皮膚科の豆知識ブログ

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医学書執筆の裏側

2022年1月に初めての著書「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」が出版されました。

その出版までの1年以上に渡る道のりを、「執筆の裏側」としてTwitterで発信してきました。

このブログにそれらのツイートをまとめておきたいと思います。

 

第1章:執筆前夜

分担執筆の医学書を読むと物足りなく感じることがあります。

むしろ一人の手による本のほうが魅力的なことが多く、私もいつか単著を執筆してみたいと思っていました。

そんな折、、医学書院様から「従来のパターン認識とは違った皮疹の診かたを解説した書籍」の執筆の話をいただきます。

 

またとない絶好の機会。

そこで提示された分量は200ページでした。

1ページの目安が1000文字なのでトータル20万字!!

 

A5版200ページ

・1ページ:1000字

・トータル:20万字

 

そんな大量の文章を書けるのかかなり不安です。

しかしこんなチャンスは二度とないかもしれません。

そしてそこにわずかな希望が…

 

図表1個=400文字

 

写真やイラストを250個準備すれば残りは10万文字。そう考えると若干現実的な数字に思えます。

こうして悩んだ末に執筆を決意したのでした(あとで少し後悔しましたが)。

 

執筆の最初のタスクは目次の作成。

全体の構成を考えながらページ配分を吟味します。

何事も構想の段階が一番楽しいものですね。

 

先走って浮かれていましたが、実はまだ出版が決定したわけではありません。

最終的に出版が決まるには、企画会議を通過する必要があるそうです。

 

目次の次は、会議用の見本原稿の作成を行います。

そして原稿をもとに仮レイアウトを作成していただきました。

簡易的なものですが書籍の具体的なイメージがつかめて嬉しいものです。

 

あとは企画会議の日を待つばかりですが、会議は3段階もあるそうです。

まさかここまで来てボツなんてことはないですよね…。

 

不安を抱きながら待つこと3週間。

ようやくすべての会議を無事通過したとの連絡をいただきました。

Zoomを使ったWeb打ち合わせを行い、気分はもう作家です。

 

後で知ったのですが、この企画会議はかなり厳しいようです。

アドバイザーと呼ばれる先生が何人がおり、その先生方が「これはいける」と判断しなければ企画が通らないとのこと。

大変有名な書籍「内科診療フローチャート」でさえも企画会議を通過できず、別の出版社からの発売になったそうです。

note.com

 

私は運がよかったようですね。

担当編集者様にも感謝です。

 

いずれにせよ、ここから本格的な執筆が始まります。

執筆の期限は半年。

果たして半年間で20万字分の原稿を仕上げることができるのでしょうか?

 

②執筆開始

プロの作家やライターになると1日1万字は楽に書けるそうです。

しかし私が1日に書ける文字数は1000~2000字程度。

文献を調べながら書くのでスピードはさらに落ちてしまいます。

物書きのプロの凄まじさを実感させられます。

 

さらに自分の言いたいことをうまく表現できずフラストレーションが溜まります。

文章を書くのは思ったよりもずっと難しいですね。

今回執筆を行ってみて、単著を書かれている先生方の文章力の高さを思い知りました。

 

加えて10万字も書くことを考えると気が遠くなります。

そこで書籍を小さな論文の集まりだと考えてみることにしました。

3000字の論文を10本集めれば3万字。1章の分量です。

そうして1項目ずつコツコツと執筆を進めていきました。

 

パソコンの原稿がある程度出来上がるとプリントアウトしてペンで書き直していきます。

 

モニターで見るより紙のほうがアイデアが出やすいですね。

この作業は意外と楽しくて嫌いではありませんでした。

比べるのは失礼ですが(ホントに)、作家の村上春樹さんも書き直しの作業が一番楽しいと言われています。

 

そして執筆を進めて行くなかで、診断の流れが理解しやすいように症例問題を作成することになりました。

解説は皮膚科の教科書では珍しい対話形式です。

しかし対話の文章を書くのは案外難しい。

なんだか稚拙なやりとりになってしまいますね…。

 

こうして長い執筆作業の末、すべて原稿を書き終えたのは半年後のことでした。

出版社様からの当初のリクエストは数多くの疾患を幅広く扱った教科書。

ですがせっかくの単著です。クセの強い内容に仕上げてしまいました。

扱っている疾患は少ないですが、そのぶん応用が利く内容になったと思います。

 

最終的な原稿の文字数カウントは11万文字!

これだけの文章を書くことはもうないかもしれませんね。

 

辛く苦しい日々もようやく終わりを迎えます。

終わってみれば良い思い出でした。

 

…と思いきや、これからがほんとうの地獄だったのです…!

 

第3章:校正

原稿を出版社様に提出した後、しばらくすると校正刷りが上がってきます。

私がパワポで作った拙い図が、イラストレーターさんの手でポップなイラストに仕上がっています。

自分の原稿が本の形になっているのは興奮しますね。

しかし、ここで一つの問題が…。

予定は200ページでしたが実際は311ページ。

校正の段階で予定のページ数を大幅に超えていることが判明します。

分量が足りないはずだったのに、どうしてこうなった…。

頑張って書いたコラム10本と専門的すぎる部分を泣く泣く削ります。

でもそのお陰でまとまりが出たような気もします。

 

校正は愛用のiPadとアップルペンシルで行いました。

 

これまで論文の校正は何度も行ってきました。

しかし書籍の校正にはたくさんのチェック項目があり、論文とは比べ物にならないくらい大変です。

 

・内容

・文章の流れ・表現

・誤字脱字

・レイアウト

・引用文献

 

書き手目線と読み手目線の両方で、何度も原稿を読み返します。

特に文章の流れは重点的に確認しました。

 

さらにレイアウトのチェックも行います。

私は医学書のレイアウトには不満を持っていました。

すべての図がページの上部に配置されていて、読みにくいものが多いんですよね。

そこで無理を言って説明の文章とイラストをなるべく近くに配置してもらいました。

 

作家の京極夏彦さんはレイアウトに非常にこだわっていて、ひとつの文章がページをまがないように全て加筆修正するそうです。

読みやすさを追求するプロ意識を見習いたいものです。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53511

 

また個人的なこだわりで文字の装飾はなるべくしないようにお願いしました。

文章がたくさん装飾されている(太字、赤文字、青文字、マーカーなど)医学書は多いですが、見た目が華やかな反面、読みにくいと思うんですよね。

こういう細かい所にも注目してもらえたら嬉しいです。

(アマゾンの見本ページより引用)

 

最初の校正の締め切りまで1か月と少し。

しかし校正が進むにつれて、徐々に期限が短くなっていきます。

最終校正の期限はわずか1週間…!

週末をすべて潰して校正作業です。

 

250ページの原稿を何度も読み返しますが1回読むだけで数時間。

この作業は正直言って地獄でした…。

 

そして読むたびにミスが見つかるんですよね。

最終校正(制限時間は1週間)の時点でも誤字が残っていて、かなり焦りました。

(「皮膚真菌症」が「皮疹真菌症」になっている)

 

文章が不自然なところや、わかりにくいところなど、直したい部分はまだたくさん残っていました。

しかし何度も読み返したので、大きなミスはもうないはずです。

ここでタイムアップとなり校正は終了になりました。

あとは1ヶ月後の発売を待つばかり。

 

…と思いきや、まだ大事な作業が残っていたのでした。

 

第4章:解説動画

みなさん気づいていないかも知れませんが、私の本にはweb動画が付録で付いているんです。

QRコードを読み込むのが面倒なので、ほとんど見られていないとも言われるweb動画。

その制作にも人知れぬ苦労がありました。

 

「解説動画を作りましょう」

そう出版社様から言われたのは執筆の開始前でした。

私はケアネットの講義動画をイメージして即座にOKしました。

スタジオ撮影ができる!そう考えると胸が高鳴ります。

 

ところが動画の撮影について詳しく聞いてみると、「撮影の方法はおまかせします」と。

あれ…スタジオ撮影じゃないの…?私の夢は儚く散っていきました。

素人の手作り動画なんて誰が見るんや…と若干思いつつも制作を承諾したのでした。

 

ところが発売日の1ヶ月前でも動画は未完成。

もし間に合わなかったら発売延期かな?

そう思って出版社様に聞いてみると、発売は予定通り行われるとのこと。

 

Web動画が間に合わずに発売…。

これは下書きを掲載したハンターハンター(週刊少年ジャンプで不定期連載中の人気マンガ)級の事件です。

なんとしても間に合わせなければ。

 

動画制作の物品はすべて自己調達です。

とりあえずパワポでスライドを作成。

iPadの画面収録機能で音声を吹き込みます(マイクはiPhone付属のイヤホン付きマイク)。

 

素人っぽい動画ですが一応編集もしています。

動画編集のために評判の良いiPadアプリLumaFusionを購入し、ノイズ除去まで行いました。

しかし自分の音声を何度も聴くのって苦痛ですね…。

 

そして発売前ギリギリに動画が完成。

クオリティは高くありませんが内容はかなり練ったつもりです。

 

第5章:表紙と前書き

校正が最終段階に入った時点で前書きを作成します。

ちなみに前書きには以下の5つの内容を入れるのがセオリーらしいです

 

①あなたは〇〇で悩んだことはありませんか?

②類書との違い

③この本で学べること

④著者の実績

⑤この本を読んだ後の変化

https://kagiroi.com/publishing-times/7780/

 

うーん…あまりできていませんね…。

 

また表紙のデザインも検討します。

私は表紙もコンテンツにしたいと密かに考えていました。

マンガ「ワンピース」は扉絵も一つのお話になっています。

医学書の表紙にも何か仕掛けがあったら面白くないですか?

 

表紙をコンテンツにするというアイデアを出版社様に伝えたところ、クイズを掲載していただけることになりました。

さらに表紙だけはなく帯もコンテンツにしてはどうかと構想が膨らみます。

完成が待ち遠しいですね。

 

打ち合わせから3週間程度でカバーイラスト案が2つ上がってきました。

想像を超えた完成度にテンションが上がります。

優しい印象のピンクと目立つ黄色。迷いましたが黄色の方でお願いしました。

 

打ち合わせ通り表紙もコンテンツになっています。

帯を外したら答えがわかるという遊び心のある仕掛けです。

普段、本の帯は邪魔なのですぐに捨ててしまいますが、この帯は捨てないで欲しいですね。

 

第6章:発売まで

出版社様に伺うと発売日は12月5週目頃とのこと。

 

「「頃」ってどういうこと?」と思うかたも多いと思います。

 

実は書籍には明確な「発売日」は存在せず、入荷した書店から順次発売を開始するそうです。

代わりに全国に行き渡る目安の「発行日」が記載されています。

Amazonのページには発売日が記載されているのですが、公式なものではなく独自に表示しているようです。

 

そして発売直前の12月4週目、出版社様より見本が届きます。

初めて触れる自分の書籍に感慨もひとしおです。

 

そして12月5週目。

無事発売を迎え書店に私の本が並びます。

まさかこんな日が来るとは夢にも思いませんでした。

 

無名の皮膚科医である私に執筆の機会を与えてくださった編集者様、出版に関わってくださった多くの方々に感謝申し上げます。