皮膚科の豆知識ブログ

日々の小さな疑問を解決する論文を紹介。講演、お仕事の依頼は「お問い合わせ」からお願いします。

はじめに---このブログについて

「皮膚科の豆知識ブログ」は日々の小さな疑問を解決する論文を紹介するブログです。

皮膚疾患は数が多く、大規模スタディがほとんど行われていません。そのため診療は経験に基づいて行われエビデンスは軽視されがちです。

そこで、このブログでは皮膚科診療にまつわる様々なエビデンスを紹介していきたいと思っています。

記事の一覧はこちらから御覧ください>>サイトマップ

 

ご意見、お問い合わせ、お仕事(講演等)の依頼などはこちらからお願いします>>お問い合わせ

 

またTwitterで更新情報と過去記事を発信しています。ぜひフォローしてください。

 

↓↓読者登録はこちらから

follow us in feedly

 

食物以外の原因で起こる5つの食物アレルギー

食物アレルギーの中には、交差反応によって食物以外の原因から生じるものがあります。

今回は交差反応性の食物アレルギーを5つ紹介したいと思います。

 

①花粉

「花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)」

食物には花粉のアレルゲンと類似の構造が含まれています。

そのため花粉症患者が特定の食物を摂取すると、交差反応から口腔粘膜の刺激感などのアレルギー症状を発症します。

交差反応はヒノキ科やイネ科花粉症患者の10~20%にみられると報告されています。

ただしカバノキ科花粉症では頻度が高く、40%の患者に食物アレルギーを合併するようです。

口腔・咽頭科 32 (2) 103-107, 2019.

 

②ラテックス

「ラテックス・フルーツ症候群」

果物や野菜に含まれるアレルゲンとラテックスアレルゲンは構造が類似しています。

そのためラテックスアレルギー患者は、交差反応から果物や野菜に対するアレルギー症状が生じる場合があります。

交差反応はラテックスアレルギーの患者の30~50%にみられると報告されています。

Biochem Soc Trans. (Pt 6): 935, 2002 PMID: 12440950

 

③ネコ

「ポーク・キャット症候群」

ネコの血清アルブミンと豚肉のアレルゲンの構造は類似しています。

ネコに感作された後、豚肉摂取時に交差反応によってアレルギー症状を引き起こします。

交差反応はネコアレルギー患者の1~3%にみられると報告されています。

World J Methodol. 5(2): 31, 2015 PMID: 26140270

 

④マダニ

「α-Gal症候群」

マダニの唾液に含まれているa-Galと獣肉(牛肉、豚肉)のアレルゲンの構造は類似しています。

マダニに繰り返し咬まれることによってa-Galに感作され、獣肉の摂取によってアレルギー症状を引き起こします。

 

⑤クラゲ

クラゲは毒針を刺す時にPGAという成分を生み出し、クラゲに繰り返し刺されるとPGAに感作されます。

納豆のねばねば成分にもPGAが含まれており、納豆摂取時にアレルギー症状を引き起こします。

 

まとめ

食物アレルギーでは食物だけでなく、①花粉、②ラテックス、③ネコ、④マダニ、⑤クラゲにも注意を要します。

これらの原因についても聴取する必要があるでしょう。

 

抗ヒスタミン薬の選びかた・使いかた(medicina連載のまとめ)

現在、医学雑誌medicinaで皮膚科治療薬の連載を行っています。

www.derma-derma.net

 

Vol.61 No.6~7で抗ヒスタミン薬編が終了したので、その簡単なまとめを記載しておきます。

 

作用機序と有効な皮膚疾患

・抗ヒスタミン薬は、血管と神経のヒスタミンH1受容体を阻害して、皮疹と痒みを抑制する。

・痒みは「ヒスタミン依存性」と「ヒスタミン非依存性」の2つに分類される。

・蕁麻疹で生じるヒスタミン依存性の痒みに対しては高い効果がある。

・しかし湿疹などで生じるヒスタミン非依存性の痒みに対しては単独では効果が乏しく、ステロイド外用薬との併用で補助的に使用するのが望ましい。

 

薬剤の選びかた

①抗ヒスタミン薬を3つに分類する

・抗ヒスタミン薬は鎮静作用や抗コリン作用などの副作用が多い第1世代と、少ない第2世代に分類されている。

・しかし第2世代であっても製剤によって鎮静作用は大きく異なる。

・そのため脳内ヒスタミンH1受容体占拠率に基づき、薬剤を鎮静性、軽度鎮静性、非鎮静性の3つに区分することが提唱されている。

・この分類に基づき、非鎮静性の抗ヒスタミン薬を選択するのが基本となる。

 

②添付文書の自動車運転の記載

・さらに非鎮静性の薬剤の中でも鎮静作用には差がある。

・添付文書上、「自動車運転禁止」あるいは「注意が必要」の薬剤は眠気を訴える患者が多い傾向がある。

・筆者は自動車運転に関する記載がない薬剤を第一選択にしている。

 

手足口病はどれくらい家族に感染する?

手足口病は家庭内感染が少なくありません。

それではどれくらいの頻度で感染するのでしょうか。

論文を見てみましょう。

 

手足口病患者と同居する家族の追跡調査です。

JAMA. 291(2): 222, 2004、PMID: 14722149

 

対象はエンテロウイルス71型が検出された94人の手足口病患者と同居する家族です。

家族339人(小児106人、成人233人)に対して、ウイルス培養と抗体検査が行われました。

さらに8週間追跡し、感染症を疑う症状が出現した場合は再度検査が施行されています。

そしてエンテロウイルス71感染と診断された場合は、その家族に対しても検査が追加されました。

 

結果ですが、以下のように小児の84%、成人の37%に感染が見られています。

【家庭内感染】

・小児:89人(84%)
・成人:87人(37%)

 

ただしエンテロウイルス感染しても必ずしも手足口病を発症するわけではありません。

次に実際の症状について見てみましょう。

【小児感染者の症状】

・手足口病:35人(40%)
・感冒:43人(48%)
・無症候:11人(12%)

 

小児では感染者のうち手足口病を発症するのは40%であり、48%は感冒症状が出現するだけのようです。

また無症候性感染も見られています。

 

一方、成人ではどうでしょうか。

【成人感染者の症状】

・手足口病:7人(8%)
・感冒:34人(39%)
・無症候:46人(53%)

 

手足口病を発症するのはわずか8%となっています。

また感染者の半数が無症候で、成人は症状が出ることが少ないようです。

 

以上のように小児の8割が家庭内感染するため、注意する必要があるでしょう。

ただし手足口病を発症するのは全体の3割程度です。

 

一方、成人の感染は4割程度と少なく、手足口病を発症するのは全体の約3%のようです。

とはいえ、私の経験上、成人の手足口病も少なくありません。

もしかすると型によって発症率が違うのかもしれません。

 

非典型的な手足口病の3つの病型

手足口病はエンテロウイルスの感染によって生じます。

原因ウイルスは多彩で、従来はコクサッキーA16型、エンテロ71型が多いとされてきました。

しかし近年は変化してきています。

国立感染症研究所が公開している原因ウイルスを見てみましょう。

IASR病原微生物検出情報

 

以下のように近年はコクサッキーA6型が多くなっています。

【最多の原因ウイルス】

・2018年 エンテロ71
・2019年 コクサッキーA6
・2020年 コクサッキーA16
・2021年 コクサッキーA6
・2022年 コクサッキーA6
・2023年 エンテロ71

 

それに伴って症状が変化しています。

コクサッキーA16、エンテロ71は手足に限局した皮疹が特徴でしたが、コクサッキーA6の皮疹は手足を超えて拡大する非典型例が多いようです。

 

エンテロウイルスは検査で同定することが難しいので、臨床症状のみから診断するしかありません。

そのため非典型的な皮疹がどのようなものかを理解しておく必要があります。

 

具体的にはどのような症状になるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

非典型的な手足口病47例のデータをまとめた報告です。

Pediatr Dermatol. 33(4): 429, 2016、PMID: 27292085

 

この論文では非典型手足口病を3つの病型に分類しています。

非典型手足口病の病型

①Acral form:62%
②Diffuse form:15%
③Eczema coxsackium:23%  

 

それぞれについて見てみます。

 

①Acral form(ジアノッティ型)

まずAcral formが最も多く、62%を占めています。

手足の病変に加えて、四肢と臀部、顔面に皮疹が拡大するのが特徴で、体幹部には皮疹はありません。

分布がGianotti症候群に似ていることから、Gianotti–Crosti-like formと呼ばれることもあるようです。

全例で顔面(口囲)の皮疹を認め、76%に臀部の皮疹が生じています。

そのため口囲と臀部に注目するのが診断のポイントとなりそうです。

 

②Diffuse form(水痘型)

Diffuse formは15%に見られる稀な病型で、体幹部まで病変が拡大するのが特徴です。

そのため水痘との鑑別が重要になります。

手足の病変も重度であり、重症型の皮疹と考えられています。

 

③Eczema coxsackium(カポジ水痘様発疹症型)

Eczema coxsackiumは特殊な病型で23%に見られます。

特徴は、湿疹が生じている部分に水疱やびらんが出現することです。

炎症による皮膚免疫能の低下が原因と考えられており、症状はカポジ水痘様発疹症と似ています。

そのためヘルペスによるEczema herpeticum(カポジ水痘様発疹症)に対して、Eczema coxsackiumと呼ばれています。

カポジ水痘様発疹症と同様に、アトピー性皮膚炎がリスクになる可能性があるようです。

 

まとめ

以上をまとめると、「ジアノッティ症候群」、「水痘」、「カポジ水痘様発疹症」を疑う皮疹を見たら非典型手足口病を考える必要があるようです。

基本的に手足に病変を認めるため、手掌、足底を確認するのが鑑別のポイントになりそうです。