皮膚科の豆知識ブログ

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皮膚疾患は数が多く、大規模スタディがほとんど行われていません。そのため診療は経験に基づいて行われエビデンスは軽視されがちです。

そこで、このブログでは皮膚科診療にまつわる様々なエビデンスを紹介していきたいと思っています。

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NSAIDs外用薬は皮膚炎に使わないほうがいい?(効果について)

NSAIDs外用薬には2種類あります。

 

  • 皮膚疾患用(皮膚炎)
  • 整形外科疾患用(関節痛、筋肉痛)

 

今回は湿疹・皮膚炎に使用する皮膚疾患用NSAIDs外用薬について見てみます。

 

NSAIDs外用薬の位置づけ

ステロイド外用薬には免疫抑制や皮膚萎縮などの副作用があります。

一方、NSAIDs外用薬にはそれらの副作用がなく、かつては「長期的に使用しやすい薬剤」と言われていたようです。

そのため小児の湿疹やアトピー性皮膚炎の皮疹に対して積極的に使用されていました。

 

しかし現在は皮膚炎に対する使用は推奨されていません。

アトピー性皮膚炎ガイドラインにはこのように書かれています。

NSAIDs の抗炎症効果は、ステロイド外用薬と比較すると極めて弱く、アトピー性皮膚炎に対して有効であるというエビデンスはない。

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021

 

それでは実際にはどれくらいの効果があるのでしょうか。

 

NSAIDs外用薬の効果

論文を見てみましょう。

ermatologica. 154(3): 177, 1977 PMID: 140084

 

皮膚炎患者193人(アトピー性皮膚炎67人、接触皮膚炎101人、脂漏性皮膚炎25人)に対するNSAIDs外用薬(ブフェキサマク)の臨床研究です。

3つの組み合わせ(①65人、②69人、③59人)で左右比較試験が行われました。

 

①ブフェキサマクvs mediumランクのステロイド(トリアムシノロンアセトニド)
➁ブフェキサマクvs weakランクのステロイド(ヒドロコルチゾン)
③ブフェキサマクvsプラセボ

 

治療開始後2週間時点で有効性が比較されています。

まず①ではステロイドのほうが有効性が高かったようです。

・ブフェキサマクが有効:11%
・トリアムシノロンが有効:89%

(p<0.001)

 

また➁でもステロイドほうが有効です。

・ブフェキサマクが有効:28%
・ヒドロコルチゾンが有効:72%

(p<0.05)

 

最後に③はプラセボとの有意差はありません。

・ブフェキサマクが有効:67%
・プラセボが有効:33%

(p=0.10~0.20)

 

この結果からは、NSAIDs外用薬の効果はweakランクのステロイドより低く、プラセボとの差がないということになります。

 

まとめ

NSAIDs外用薬の皮膚炎に対する効果はあまり期待できないようです。

ただ別のNSAIDs外用薬(イブプロフェンピコノール)では、mediumランクのステロイドと同等の効果があったという論文もあります。

基礎と臨床20(7): 3831, 1986

 

そのため一概に効果がないとは言えませんが、有効性のエビデンスは乏しいと言えるでしょう。

 

次回はNSAIDs外用薬の副作用について解説します。

www.derma-derma.net

 

NSAIDs外用薬は皮膚炎に使わない方がいい?(副作用について)

NSAIDs外用薬には2種類あります。

 

  • 皮膚疾患用(皮膚炎)
  • 整形外科疾患用(関節痛、筋肉痛)

 

今回は湿疹・皮膚炎に使用する皮膚疾患用NSAIDs外用薬について見てみます。

 

NSAIDs外用薬の位置づけ

ステロイド外用薬には免疫抑制や皮膚萎縮などの副作用があります。

一方、NSAIDs外用薬にはそれらの副作用がなく、かつては「長期的に使用しやすい薬剤」と言われていたようです。

そのため小児の湿疹やアトピー性皮膚炎の皮疹に対して積極的に使用されていました。

 

しかし現在は皮膚炎に対する使用は推奨されていません。

それではどのような問題点があるのでしょうか。

論文を見てみます。

 

NSAIDs外用薬の問題点

NSAIDs外用薬の問題点は感作性です。

積極的に使用されていた時期(2000年)の論文では、NSAIDs外用薬のパッチテストを行うとアトピー患者の16%が陽性だったと報告されています。

皮膚 42(増刊22): 49, 2000

 

つまり繰り返し使用すると感作され、接触皮膚炎を起こす可能性があるということです。

 

NSAIDs外用薬の接触皮膚炎症例のまとめを見てみます。

Environ Dermatol 6(4): 216, 1999

接触皮膚炎症例の55例の内訳

・ブフェキサマク(アンダーム):49%
・イブプロフェンピコノール(ベシカム、スタデルム):33%
・ウフェナマート(コンベック):11%
・スブロフェン(トパルジック):5%
・ベンダザック(ジルダザック):2%

 

このようにブフェキサマクは接触皮膚炎が多く(使用頻度が多いからかもしれませんが)、症状が重篤であることから2010年にヨーロッパで発売中止勧告が出されました。

そのため日本でも発売中止になっています。

このことからNSAIDs外用薬に対するネガティブなイメージが広がり、使用頻度は激減したようです。

 

ただブフェキサマク以外の製剤も接触皮膚炎のリスクが高いかは分かりません。

ウフェナマートは感作性が低いという話もあるようです。

ウフェナマート製剤は接触皮膚炎の報告症例も少なく、感作性の低い物質と考えられる。

治療学 39(10): 1083, 2005

 

とはいえ接触皮膚炎のリスクはゼロではありません。

また効果に対するエビデンスも乏しいことから、積極的に使用するメリットは低いかもしれません。

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オイラックスにはどんな効果がある?(殺虫効果)

オイラックスという外用薬があります。

この薬剤にはどのような効果があるのでしょうか。

 

オイラックスの成分であるクロタミトンは、1940年代に疥癬に対する殺虫剤として開発されました。

しかしその後に痒みに対する効果が分かり、鎮痒性外用薬としても使用されるようになったようです。

 

つまり以下の2つの作用があるということです。

 

  • 殺虫効果
  • 鎮痒効果

 

今回は殺虫効果について見てみます。

 

保険適用

まずオイラックスには疥癬に対する保険適用はありません。

オイラックスの適用疾患

湿疹、蕁麻疹、神経皮膚炎、皮膚そう痒症、小児ストロフルス

 

しかし社会保険診療報酬支払基金より「クロタミトンを疥癬に処方した場合、当該使用事例を審査上認める」との通知が出されており、使用することが可能です。

 

使用方法

使用方法は統一されていませんが、疥癬のガイドラインには以下のように記載されています。

全身に塗布後、24 時間で洗い流し、5 日間繰り返せばよいとされているが、実際には 10~14 日間程度の塗布が必要である

 

また論文を見てみると、3週間使用している場合もあるようです。

皮膚臨床 27(6): 599, 1985 NAID: 10010831144

 

とはいえ全身への外用を2~3週間継続するのはかなり大変ですね。

 

治療効果

次に治療効果はどうでしょうか。

先ほどの論文によると、3週間使用後の治癒率は61.6%と高くはありません。

 

現在はイベルメクチンやフェノトリンなどのもっと効果が高い薬剤が使用できるため、クロタミトンが第一選択になることはありません。

 

疥癬治療に関するネットワークメタ解析では、「プラセボより勝るがイベルメクチンには劣る」という位置づけになっています。

J Am Acad Dermatol. 80(5): 1435, 2019 PMID: 30654070

surface under the cumulative ranking curve(Cure at 1-2 weeks)

・イベルメクチン内服:61.3
・クロタミトン外用:24.2
・プラセボ:0.2

 

また疥癬のガイドラインでは推奨度C1(行うことを考慮してよいが、十分な根拠がない)となっています。

そのため補助的に使用されている(イベルメクチン内服との併用)のが現状です。

 

次回は痒みに対する効果について見てみます。

www.derma-derma.net

 

オイラックスにはどんな効果がある?(鎮痒効果)

オイラックスという外用薬があります。

この薬剤にはどのような効果があるのでしょうか。

 

オイラックスの成分であるクロタミトンは、1940年代に疥癬に対する殺虫剤として開発されました。

しかしその後に痒みに対する効果が分かり、鎮痒性外用薬としても使用されるようになったようです。

 

つまり以下の2つの作用があるということです。

 

  • 殺虫効果
  • 鎮痒効果

 

前回は殺虫効果について解説しました。

www.derma-derma.net

 

今回は鎮痒効果について見てみます。

 

薬理作用

なぜクロタミトンが痒みに効くのかはよくわかっていないようです。

添付文書を見てみると以下のように記載されています。

一般には、皮膚に軽い灼熱感を与え、温覚に対するこの刺激が競合的にそう痒感を消失させるといわれている

 

また近年、神経のイオンチャネル(TRPV4)をブロックして痒みを抑えるのではないかという論文が出ています。

Pflugers Arch. 469(10): 1313, 2017 PMID: 28612138

 

いずれにせよ何らかの神経に対する作用があるようです。

となるとクロタミトンは痒みを抑えるだけで、皮膚炎を改善する効果はないと考えられます。

 

皮膚炎に対する効果

動物実験の論文を見てみましょう。

新薬と臨牀. 9(6): 489, 1960

 

皮膚炎を起こしたウサギに対して、①クロタミトン+ステロイド(ヒドロコルチゾン)、②クロタミトンの2種類の外用薬が使用されました。

そして発赤が改善するまでの日数が調査されています。

発赤が改善するまでの日数

①クロタミトン+ステロイド:7日
②クロタミトン:11日
③無処置:11日

 

クロタミトンは無処置と差がなく、クロタミトンのみでは明らかな皮膚炎の改善効果はないようです。

 

痒みに対する効果

次にクロタミトンの痒みに対する効果について見てみましょう。

Int J Dermatol. 23(10): 684, 1984. MID: 6396248

 

痒みを伴う皮膚疾患患者31人(アトピー性皮膚炎9人、虫刺症22人)の二重盲検試験です。

体の片側にプラセボ、もう片側にクロタミトンローションを塗布し、かゆみスコアが調査されました。

この結果はクロタミトンとプラセボの間に有意な差はありません。

 

また患者の評価でも大きな差は認められなかったようです。

患者の評価

・クロタミトンが有効:52%
・プラセボが有効:42%
・違いはない:6%

 

この論文ではクロタミトンに痒みを抑制する効果はないという結論になっています。

 

まとめ

今回はオイラックスについてまとめてみました。

皮膚炎の改善効果はありませんが、神経に直接作用して痒みを抑制する薬剤です。

しかしその効果についてはエビデンスが乏しい状況と言えそうです。

治療抵抗性の痒みに対してダメ元で処方する薬剤という位置づけになるのかもしれません。