この度、医学書院様より本を出版しました。
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ステロイド外用の代表的な副作用は、塗った部位の「皮膚萎縮」と「皮膚バリア機能低下」です。
それではこれらの副作用はどれくらいの期間で出現するのでしょうか。
まず皮膚萎縮についての論文を見てみましょう。
Skin Pharmacol Appl Skin Physiol. 15(2): 85, 2002(PMID)11867964
健常人24人の前腕にワセリンとステロイド(very strong~strongクラス)を1日2回6週間外用し、「皮膚の厚さの計測」と「肉眼的所見の観察」が行われています。
まず皮膚の厚さから見てみます。
以下のようにステロイド外用2週間程度で皮膚の菲薄化が生じています。
ただし肉眼的な皮膚萎縮が観察されたのは2人で29日目からだったようです。
Two subjects developed slight, just identifiable atrophic changes in the test fields. These were first documented on day 29.
つまり肉眼的な副作用が生じるのは1か月くらいからと言えるでしょう。
それではバリア機能についてはどうでしょうか。
Br J Dermatol. 170(4): 914, 2014(PMID)24328907
20人のアトピー患者の前腕にステロイド(strongクラス)を1日2回外用し、4週後のTEWL(経皮水分蒸散量:バリア機能の指標)が調べられています。
以下のようにTEWLは有意に上昇しており、1か月間使用するとバリア機能が低下することが示されています。
【TEWL】
(外用前)12.6 →(外用4週後)13.2
P=0.038
これらの結果を総合すると、外用の副作用は1か月くらいから出現するようです。
3週間以内であれば比較的安全に使用できるでしょう。
ただし吸収率が高い顔面ではもっと早く副作用が出現する可能性があります。
そのためアトピー性皮膚炎ガイドラインには、顔面に対する1日2 回の外用は1週間程度にとどめるように記載されています。
高い薬剤吸収率を考慮して,原則としてミディアムクラス以下のステロイド外用薬を使用する.
その場合でも 1日2回の外用は 1 週間程度にとどめ,間欠投与に移行し,休薬期間を設けながら使用する.
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2008
このような副作用を予防するために間歇外用が有効と言われています。
次回の記事で紹介します。
ステロイドには様々な全身性副作用があります。
しかし外用で体内に吸収されるステロイド量は少なく、問題になることは多くはありません。
それでは全身性副作用に注意する必要がある使用量はどれくらいなのでしょうか。
論文を見てみましょう。
Therapeutic Research. 8(1): 222, 1988
3~6週間ステロイド外用(very strongクラス)を行い、副腎皮質機能の抑制の指標となる血中コルチゾール値が測定されています。
1日の使用量ごとに結果をまとめたのが以下のグラフになります。
使用量が1日10g以下であればコルチゾール値の低下はありません。しかし20g以上では1週間後から値が低下しています。
この結果からは、1日の使用量が10g以下であれば全身性副作用の可能性は低いと考えられます。
ただしstrongestクラスの場合は注意が必要です。
デルモベート1週間外用とリンデロン1週間内服のコルチゾール値を比較したデータを見てみましょう。
以下のようにデルモベート10gがリンデロン1錠に相当するようです。
つまりstrongestクラスは10g以下であっても全身性副作用が生じる可能性があります。
安易には使用せず、使う場合も短期間に留めるほうがよいでしょう。
自己免疫疾患に内服ステロイドを使用する際、症状が改善した後も急に中止せず漸減するのが一般的です。
そして減量の際、副作用を軽減するために間歇投与(2日に1回など)が行われます。
外用薬を使用する場合にも漸減は必要なのでしょうか。
そして間歇投与で副作用は軽減するのでしょうか。
ステロイド外用薬を漸減(間歇投与)した論文を見てみましょう。
まず副作用に関してアトピー性皮膚炎の論文を見てみます。
Br J Dermatol. 147(3): 528, 2002(PMID: 10354080)
ステロイド(very strongクラス)の外用で皮疹が消退したアトピー患者348人の調査です。
プラセボ群119人とステロイド群229人に分けられ、もともと皮疹があった部位に対して以下のような間歇外用が行われました。
週4回外用1か月間→週2回外用4か月間
結果ですが、いずれの群でも皮膚萎縮は生じておらず、副作用に関しては有意差はなかったようです。
【副作用】
・プラセボ群:皮膚萎縮0%、皮膚感染症12%
・ステロイド群:皮膚萎縮0%、皮膚感染症14%
(有意差なし)
週2回の外用であれば、長期間使用しても副作用は少ないと考えてよさそうです。
次に漸減の有効性について見てみます。
先ほどのアトピー性皮膚炎に関する論文です。
Br J Dermatol. 147(3): 528, 2002(PMID: 10354080)
以下のようにステロイド間歇外用を行った群では再燃率が低くなっています。
【再燃率】
・プラセボ群:66%
・ステロイド群:25%
(P<0.001)
つまりアトピー性皮膚炎では、ステロイドの漸減が有効(漸減せずに中止すると再燃する)とわかります。
次に手湿疹に関する論文を見てみましょう。
Br J Dermatol. 140(5): 882, 1999(PMID)10354026
ステロイド(very strongクラス)外用で症状が改善した手湿疹患者106人の調査です。
A群(ステロイド週3回外用)、B群(ステロイド週2回外用)、C群(外用なし)の3グループに分けられ、9カ月間の再燃率が調べられています。
【再燃率】
・A 群 (ステロイド週3回外用):17%
・B 群(ステロイド週2回外用) :32%
・C 群 (外用なし):74%
やはり外用を中止すると多くの患者が再燃していますが、ステロイドを漸減した患者は再燃が少なくなっています。
以上の結果からアトピーや手湿疹では、ステロイド外用薬を漸減したほうがよさそうです。
また週2回の外用であれば副作用は少なく、比較的安全に使用することができます。
ただ間歇投与をどれくらいの期間続けたらよいかについては、まだはっきりしたデータがないようです。
ステロイド外用薬と保湿剤を併用することで、症状をより改善することができる可能性があります。
そこでステロイド外用薬と保湿剤を混合することがあります。
しかし混合して薄まった場合も効果は維持されるのでしょうか。
今回は抗炎症効果について考えてみます。
論文を見てみましょう。
臨床医薬. 6(8): 1671, 1990 (NAID: 80005425992)
アンテベート軟膏をワセリンで2~128倍に希釈して、抗炎症効果の指標である血管収縮能の試験が行われました。
具体的には健常人20人の背部にそれぞれの希釈の外用薬を塗布し、血管収縮反応(血管収縮で皮膚が蒼白になる現象)の陽性率が調べられています。
以下のように16倍希釈までは大きな変化はありませんが、32倍以上で陽性率が低下してくるようです。
【血管収縮反応陽性率】
・希釈なし:95%
・2倍希釈:90%
・4倍希釈:90%
・8倍希釈:95%
・16倍希釈:85%
・32倍希釈:30%
・64倍希釈:0%
・128倍希釈:0%
つまりステロイドを混合して2倍に希釈しても臨床効果は低下しないと考えられます。
この理由は外用薬中のステロイドは「飽和状態」で、ほとんどが結晶化していることにあります。
飽和水溶液に水を加えても濃度が変わらない(溶け残っている結晶が溶解する)のと同じ理屈で、ステロイド外用薬を希釈してもステロイドの濃度は変わりません。
逆に言えばステロイドを希釈しても副作用は減りません。
「副作用がないように薄めたステロイド」という言葉を聞くことがありますが、希釈にそのような効果はないことに注意が必要です。
それではステロイドと保湿剤を混合した場合、保湿効果についてはどうなのでしょうか。次の記事で解説します。