皮膚科の豆知識ブログ

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はじめに---このブログについて

「皮膚科の豆知識ブログ」は日々の小さな疑問を解決する論文を紹介するブログです。

皮膚疾患は数が多く、大規模スタディがほとんど行われていません。そのため診療は経験に基づいて行われエビデンスは軽視されがちです。

そこで、このブログでは皮膚科診療にまつわる様々なエビデンスを紹介していきたいと思っています。

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褥瘡・皮膚潰瘍治療薬の選びかた・使いかた(medicina連載まとめ)

現在、医学雑誌medicinaで皮膚科治療薬の連載を行っています。

www.derma-derma.net

 

Vol.61 No.12~13で褥瘡・皮膚潰瘍治療薬編が終了したので、その簡単なまとめを記載しておきます。

 

作用機序と有効な皮膚疾患

・褥瘡・皮膚潰瘍治療薬は創傷に対して使用する外用薬である。

・創から出る滲出液の中には細胞増殖因子やサイトカインなどが多く含まれており、乾燥させると傷の再生には不利になる。

・しかし過剰な滲出液は創傷治癒を阻害する。

・外用薬を用いて適切な湿潤環境を維持することで創傷治癒が促進される。

 

薬剤の選びかた

・薬剤を①油脂性基剤(油脂性軟膏)、②水溶性基剤(水溶性軟膏)、③乳剤性基剤(クリーム)の3つに分類する。

・創面の水分量に応じて3つの剤形を使い分けるのが治療の原則。

・創面の水分量が多いときは水分をよく吸収する水溶性基剤、水分量が少ないときは水分を多く含んだ乳剤性基剤、水分量が適切な場合や浅い傷では水分を保つ油脂性基剤を使用する。

 

①油脂性基剤

・油脂性基剤の外用薬には1)薬効成分を含まない製剤、2)抗菌薬が配合された製剤、3)創傷治癒を促進させる成分が配合された製剤がある。

・創面の保護と保湿効果を期待するなら薬効成分を含まない白色ワセリンで十分。

 

②水溶性基剤

・水溶性基剤の外用薬にはヨウ素製剤とヨウ素を含まない製剤がある。

・吸水能が高いのはヨウ素製剤の精製白糖・ポピドンヨード軟膏。

 

③乳剤性基剤

・乳剤性基剤の外用薬にはスルファジアジン銀とトレチノイントコフェリルがある。

・スルファジアジン銀は幅広い抗菌力をもち、壊死組織がある乾燥した創面に感染制御目的で使用する。

・浅い傷や治癒が進んでいる創面では銀の細胞毒性が創傷治癒を遅らせるため、トレチノイントコフェリルを使用。

 

保湿剤の選びかた・使いかた(medicina連載まとめ)

現在、医学雑誌medicinaで皮膚科治療薬の連載を行っています。

www.derma-derma.net

 

Vol.61 No.8~10で保湿剤編が終了したので、その簡単なまとめを記載しておきます。

 

作用機序と有効な疾患

・角層に含まれる水分量が低下した状態(ドライスキン)では痒みに過敏になり、掻きむしって湿疹が生じる

・保湿剤は角層の水分を増加させドライスキンを改善し、湿疹の発症を防止する。

・ただし保湿剤には炎症に対する直接的な効果は期待できず、湿疹を起こしてしまった場合はステロイドを使う必要がある。

 

薬剤の選びかた

1)2種類の保湿剤

・保湿剤には皮脂膜の役割を持つ「エモリエント」と保水成分の役割を持つ「モイスチャライザー」がある。

・モイスチャライザーのほうが保湿効果に優れている。

 

2)2種類のモイスチャライザー

・保険適用があるモイスチャライザーには尿素とヘパリン類似物質がある。

・尿素には濃度10%と20%の製剤があるが、保湿剤としては10%のほうが適している。

・エビデンスが豊富なのは尿素だが、一過性の刺激症状を生じることがある。一方、ヘパリン類似物質はエビデンスが乏しいが、刺激症状が少ない。

 

3)剤形の選びかた

・モイスチャライザーにはクリーム、ローション、スプレーの3つの剤形がある。

・さらにクリームには油中水型、水中油型の2種類、ローションには乳剤性、溶液性の2種類、スプレーには霧状、泡状の2種類がある。

・剤形の違いによる保湿効果の優劣を示すエビデンスは乏しいが、使用感が異なっており、患者の好みによって使い分ける。

・油分を多く含む剤形はベタつきがあり、油分を含まない剤形はサラサラしている。

 

薬剤の使いかた

1)塗布量

・示指の先端から第 1 関節部まで口径5 mm のチューブから押し出された量(約 0.5 g)が手掌 2 枚分(体表面積のおよそ 2%)に対する適量。

・ローションの場合は1円玉大に出した量(約0.5g)が1FTU。

・実際に塗ってみると、皮膚が少しテカテカして光り、ティッシュが貼り付く程度になる。

 

2)回数

・1日2回以上の使用が理想的。

 

3)タイミング

・入浴洗浄で皮膚表面の皮脂が取れるため、そのまま放置しておくと皮膚の乾燥が進む。

・2回のうち1回は入浴後に使用する。

 

4)順番

・ステロイドと保湿剤はどちらを先に塗ってもよい。

・個人的には先に広めに保湿剤を塗ってから、病変の部位にステロイド外用薬を塗るように指示している。

 

4つの花粉症と食物アレルギー

果物や豆類に含まれるアレルゲンと、食物アレルゲンの構造は類似しています。

そのため花粉症患者が特定の食物を摂取すると、交差反応でアレルギー症状を発症することがあります(花粉・食物アレルギー症候群)。

 

それでは具体的にはどんな花粉が症状を起こすのでしょうか。

まず花粉症を起こす植物をまとめてみます。

 

花粉症を起こす植物と飛散時期

アレルギーを起こす花粉は樹木と雑草の2つに分類されます。

そして樹木にはヒノキ科とカバノキ科。雑草にはイネ科とキク科があります。

 

樹木

  • ヒノキ科(スギ、ヒノキ)
  • カバノキ科(ハンノキ、シラカバ)

 

雑草

  • イネ科(オオアワガエリ、カモガヤ)
  • キク科(ヨモギ、ブタクサ)

 

このように花粉は4つの科に分類されますが、飛散時期についても見てみましょう。

おおむね以下のようになるようです。

樹木は春に、雑草は夏から秋に飛散します。

【花粉の飛散時期】

春:ヒノキ科、カバノキ科

夏:イネ科

秋:キク科

 

花粉症の頻度

それでは、それぞれの花粉症患者はどれくらいいるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

日本鼻科学会会誌 56 (4), 632-638, 2017、NAID: 130006286423

1. ヒノキ科(スギ):38%

2. イネ科:19%

3. キク科:10%

 

スギ花粉症が最も多く、スギ花粉症患者の約7割がヒノキにも感作されています。

Ann Allergy Asthma Immunol. 74(4): 299, 1995、PMID: 7719888

そしてイネ科、キク科と続きます。

カバノキ科は主に本州中部以北に自生するため、ヒノキ、イネ、キク科と比較して患者は少ないようです。

 

ただし北海道での頻度は高く、6%と報告されています。

日本耳鼻咽喉科学会会報 116 (7), 779, 2013、NAID:10031189745

 

花粉症と食物アレルギー

次に食物と交差反応を起こしやすい花粉についてまとめます。

花粉食物アレルギー症候群の原因となる抗原は、PR-10とプロフィリンの2種類です。

果物・野菜アレルギー患者の抗原感作率

・PR-10:68%

・プロフィリン:27%

カバノキ科花粉症関連成人果物野菜アレルギー患者における感作アレルゲンプロファイル

 

まずPR-10はバラ科の果物(リンゴ、モモ)やマメ科の食物に含まれる抗原です。

そしてこのPR-10はカバノキ科花粉にも含まれています。

そのためカバノキ科花粉症患者は食物アレルギーの発症率が高く、40%の患者に生じるとされています。

口腔・咽頭科 32 (2) 103-107, 2019.

 

次にプロフィリンはウリ科の果物(メロン、スイカ)含まれる抗原です。

そしてこのプロフィリンはイネ科、キク科花粉にも含まれています。

ただし主要抗原ではないため感作率は低く、食物アレルギーを生じるのは花粉症患者の10-20%とされています。

 

一方、ヒノキ科の花粉にはPR-10、プロフィリンは含まれておらず、食物アレルギーの発症は少ないようです。

 

したがって食物アレルギー患者をみた場合は、まずカバノキ科、キク科、イネ科の花粉症に注意する必要があるでしょう。

 

食物以外の原因で起こる5つの食物アレルギー

食物アレルギーの中には、交差反応によって食物以外の原因から生じるものがあります。

今回は交差反応性の食物アレルギーを5つ紹介したいと思います。

 

①花粉

「花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)」

果物や豆類には花粉のアレルゲンと類似の構造が含まれています。

そのため花粉症患者が特定の食物を摂取すると、交差反応から口腔粘膜の刺激感などのアレルギー症状を発症します。

交差反応はイネ科花粉症患者の10~20%にみられると報告されています。

ただしカバノキ科花粉症では頻度が高く、40%の患者に食物アレルギーを合併するようです。

口腔・咽頭科 32 (2) 103-107, 2019.

 

②ラテックス

「ラテックス・フルーツ症候群」

果物や野菜に含まれるアレルゲンとラテックスアレルゲンは構造が類似しています。

そのためラテックスアレルギー患者は、交差反応から果物や野菜に対するアレルギー症状が生じる場合があります。

交差反応はラテックスアレルギーの患者の30~50%にみられると報告されています。

Biochem Soc Trans. (Pt 6): 935, 2002 PMID: 12440950

 

③ネコ

「ポーク・キャット症候群」

ネコの血清アルブミンと豚肉のアレルゲンの構造は類似しています。

ネコに感作された後、豚肉摂取時に交差反応によってアレルギー症状を引き起こします。

交差反応はネコアレルギー患者の1~3%にみられると報告されています。

World J Methodol. 5(2): 31, 2015 PMID: 26140270

 

④マダニ

「α-Gal症候群」

マダニの唾液に含まれているa-Galと獣肉(牛肉、豚肉)のアレルゲンの構造は類似しています。

マダニに繰り返し咬まれることによってa-Galに感作され、獣肉の摂取によってアレルギー症状を引き起こします。

 

⑤クラゲ

クラゲは毒針を刺す時にPGAという成分を生み出し、クラゲに繰り返し刺されるとPGAに感作されます。

納豆のねばねば成分にもPGAが含まれており、納豆摂取時にアレルギー症状を引き起こします。

 

まとめ

食物アレルギーでは食物だけでなく、①花粉、②ラテックス、③ネコ、④マダニ、⑤クラゲにも注意を要します。

これらの原因についても聴取する必要があるでしょう。