皮膚科の豆知識ブログ

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熱傷の水疱をどうするか?②エキスパートオピニオン

熱傷の水疱を見たとき、どんな処置を行えばいいのでしょうか。

実は水疱の処置に関しては意見が分かれていて、統一した見解はないようようです。

前回の記事ではガイドラインを確認しました。

www.derma-derma.net

 

今回はエキスパートオピニオンを見てみましょう。

私の手元にある教科書には以下のように書かれています。

まるわかり創傷治療のキホン

水疱内容液は除去し、水疱天蓋は温存すべきであるというのが、現在のコンセンサスである。

なぜ水疱内容液は排除した方がよいのかというと、水疱内容液が創の治癒を遷延させるからである。

一方、水疱天蓋については、天然のbiological dressingとしての役割が評価されている。

 

このように水疱膜は温存して、水疱内容液だけを除去することが推奨されています。

(現在のコンセンサスかどうかは不明ですが)

 

この方針は論文の結果に基づいているようです。

 

水疱内容液

それでは論文を見てみましょう。

熱傷 28(2): 18, 2002 NAID:10013256424

 

対象は左右両方の上肢または下肢を受傷した熱傷患者10例です。

一側は水疱の中の水分をそのまま、もう一側は穿刺して水分だけを取り除き、治癒までの期間を比較しています。

【熱傷治癒までの期間】

・水疱液と水疱膜を温存→26.6日
・水疱液を穿刺排出し水疱膜は温存→20.5日

 

このように水疱の中の水分は除去した方が、治癒が早いようです。

論文では、内容液中のサイトカインが創傷治癒を阻害する可能性が示唆されています。

 

一方、水疱膜は天然のドレッシング材になり、創の湿潤環境を維持するので、温存することが推奨されています。

それでは水疱膜は本当に温存したほうがよいのでしょうか。

 

水疱膜

海外のレビューを見てみましょう。

J Burn Care Res. 27(1): 66, 2006 PMID: 16566539

Wound desiccation after blister debridment has been shown in multiple studies to contribute to wound conversion and has prompted some to advocate leaving blisters intact.

(水疱膜を除去すると創が乾燥して治癒を阻害するという報告があり、水疱の温存を推奨する人がいる。)

 

However, as wound dehydration can be prevented with the appropriateuse of dressings that retain wound moisture,the threat of wound desiccation is no longer a compelling reason to leave blisters intact unless providersdo not have access to adequate dressing supplies.

(しかしドレッシング材を適切に使用すれば創の乾燥は防げるので、水疱を温存する理由にはならない。)

 

水疱膜を残すよりも、適切なドレッシング材で湿潤環境を維持したほうがいいんじゃないか。。という意見です。

これは確かに説得力があります。

あえて感染のリスクがある水疱膜を利用する必要はないのかもしれません。

 

まとめ

水疱内容液を残す理由はあまりなさそうです。

水疱膜に関しては、ドレッシング材を適切に使用できる環境ならば、除去してしまったほうがいいのかもしれません。

 

とはいえⅡ度熱傷に対して保険が適用されるドレッシング材に制限があることが問題になります。

ほとんどのドレッシング材の保険適用が「皮下組織に至る創傷」で、Ⅱ度熱傷(真皮に至る創傷)に適用があるものは少数です。

このあたりも考慮しながら方針を決めるのがよいでしょう。