率が調べられています。

再発率

・切開法:0%
・くり抜き法:3%

 

観察期間が短い可能性はありますが、こちらの論文では再発率はかなり低く、特に切開法では再発例はなかったようです。

 

また大きさで分けた場合は2㎝以下では再発はなく、小さな粉瘤の再発率は低いと考えてよさそうです。

再発率

<2cm未満>
・切開法:0%
・くり抜き法:0%

<2cm以上>
・切開法:0%
・くり抜き法:20 %

 

このように論文によって再発率は異なっており、はっきりしません。

おそらく手術の手技や腫瘍の大きさによって大きく左右されるのでしょう。

 

ステロイドは1日何回塗ればいい?

ステロイドはどのくらいの量を1日何回塗ればよいのでしょうか。

添付文書には「1日1~数回適量を塗布」と記載されていることが多く不明瞭です。

今回はステロイドの外用回数について考えてみます。

 

1日に何回も外用するのはかなり面倒です。

実際、1日2回の外用は1回に比べてアドヒアランスが半分程度に低下するというデータがあります。

【アドヒアランス(乾癬患者)】

・1日1回:82.3%
・1日2回:44.0%

Arch Dermatol. 140(4): 408, 2004(PMID)15096368

 

それでは1日1回でも効果は期待できるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

アトピー性皮膚炎に関する臨床試験を集積したシステマティックレビューです。

Health Technol Assess. 4(37): 1, 2000(PMID)11134919

 

メタアナリシスは行われていませんが、いずれの試験でも1日1回と2回の間に有意な差はないようです。

 

この結果からは1日1回でも効果は期待できると考えられます。

 

ただアトピーのガイドラインでは、急性期は1日2回の外用が推奨されています。

急性増悪した皮疹には1日2回外用させて早く軽快させ,軽快したら寛解を目指して1日1回外用させるようにするのがよい

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021

 

急性期には1日2回外用が勧められるが,1日1回でも効果は期待できると考えられる

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021

 

確かに1日1回よりも2回の外用のほうが皮疹の改善は早い実感があります。

私は初診時には1日2回の外用を指示し、その後の経過に応じて外用回数を変更しています。

とはいえ1日2回の指示で塗らないよりも丁寧に1回塗ったほうがはるかによいため、患者の性格や外用範囲に応じて回数を調整するのが望ましいでしょう。

 

次回の記事では外用量について解説します。

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