皮膚科の豆知識ブログ

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はじめに---このブログについて

「皮膚科の豆知識ブログ」は日々の小さな疑問を解決する論文を紹介するブログです。

皮膚疾患は数が多く、大規模スタディがほとんど行われていません。そのため診療は経験に基づいて行われエビデンスは軽視されがちです。

そこで、このブログでは皮膚科診療にまつわる様々なエビデンスを紹介していきたいと思っています。

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ステロイド外用薬の選びかた・使いかた(medicina連載のまとめ)

現在、医学雑誌medicinaで皮膚科治療薬の連載を行っています。

www.derma-derma.net

 

Vol.61 No.1~5でステロイド外用薬編が終了したので、その簡単なまとめを記載しておきます。

 

作用機序と有効な皮膚疾患

  • ステロイド外用薬は、表皮内の炎症細胞や表皮細胞の活性を抑制して抗炎症効果を発揮する。
  • そのため表皮の炎症(湿疹)に対して最適な薬剤である。
  • 真皮以下の炎症については、真皮上層くらいまでは効果はあるが、下層~皮下組織へはほとんど届かないので効果は期待できない。

 

薬剤の選びかた

①強さ

  • ステロイド外用薬は5つのランク(ストロンゲスト(I群)、ベリーストロング(II群)、ストロング(III群)、ミディアム(IV群)、ウィーク(V群))に分類されている。
  • 普段使用するのはベリーストロング~ミディアムランク。
  • 不十分な強さのものをダラダラ使うより、さっさと改善させたほうがステロイドを早く中止できるため、筆者は初診時はベリーストロングランクを選択することが多い
  • ただし顔面、陰部などの薬剤の吸収が良い場所や小児に使用する際はランクを下げる。

②剤形

  • ステロイド外用薬には主に軟膏、クリーム、ローションの3つの剤形が存在する。
  • 皮膚刺激が少ない軟膏を選択するのが基本。
  • クリームは伸びがよく塗りやすいのが特徴だが、軟膏と比べて刺激性があるのが欠点。
  • ローションも刺激性があるが、頭部には軟膏やクリームが塗りにくいためローションが好まれる。

 

薬剤の使いかた

①副作用と使用期間

  • ステロイド外用剤には吸収されて全身に現れる「全身性副作用」と、塗った部位の皮膚に現れる「局所副作用」がある。
  • 日常診療における使用方法では全身的副作用は生じない。
  • 局所副作用は4週以降に生じるため使用は3週以内に留める。ただし薬剤の吸収率良い顔面や陰部では2週間以内が望ましい。

 

②塗る量

  • 示指の先端から第一関節までチューブから押し出した量(約0.5g)が、成人の手のひらで2枚分(成人の体表面積でおよそ2%)に対する適量。

 

③塗る回数

  • 急性期は1日2回外用する。
  • 3週間以降の治療効果については1日1回と2回に有意な差はない。

 

初期対応と皮膚科コンサルトのタイミング①/著書「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の補足説明

拙著「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の読者から、皮疹をみたときの初期対応と皮膚科コンサルトのタイミングが知りたいとのご意見をいただきました。

そこで紅斑を3つに分けて、それぞれの対応についてこのブログで解説していきます。

今回は表面がザラザラの紅斑(表皮の病変)についてです。

 

緊急性のある病態

初期対応を考える上で重要なのは緊急性です。

表皮に病変があり表面がザラザラした紅斑には、書籍で述べたように4つの鑑別診断があります。

①湿疹

②真菌症

③悪性腫瘍

④炎症性角化症

 

この中で危険性が高いのは③悪性腫瘍です。ですが数日以内に進行するわけではないので、緊急性としては高くはありません。

つまり緊急性が高い病態は少ないと考えよいと思います。

したがってコンサルトのタイミングには比較的余裕があると言えます。

 

初期対応

それでは初期対応について考えていきましょう。以下の3パターンが考えられます。

 

  1. 真菌検査
  2. 何もせず様子をみる
  3. ステロイド外用

 

まず必要なのは真菌検査です。

真菌検査が陽性であれば外用抗真菌薬、陰性であればステロイド外用薬を使用してください。

 

真菌検査ができない場合は診断がつきませんが、近々皮膚科医の診察を受けられるなら何もせずに様子を見てもよいでしょう。

 

しかし真菌検査ができず、皮膚科医の診察を受けられない場合は、何かしらの外用薬を処方する必要が出てきます。

ただ真菌検査で確定診断がついていない段階では抗真菌薬は使用しないでください。

したがって湿疹か皮膚真菌症か判断できない場合は、まずステロイドを使用します。

 

皮膚科コンサルトのタイミング

次に皮膚科コンサルトのタイミングについて解説していきます。

①真菌検査を行った場合

抗真菌薬あるいはステロイド開始後2週間で改善しない場合、診断を見直すべきです。その時点で皮膚科コンサルトが必要です。

 

②何もせず様子を見た場合

皮膚科受診が可能なタイミングでコンサルトしてください。

 

③真菌検査ができずステロイド外用を行った場合

2週間以内に改善しない場合は、真菌検査を行い診断を確定する必要があります。その時点で皮膚科コンサルトしましょう。

 

今回は以上になります。

次回は表面がツルツルの病変について解説します。

 

帯状疱疹になった人にワクチンは必要ですか?

帯状疱疹の既往がある患者に帯状疱疹ワクチンは必要なのでしょうか。

論文を調べてみました。

 

再発の頻度

まず帯状疱疹の再発はどれくらいあるのでしょうか。

帯状疱疹に関するシステマティックレビューを見てみましょう。

BMJ Open.4(6): e004833, 2014、 PMID: 24916088

 

9つの研究をまとめた結果では、再発は帯状疱疹患者の1~6%にみられるようです。

The risk of recurrence of HZ ranged from 1% to 6%, with long-term follow-up studies showing higher risk (5-6%). 

 

頻度は少ないですがゼロではありません。

そのためCDCは、帯状疱疹の既往がある患者にもワクチンを推奨しています(CDCは遺伝子組換えワクチン推し)。

Herpes zoster can recur. Adults with a history of herpes zoster should receive the recombinant zoster vaccine.

(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 67(3): 103, 2018、PMID: 29370152)

 

(生ワクチンと遺伝子組換えワクチンについては以下の記事参照)

www.derma-derma.net

 

再発までの期間

それでは再発はどれくらいの時期に起こるのでしょうか。

再発性帯状疱疹患者1125人のデータがまとめられた論文を見てみましょう。

Open Forum Infect Dis. 4(1): ofx007, 2017、PMID: 28480280

 

以下のように再発までの期間の平均13.7年です。

またピークは3~11年後で、約半数の患者がこの間に再発しています。

再発までの期間

・平均:13.7年(2ヶ月~73年)
・ピーク:3~11年

 

ちなみに1年以内の再発したのは9人(0.8%)で、帯状疱疹発症直後はウイルスに対する免疫が高まっていて再発は少ないようです。

Recurrence within 1 year was observed in 9 patients.

 

接種のタイミング

 

次に接種のタイミングはいつごろがよいのでしょうか。

遺伝子組換えワクチンの接種に関する海外のガイドラインを見てみましょう。

Expert Rev Vaccines. 20(9):1065, 2021、PMID: 34311643

【帯状疱疹既往者に対する遺伝子組換えワクチンの接種時期】

・アメリカ:急性期症状が軽快してから
・オーストラリア:急性期症状軽快から最低2か月あけて
・カナダ:最低1年あけて

 

このように国によって接種のタイミングはバラバラで、治癒後すぐに接種というものから、1年あけるというものまで幅があるようです。

そのため現時点では、接種のタイミングを明確に決めるのは難しそうです。

 

帯状疱疹発症から1年以内は再発が少ないことを考えると、もしかすると急ぐ必要はないかもしれません。

しかし再発が増える3年目までには接種したほうがよいのではないでしょうか。

 

帯状疱疹ワクチンはどちらを選べばいいですか?

現在使用可能な帯状疱疹ワクチンは2種類あります。

  • 生ワクチン
  • 遺伝子組換えワクチン

 

これらはどう違うのでしょうか。論文を調べてみました。

 

予防効果

CDCのレコメンデーションにそれぞれの予防効果が記載されています。

MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 67(3): 103, 2018、PMID: 29370152

 

以下のように遺伝子組み換えワクチンのほうが予防効果が高いようです。

生ワクチンの予防効果

・60代:64%

・70代以上:38%

 

遺伝子組換えワクチンの予防効果

・60代:97%

・70代以上:91%

 

特にに注目すべき点は、生ワクチンは高齢になると効果が下がってしまうことです。

一方、遺伝子組換えワクチンは高齢者でも効果が出ています。

したがって高齢者では遺伝子組み換えワクチンのほうが望ましいと言えそうです。

 

効果の持続期間

次に効果の持続について見てみましょう。

まず生ワクチン接種者を10年間追跡調査した論文です。

BMJ.383: e076321, 2023、PMID: 37940142

 

以下のように生ワクチンは5年で効果が半分、10年で1/3になってしまいます。

【予防効果】

1年目:67.2%

3年目:42.0%

5年目:37.0%

10年目:19.1%

 

それでは遺伝子組換えワクチン接種者を10年間追跡した結果はどうでしょうか。

Open Forum Infect Dis. 9(10): ofac485, 2022、PMID: 36299530

 

こちらも効果は下がるようですが、10年後もある程度持続しています。

【予防効果】

1年目:97.7%

3年目:92.4%

6年目:88.5%

10年目:73.2%

 

以上のように遺伝子組換えワクチンのほうが効果が高く、持続期間も長くなっています。

そのためCDCは生ワクチンよりも遺伝子組換えワクチンを推奨しています。

RZV is preferred over ZVL for the prevention of herpes zoster and related complications.

MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 67(3): 103, 2018

 

副作用

最後に副反応について調べてみます。

 

まず生ワクチンはどうでしょうか。

ワクチン接種者19,270名の調査を見てみましょう。

N Engl J Med. 352(22): 2271, 2005、PMID: 15930418

 

以下のように副反応は少ないようです。

注射部位反応:48.3%

全身性副作用:6.3%(発熱:0.8%)

 

遺伝子組換えワクチンではどうでしょうか。

ワクチン接種者7698名の調査を見てみましょう。

N Engl J Med. 372(22): 2087, 2015、PMID: 25916341

 

以下のように生ワクチンより副反応の頻度が高くなっています。

注射部位反応:81.5%

全身性副作用:66.1%(発熱21.5%)

 

遺伝子組換えワクチンは効果は高いのですが、副反応については十分説明しておく必要がありそうです。

 

次回の記事では帯状疱疹の既往者にワクチンが必要なのかを考えます。

www.derma-derma.net