熱傷で最も重要な処置は「冷却」と言われています。
しかし何分くらい冷やしたらいいかは教科書には書かれておらず、熱傷のガイドラインにも記載がありません。
そこで海外のガイドラインを調べてみると、オーストラリアのガイドラインに詳しい記載がありました。
Clinical guidelines for burn patient management, 4th edition
ガイドラインの内容を紹介します。
オーストラリアのガイドライン
・Cool the burn with cool running tap water for 20 minutes.(流水で20分間冷やす)
・Ideal water temperature for cooling is 15°C, range 8°C to 25°C. (適温は8~25℃)
・Cooling is effective up to 3 hrs after injury. (受傷後3時間以内の冷却が有効)
このように冷却は流水で20分間、受傷後3時間以内に行うのがいいようです。
また氷や濡れタオルでの冷却についてもガイドラインに記載があります。
Ice should not be used as it causes vasoconstriction and hypothermia. Ice can also cause burning when placed directly against the skin.
(氷は血管収縮や低体温を引き起こすため使用すべきではない。また皮膚に氷が直接接触すると凍傷の可能性がある。)
Wet towels are not efficient at cooling the burn as they do not cool the wound adequately. They should not be used unless there is no water readily available, i.e. in transit to medical care.
(濡れタオルでは十分な冷却ができないので効果的ではない。使用するのは移動中などで流水が利用できないときに限る。)
氷は逆に組織を損傷する可能性、濡れタオルは十分な冷却ができないため推奨されていません。
これらの内容は人間では明確には証明されておらず、動物実験のデータに基づいているようです。
それらのデータも紹介します。
冷却時間
まず冷却時間についての論文です。
J Burn Care Res. 29(5): 828, 2008 PMID: 18695595
17匹のブタに人工的に5か所の熱傷を作り、4か所にそれぞれ5分、10分、20分、30分間の冷却(流水)が行われました。
そして受傷9日後の改善率が比較されています。
改善率は、冷却なし、冷却時間5分、10分と比較して、20分と30分が優れています。
20分と30分の間に有意な差はありません。
この結果からは冷却は20分以上行うのが望ましいようです。
冷却温度
次に冷却温度についての論文を紹介します。
Wound Repair Regen. 16(5): 626, 2008 PMID: 19128257
31匹のブタに人工的に熱傷を作り、4つ処置が行われました(①9匹、②7匹、③8匹、④7匹)。
①冷却なし、②氷で20分冷却、③流水(2℃)で20分冷却、④流水(15℃)で20分間冷却。
そして治癒までの期間が調べられています。
治癒までの平均期間
・冷却なし:4.5週
・氷:4.7週
・流水(2℃、15℃):4.0週
治癒が最も早いのは流水で冷却した群で、最も遅いのは氷で冷却した群です。
2℃と15℃では治癒までの期間に有意な差はありません。
この結果からは氷は避けて流水で冷却するのがよさそうです。
冷却開始までの時間
最後に冷却開始までの時間についての論文です。
J Burn Care Res. 30(4): 729, 2009 PMID: 19506512
12匹の豚に人工的に4箇所の熱傷を作り、それぞれ受傷直後、5分後、20分後、60分後に冷却(流水で20分間)が行われました。
そして受傷1日後と9日後に皮膚生検を行い、熱傷の深さが計測されています。
このように熱傷の深さには有意な差はなかったようです(P>0.05)。
この結果からは受傷して60分後でも冷却は有効と考えられます。
まとめ
現在、冷却は流水で20分間、受傷後3時間以内に行うのが推奨されているようです。
それは人間のデータではなく、動物実験に基づいています。