皮膚科の豆知識ブログ

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抗体検査でヘルペスは診断できる?

ウイルス感染症の診断では抗体検査が行われます。

 

  • 急性期のIgM抗体の検出
  • ペア血清でのIgG抗体価上昇(2倍以上)

 

しかしウイルスの再活性化で発症する単純ヘルペスや帯状疱疹は、抗体検査で診断できるのでしょうか。

 

単純ヘルペス

まず単純ヘルペスについての論文を紹介します。

再発型の単純ヘルペス患者54例のIgM抗体の検査結果です。

臨床とウイルス 27(5), 428, 1999

(NAID)10009653598

IgM抗体陽性率:13%

 

9割の患者ではIgM抗体は陽性化しないようです。再発性の単純ヘルペスはIgM抗体で診断するのは難しいでしょう。

 

一方IgG抗体に関してはどうでしょうか。

先ほどの論文では、再発型の単純ヘルペス患者54例のIgG抗体も調べられています。

IgG抗体陽性率:100%

 

最初からIgG抗体は陽性です。それではペア血清で抗体価は上昇するのでしょうか。

性感染症学会のガイドラインに記載があります。

性感染症診断・治療ガイドライン2008

抗体が発症時から検出され、回復期における上昇がないことも多いので、診断には役に立たない。

 

IgG抗体は最初から陽性で上昇しないことが多いようです。そのためペア血清での診断も難しいでしょう。

 

帯状疱疹

次に帯状疱疹について見てみましょう。

83例の帯状疱疹患者でIgM抗体が調べられています。

J Dermatol. 45(2): 189, 2018 PMID: 29239011

IgM抗体陽性率:12.0%

 

このように9割の患者でIgM抗体は陽性化しないようです。帯状疱疹をIgM抗体で診断するのは難しいでしょう。

 

それではIgG抗体で診断することはできるのでしょうか。

先ほどの論文では83例の帯状疱疹患者でIgG抗体も調べられています。

IgG抗体陽性率:93.9%

 

最初からIgG抗体は陽性です。

(ただし抗体価は低値(50以下)新薬と臨床 62(5): 981, 2013)

 

それではペア血清で抗体価は上昇するのでしょうか。

ハント症候群16例のペア血清を調べた論文があります。

Facial N Res Jpn 24: 53, 2004 (NAID)10024480261

ペア血清でIgG抗体上昇:88%(2倍以上上昇:63%)

 

このように帯状疱疹では発症後にIgG抗体価が上昇するようです。

ただし帯状疱疹ではすぐにIgG抗体価が上昇するため、初回の検査時にすでに高値(50以上)のことがあります。

そのためペア血清で2倍以上上昇することは、あまり多くありません。

 

まとめ

再発性の単純ヘルペスではIgM抗体、IgG抗体は両方とも役に立ちません。

帯状疱疹ではIgM抗体は役に立ちませんが、IgG抗体のペア血清で診断することは可能です。