皮膚科の豆知識ブログ

皮膚科専門医のブログです。日々の小さな疑問を解決する論文を紹介します。

はじめに---このブログについて

「皮膚科の豆知識ブログ」は日々の小さな疑問を解決する論文を紹介するブログです。

皮膚疾患は数が多く、大規模スタディがほとんど行われていません。そのため診療は経験に基づいて行われエビデンスは軽視されがちです。

そこで、このブログでは皮膚科診療にまつわる様々なエビデンスを紹介していきたいと思っています。

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粉瘤は見た目だけで診断できる?

粉瘤の診断は一般的に視診と触診から行われます。

しかし典型例では診断は容易ですが、ヘソが目立たない場合は、正直なところ診断に確信が持てないケーズも少なくはありません。

粉瘤はどれくらい正確に診断できるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

日皮会誌 2004; 114: 1889-97. NAID: 130004708322

 

粉瘤の臨床診断名で病理検査が行われた2856例の後方研究です。

これらの症例の病理診断が調査されています。

【病理診断】

・粉瘤(表皮嚢腫、外毛根鞘嚢腫):86%
・粉瘤以外:14%

 

このように粉瘤として切除された症例の14%は誤診されていたことになります。

 

誤診された症例は石灰化上皮腫や皮膚線維腫などの良性疾患がほとんどですが、悪性腫瘍も含まれており注意が必要です。

【粉瘤と誤診された疾患】

・良性腫瘍(石灰化上皮腫,皮膚線維種など)    72%
・腫瘍以外(炎症性疾患や沈着症など)    24%
・悪性腫瘍    4%

 

それでは臨床所見だけでどれくらい診断できるのでしょうか。

別の論文を見てみましょう。

Arch Dermatol 2009; 145: 761-4.(PMID)19620556

 

手術で切除された皮内、皮下腫瘍183例の後方研究です。

臨床診断、エコー診断、病理診断の一致率が調査されています。

臨床所見の陽性尤度比は6.67で、粉瘤を確実に診断するのはやはり難しいようです。

【粉瘤の臨床診断】

・感度:43%
・特異度:94%
(陽性尤度比:6.67、陰性尤度比:0.61)

 

それではエコー検査を併用した場合はどうでしょうか。

以下のように陽性尤度比が大きく上昇します。

【粉瘤のエコー診断】

・感度:66%
・特異度:99%
(陽性尤度比:91.6、陰性尤度比:0.34)

 

典型的な所見(後方エコー増強、外側陰影など)があれば確定診断的な検査と言えそうです。

診断に迷う場合は積極的にエコー検査を行うのがよいでしょう。

 

ただし感度は低く特徴的所見がみられない場合も多いようです。

そのため陰性尤度比が低く、エコーでも除外診断はできないことに注意が必要です。

 

粉瘤の炎症は細菌感染なのか?

粉瘤は炎症を起こすことがあります。

炎症を起こす頻度は表皮嚢腫で50%、外毛根鞘嚢腫で15%と報告されています。

Clinically, trichilemmal  cysts become inflamed  infrequently 14.8%, in this series compared  with 50% of epidermoid  cysts.

Br J Dermatol. 94(4): 379, 1976

 

従来、粉瘤の炎症は細菌感染症の一つとしてとらえられていました。

しかし近年は考え方が変わってきています。

論文を見てみましょう。

Arch Dermatol. 134(1): 49, 1998 PMID: 9449909

 

炎症を起こした粉瘤25例と、起こしていない粉瘤25例の調査です。

皮膚を切開し両者の内容物から細菌培養検査が行われています。

 

結果は以下の通りで、両者に培養陽性率、陽性菌種の差はなかったようです。

 

この結果から、粉瘤の炎症はほとんどが細菌感染によるものではなく、角化物に対する異物反応と考えられています。

皮膚感染症に対して一般的に使用されるセファロスポリン系の抗菌薬は効果がないと考えてよいでしょう。

 

そのため米国皮膚科学会は炎症性粉瘤に対するルーチンの抗菌薬投与は推奨していません。

Don’t routinely prescribe antibiotics for inflamed epidermal cysts.

Ten Things Physicians and Patients Should Question

 

万が一抗菌薬を使用せざるをえなければ、抗炎症作用のあるテトラサイクリン系やマクロライド系を選択するのがよいかもしれません。

If the organism is not significantly contributingto the inflammation, then would use of antibiotics withknown anti-inflammatory properties, such as erythromycin or tetracycline, alter the clinical course?

 

粉瘤はどれくらい再発するの?

粉瘤の術後再発症例に出会うことがあります。

手術中に嚢腫壁を取り残すと再発することが多い印象がありますが、再発率はどのくらいなのでしょうか。

論文を見てみましょう。

Dermatol Surg. 28(8): 673, 2002 PMID: 12174056

 

くり抜き法で切除を行った粉瘤825例の後方研究です。

これらの患者にアンケート用紙を郵送し、再発率が調査されました。

再発症例:45例(5.5%)

再発までの期間(平均):19.8カ月

 

結果は5.5%ですが、アンケートに返信しなかった患者もいるため、再発率は5~10%程度と推測されています。

Patients should  be  warned  of  the  5–10%  risk  of  cyst  recurrence in addition to possibilities of infection and scarring as part of the informed consent process.

 

別の論文も見てみましょう。

Dermatol Surg. 32(4): 520, 2006 PMID: 16681659

こちらは粉瘤60例の前方研究です。

切開法(29例)とくり抜き法(31例)で手術を行った後、1~2年間の経過観察を行い、それぞれの再発率が調べられています。

再発率

・切開法:0%
・くり抜き法:3%

 

観察期間が短い可能性はありますが、こちらの論文では再発率はかなり低く、特に切開法では再発例はなかったようです。

 

また大きさで分けた場合は2㎝以下では再発はなく、小さな粉瘤の再発率は低いと考えてよさそうです。

再発率

<2cm未満>
・切開法:0%
・くり抜き法:0%

<2cm以上>
・切開法:0%
・くり抜き法:20 %

 

このように論文によって再発率は異なっており、はっきりしません。

おそらく手術の手技や腫瘍の大きさによって大きく左右されるのでしょう。

 

皮膚真菌症の原因菌は何が多い?

内臓や血液の真菌感染症(深在性真菌症)はカンジダやアスペルギルスが多いと言われています。

それでは皮膚真菌症の原因菌は何が多いのでしょうか。

論文を見てみましょう。

Med Mycol J. 60(3): 75, 2019 PMID: 31474694

 

皮膚科を受診した皮膚真菌症患者6776人のまとめです。

・白癬菌:85.2%
・カンジダ:11.2%
・マラセチア:3.5%
・その他:0.2%

 

このようにほとんどが白癬菌で、一部はカンジダが原因になるようです。

 

それでは部位による差はあるのでしょうか。

別の論文を見てみましょう。

J Dermatol. 47(6): 615, 2020 PMID: 32293052

長崎大学で培養検査が行われた皮膚真菌症50年分(約4万例!)の統計データです。

部位別の原因菌株がまとめられています。

 

このように体や手足では95%以上が白癬菌のようです。

ただし股部や爪ではカンジダの割合が比較的多いので注意を要します。

外用抗真菌薬の中にはカンジダへの感受性が低いものがあるため、薬剤の選択は慎重に行う必要がありそうです。