皮膚科の豆知識ブログ

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蜂窩織炎と丹毒の鑑別は必要なのか?

深在性の皮膚細菌感染症は、病変の深さによって蜂窩織炎と丹毒に分類されています。

 

  • 真皮浅層:丹毒
  • 真皮深層~皮下組織:蜂窩織炎

 

皮膚の深い部位に炎症がある蜂窩織炎では紅斑の境界が不明瞭ですが、浅い部位の丹毒では境界がはっきりしている点が鑑別点とされています。

しかし実際の臨床現場では、はっきり区別できないことも多いです。

 

これらを区別する意味はあるのでしょうか。

海外のガイドラインを見てみましょう。

英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドライン

Eysipelas can often be difficult to tell apart from cellulitis and recognised that both infections may be caused by Streptococcus pyogenes or Staphylococcus aureus.

(丹毒と蜂窩織炎を鑑別するのは難しい場合があり、どちらも溶連菌または黄色ブドウ球菌によって引き起こされる)

 

Therefore, management of both infections, with regard to antibiotic choice, is the same.

(したがって抗菌薬の選択は丹毒も蜂窩織炎も同様である)

 

このように蜂窩織炎と丹毒に治療法の違いはないと記載されており、厳密に鑑別する必要はないかもしれません。

 

次にIDSAのガイドラインを見てみましょう。

米国感染症学会(IDSA)ガイドライン

Clin Infect Dis. 59(2): e10, 2014 PMID: 24973422

 

丹毒には3つの定義があるようです。

一つは真皮上層の細菌感染症。

The term “erysipelas” has 3 different meanings.

(1) for some, erysipelas is an infection limited to the upper dermis

 

二つ目は顔面の蜂窩織炎。

海外では病変の深さに関係なく、顔面に生じた蜂窩織炎のことを丹毒と呼ぶ場合もあるようです。

 (2) for many, erysipelas has been used to refer to cellulitis involving the face only

 

三つ目は蜂窩織炎の同義語。

ヨーロッパでは丹毒と蜂窩織炎は同義語で、区別されていないようです。

 (3) for others, especially in European countries, cellulitis and erysipelas are synonyms

 

このように海外ではそもそも丹毒と蜂窩織炎の区別すらされていないこともあるようです。

治療方針の違いもないことから、これらを区別する必要はないのかもしれません。