皮膚科の豆知識ブログ

皮膚科専門医のブログです。日々の小さな疑問を解決する論文を紹介します。

はじめに

このブログについて

「皮膚科の豆知識」は皮膚科専門医が、日々感じた小さな疑問を解決する論文を紹介するブログです。

皮膚科診療は経験に頼りがちです。その理由は皮膚疾患の種類が多く大規模スタディーが行われていないからです。

そんな中で、なるべく具体的な数字に基づいた診療を行いたいと思ったことが、このブログを開設するきっかけになりました。

宜しくお願いします。

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皮膚科の医学書に関する雑感②「通読型」

皮膚科の医学書に関する雑感を書くシリーズ。

今回は全3回中の2回目。通読型の医学書についてです。

 

▼前回の記事はこちら▼

www.derma-derma.net

 

通読型の教科書

医学書には教科書タイプとマニュアルタイプがあります。

個々の疾患に関する知識は教科書に書かれています。

一方、具体的な治療法についてはマニュアルに書かれています。

しかしそれだけでは診療はできません。

 

疾患をどのように疑い、どのように診断するのか。治療薬を何をもとに決定し、どのように使用するか。

実際の診療にはこれらの知識が求められます。

 

それを学ぶためには教科書とマニュアルの間を埋める通読型の医学書が必要です。

 

代表的なものは感染症内科の岩田健太郎先生の著書でしょう。

私が研修医の頃は、考え方を解説した読み物的な医学書は珍しく何度も読み込みました。

抗菌薬の考え方,使い方

 

また「極論で語る」シリーズも、わかりやすく口語調で書かれ、コンパクトにまとまっているので通読しやすく有用でした。

極論で語る神経内科

 

しかし皮膚科の分野では、写真がたくさん並べられているだけの「見た目一発診断」のような本が多く、通読型の医学書はわずかしかありません。

 

皮膚科の通読型の教科書

とはいえ皮膚科分野でも、通読型の優れた医学書はいくつか存在しています。

 

1つ目は、皮疹の成り立ちを病態から詳しく解説した「皮疹の因数分解・ロジック診断」です。

「見た目一発診断」ではない理詰めの診断法が解説されています。

皮疹の因数分解・ロジック診断

 

こういったコンセプトの本は他にはなく非常に勉強になりますが、内容が高度でとっつきにくいという欠点もあります。

専門医でもすべての内容を理解するのには時間がかかるでしょう。

 

2つ目は「皮膚病理イラストレイテッド」です。

病理の教科書は病理写真が羅列してあるだけの図鑑のようなものがほとんどです。

しかしこの本は病態から病理所見を解説する通読型になっています。

皮膚病理イラストレイテッド

 

ここまでしっかりと理屈が書かれている医学書は他にはありませんが、皮膚病理なので読者層が限られるのが残念です。

 

これらの内容を初心者でも通読できる形でわかりやすく解説した本があればいいかもしれません。

それは皮膚科医以外にも魅力的な教科書になるのではないでしょうか。

 

つづく

次回はエビデンス型の医学書の雑感。

 

皮膚科の医学書に関する雑感①「対話型」

今回から、いろいろな医学書を読んで感じている皮膚科教科書に関する雑感を書きたいと思います。

全3回の予定です。

初回は対話形式の医学書です。

 

対話形式の教科書

最近よく見るのが指導医と研修医(や学生)との対話形式の医学書です。

ケーススタディが紙上で再現されています。

めざせ!外来診療の達人

 

症例をもとに診断の具体的な考え方や、つまずきやすいポイントなどが解説されており、わかりやすいのが特徴です。

 

医学書だけではなく、様々な分野の本でこの形式がとられています。

たとえばベストセラーの会計本も対話形式になっています。

世界一楽しい決算書の読み方

 

しかし皮膚科の分野では対話形式は少ないようです。

皮膚科診断は視覚情報に頼る部分が多いので、写真がたくさん並べられているだけで解説がほとんどない「見た目一発診断」のような本がほとんどです。

 

写真に頼らない教科書

ですが写真に頼らないというコンセプトの医学書は存在しています。

臨床写真が一切なく、視覚情報に頼らずにキーワードから診断に迫るというチャレンジングな本になっています。

皮膚科診断をきわめる

 

ただそのコンセプトはとても良いのですが、解説がややわかりにくく、とっつきにくいのが難点です。

 

対話形式で解説するような構成であれば、初心者向けによかったかもしれません。

 

対話と解説のバランス

対話形式の医学書にも欠点があります。

それは対話だけでは情報量が少なくなってしまう点です。

そのため対話と解説のバランスも重要です。

 

外科手技について書かれたこちらの本は読みやすいのですが、ほぼ対話のみで構成されています。

もっと解説を充実させてほしかったという印象です。

ぼけーっとオペしとったらあかんで

 

というわけで、対話と解説のバランスが考慮された皮膚科の医学書があれば…と思っています。

つづく

次回は通読型の医学書についての雑感

www.derma-derma.net

Tzanck試験の精度はどれくらい?

ツァンク試験は数分程度で結果がわかるので、ヘルペスウイルス感染症の診断に有用な検査です。

それではどれくらいの精度があるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

J Am Acad Dermatol. 59(6): 958, 2008(PMID: 18929431)

 

ヘルペス患者249人(単純ヘルペス157人、帯状疱疹92人)に対してツァンク試験が行われました。

結果は以下の通りです。

感度:85%、特異度:100%

 

このように特異度は高く、かなり有用な検査です。

ただし皮疹の種類によって感度が変わることに注意が必要です。

【皮疹別のツァンク試験陽性率】

・水疱:100%
・びらん:59.7%
・膿疱:69.2%

 

水疱が破れてびらんになった病変や、膿疱化した古い病変から検査を行った場合は感度が低いようです。

ツァンク試験を行うときは、なるべく新しい水疱から検体を採取する必要があるでしょう。

 

抗体検査でヘルペスは診断できる?

ウイルス感染症の診断では抗体検査が行われます。

 

  • 急性期のIgM抗体の検出
  • ペア血清でのIgG抗体価上昇(2倍以上)

 

しかしウイルスの再活性化で発症する単純ヘルペスや帯状疱疹は、抗体検査で診断できるのでしょうか。

 

単純ヘルペス

まず単純ヘルペスについての論文を紹介します。

再発型の単純ヘルペス患者54例のIgM抗体の検査結果です。

臨床とウイルス 27(5), 428, 1999

(NAID)10009653598

IgM抗体陽性率:13%

 

9割の患者ではIgM抗体は陽性化しないようです。再発性の単純ヘルペスはIgM抗体で診断するのは難しいでしょう。

 

一方IgG抗体に関してはどうでしょうか。

先ほどの論文では、再発型の単純ヘルペス患者54例のIgG抗体も調べられています。

IgG抗体陽性率:100%

 

最初からIgG抗体は陽性です。それではペア血清で抗体価は上昇するのでしょうか。

性感染症学会のガイドラインに記載があります。

性感染症診断・治療ガイドライン2008

抗体が発症時から検出され、回復期における上昇がないことも多いので、診断には役に立たない。

 

IgG抗体は最初から陽性で上昇しないことが多いようです。そのためペア血清での診断も難しいでしょう。

 

帯状疱疹

次に帯状疱疹について見てみましょう。

83例の帯状疱疹患者でIgM抗体が調べられています。

J Dermatol. 45(2): 189, 2018 PMID: 29239011

IgM抗体陽性率:12.0%

 

このように9割の患者でIgM抗体は陽性化しないようです。帯状疱疹をIgM抗体で診断するのは難しいでしょう。

 

それではIgG抗体で診断することはできるのでしょうか。

先ほどの論文では83例の帯状疱疹患者でIgG抗体も調べられています。

IgG抗体陽性率:93.9%

 

最初からIgG抗体は陽性です。

(ただし抗体価は低値(50以下)新薬と臨床 62(5): 981, 2013)

 

それではペア血清で抗体価は上昇するのでしょうか。

ハント症候群16例のペア血清を調べた論文があります。

Facial N Res Jpn 24: 53, 2004 (NAID)10024480261

ペア血清でIgG抗体上昇:88%(2倍以上上昇:63%)

 

このように帯状疱疹では発症後にIgG抗体価が上昇するようです。

ただし帯状疱疹ではすぐにIgG抗体価が上昇するため、初回の検査時にすでに高値(50以上)のことがあります。

そのためペア血清で2倍以上上昇することは、あまり多くありません。

 

まとめ

再発性の単純ヘルペスではIgM抗体、IgG抗体は両方とも役に立ちません。

帯状疱疹ではIgM抗体は役に立ちませんが、IgG抗体のペア血清で診断することは可能です。