皮膚科の豆知識ブログ

日々の小さな疑問を解決する論文を紹介。講演、お仕事の依頼は「お問い合わせ」からお願いします。

1枚のフローチャート/著書「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の補足説明⑤

拙著「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」には、いくつかわかりにくい部分があったようです。

そこで、このブログで読者の疑問に解答していきたいと思います。

前回はうっ滞性脂肪織炎について解説しました。

www.derma-derma.net

 

今回は疑問ではありませんが、読者から2つの要望にお答えしていきます。

 

  1. 1枚のフローチャートがほしい
  2. 治療薬についても解説してほしい

 

1枚のフローチャート

著書では紅斑を3つに分けて、それぞれの診断法をフローチャートで解説しました。

それらをすべてまとめた1枚のフローチャートの要望がありましたので、ここに掲載しておきます。

これが頭の中に入っていればスムーズに診断ができると思います。

 

治療薬の解説

著書は病態の解説と診断法に内容を絞り、具体的な治療については最小限の記載にとどめました。

しかし読者の方からは「ステロイド外用薬の選びかた」など、治療薬についても知りたいという要望をいただいております。

そこで医学書院様の雑誌「medicina」で治療薬の連載を書かせいただくことになりました。そちらを購読いただければと思います。

www.derma-derma.net

 

うっ滞性脂肪織炎/著書「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の補足説明④

拙著「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」には、いくつかわかりにくい部分があったようです。

そこで、読者の疑問に対してここで解答していきたいと思います。

前回は蜂窩織炎の診断について解説しました。

www.derma-derma.net

 

 

今回はそのつづきとして、静脈うっ滞性脂肪織炎についてもう少し詳しく解説します。

 

うっ滞性症候群とは

 

下肢の静脈は血液を心臓へ返すために2つの機能を持っています。

 

  • 下肢の筋肉によるポンプ作用
  • 静脈弁

 

ところが筋肉のポンプ作用が落ちたり、弁の機能が悪くなったりしたら、静脈内に血液がたまり、静脈の壁にかかる圧力(静脈圧)が高くなってしまいます。

そのような高静脈圧に伴う症状を「静脈うっ滞性症候群(うっ滞性症候群)」と呼び、主に3つの病態に分類されています。

 

うっ滞性症候群

  1. うっ滞性皮膚炎(表皮の炎症)
  2. うっ滞性脂肪織炎(皮下組織の炎症)
  3. うっ滞性潰瘍

 

それぞれについて説明していきます。

 

うっ滞性症候群の3つの病態

①うっ滞性皮膚炎

高静脈圧によって真皮上層の毛細血管が傷害され、酸素や栄養の拡散が行われなくなります。

そのため組織が虚血状態になり、皮膚のバリア機能が破綻してしまいます。

その結果、外来刺激に対する反応性が高まり湿疹病変を形成します。

 

②うっ滞性脂肪織炎

高静脈圧によって皮下組織を走行している皮静脈に静脈周囲炎が引き起こされます。

それに加えて脂肪組織の血行障害により脂肪細胞が壊死し、皮下組織の炎症が起こります。

 

③うっ滞性潰瘍

①と②を慢性的に繰り返すことにより皮膚の線維化が引き起こされ、組織の栄養状態が障害されてしまいます。

この状態に軽微な外傷が加わると創傷が治癒せず、難治性の潰瘍を形成します。

 

うっ滞性脂肪織炎について

 

うっ滞性脂肪織炎にはいくつかの病名があり、脂肪皮膚硬化症、硬化性脂肪織炎とも呼ばれます。

 

  • うっ滞性脂肪織炎(stasis panniculitis)
  • 脂肪皮膚硬化症(lipodermatosclerosis)
  • 硬化性脂肪織炎(sclerosing panniculitis)

 

片側性と両側性の頻度は同じくらいで(片側性55%、両側性45%)、片側性の場合は蜂窩織炎、両側性の場合は自己免疫疾患(結節性紅斑、血管炎)との鑑別が重要です。

J Am Acad Dermatol. 46(2): 187, 2002、PMID: 11807428

 

そしてうっ滞性皮膚炎を疑う場合は、診断と原因精査を同時に行っていく必要があります。

 

診断

まず診断ですが、皮膚生検で確定診断を行います。

多発例では自己免疫疾患との鑑別が重要になるため、積極的に皮膚生検を行う必要があるでしょう。

ただ硬結部を生検すると傷が治りにくいことが多いため、片側性の典型例ではまず原因の精査を優先し臨床診断となる場合もあります。

 

原因精査

高静脈圧の原因は静脈不全とそれ以外に分類されます。静脈不全の有無を確認するためにまず超音波検査を行います。

 

静脈不全:弁不全、深部静脈血栓症など

静脈不全以外:筋ポンプ機能低下、立ち仕事、肥満、薬剤性など

 

下肢静脈エコーで異常が認められた症例は68%と報告されており、32%はそれ以外の原因になります。

具体的には加齢に伴う筋ポンプ機能低下や、長時間の立位の仕事などの生活習慣が原因と考えられています。

また患者の66%が肥満であったとされており、高度肥満も静脈血の灌流を阻害するようです。

さらに薬剤性浮腫が原因と考えられる症例も報告されていて、内服薬の確認も重要と思われます。

 

治療

治療としては弾性包帯や弾性ストッキングの着用、立ち仕事の中止や体重の減量などの生活指導が必要になります。

治療適応の弁不全があれば手術で高静脈圧を改善できますが、そのようなケースはあまり多くはありません。

 

つづく

www.derma-derma.net

 

医学雑誌「medicina」で連載が始まりました

24年1月より医学書院の内科雑誌「medicina(メディチーナ)」で私の連載が始まりました。

medicina2024年1月号 特集 その知見は臨床を変える? 

 

以前出版した書籍「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」は病態の解説と診断法に内容を絞り、具体的な治療については最小限の記載にとどめました。

しかし読者の方からは「ステロイド外用薬の選びかた」など、治療薬についても知りたいという要望をいただいております。

そこで今回、「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の内容をベースにした続編的な位置づけの「治療薬の解説」を掲載していただけることになりました。

 

とはいえ書店の棚を眺めると、皮膚科治療薬について解説した本はすでに数多く出版されています。

そしてその多くが、薬の種類や使いかたを簡潔にまとめた初学者向けのものになっているようです。

 

ただそのような教科書は短時間で読めて有用である一方、根拠や理屈が書かれておらず、単調で記憶に残りづらいという欠点も持ち合わせています。

 

そこで今回の連載は「通読できる治療薬の解説」をコンセプトにして、根拠や理屈をしっかりと記載していきたいと考えています。

そのため一つの治療薬の解説が数回の連載にわたって続きます(ステロイド外用薬で4回予定)。

「簡潔なまとめ」や「1話完結」を希望する読者の期待には添えないかもしれませんが、それぞれの治療薬を、どんな疾患に、どのような理由で、どのように使うかが具体的にわかる。そんな連載を目指します。

「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の症例を用いて解説していくので、拙著を補完する内容になると思います。

 

取り上げる予定の治療薬は以下の通りです。

  • ステロイド外用薬
  • 抗ヒスタミン薬
  • 保湿剤
  • 褥瘡・皮膚潰瘍治療薬
  • 抗真菌薬
  • 抗ヘルペスウイルス薬
  • 抗菌薬

 

初めての雑誌連載のため至らない点もあるかと思いますが、ご購読いただけましたら幸いです。

 

雑誌のリンクはこちら

→→medicina2024年1月号 特集 その知見は臨床を変える? 

蜂窩織炎の診断/著書「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の補足説明③

拙著「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」には、いくつかわかりにくい部分があったようです。

そこで、このブログで読者の疑問に解答していきたいと思います。

前回は蕁麻疹について解説しました。

www.derma-derma.net

 

今回は蜂窩織炎の診断についてもう少し詳しく解説します。

 

蜂窩織炎の診断法

蜂窩織炎の診断の決め手となる絶対的な検査は存在せず、臨床所見のみから判断するしかありません。

それではどのような所見に注目すればよいのでしょうか。

 

もしかすると炎症の4徴と呼ばれる「疼痛、発赤、腫脹、熱感」から判断するという話を聞いたことがある人がいるかもしれません。

ですが皮下組織に炎症が生じる4つの疾患はすべて炎症の4徴を示します。

 

皮下組織に炎症が生じる原因

  1. 感染症
  2. 自己免疫疾患
  3. 循環障害
  4. 深部の炎症(急性関節炎)

 

つまり炎症の4徴からは鑑別できないということですね。

このような理由から蜂窩織炎の診断は実はかなり難しく、一般医の誤診率は33%だったという報告もあるようです。

Br J Dermatol. 164(6): 1326, 2011 PMID: 21564054

 

それではどうしたらよいのでしょうか。

結局のところ、どんな鑑別疾患があるのかを十分に把握して、感染症以外の疾患を一つ一つ確実に除外していくしかないわけですね。

一般的な教科書には書かれていませんが、蜂窩織炎は基本的に「除外診断を行う疾患」ということになります。

 

除外診断のポイント

感染症以外の疾患を除外する上で、注目するポイントは2つあります。

 

  • 病変の数
  • 関節の可動域制限、可動時痛

 

まず注目するのは病変の数です。蜂窩織炎はほとんどが単発で片側性であり、皮疹が多発している場合は蜂窩織炎以外の疾患を考えます。

 

次に関節部に病変が生じている場合は急性関節炎の除外が必要です。

関節の診察に慣れていない人が簡便に区別するポイントは関節の可動域制限です。

関節の炎症では関節を動かしたときに痛みが生じ、関節の可動域が減少します。

そのような所見があれば関節炎を疑って整形外科医に相談しましょう。

 

一方、皮下組織の炎症では、皮膚を触ると痛みを訴えることはありますが、関節の他動的運動では痛みは増強しません。

 

これで②自己免疫疾患と④急性関節炎が除外できたことになりますね。

残りは③循環障害です。

ただ次回の記事で解説しますが、循環障害の診断も大変難しく、初診時に除外するのはまず無理と考えてよいと思います。

そのためまず感染症を考えて治療を開始して、改善が乏しい場合に循環障害を考えるという形になるでしょう。



抗菌薬の効果判定

それでは抗菌薬の効果判定はどれくらいで行えばよいのでしょうか。

蜂窩織炎で入院した患者216人の治療への反応率(臨床症状と検査所見)を調査した臨床研究があります。

Clin Infect Dis. 63(8): 1034, 2016 PMID: 27402819

 

この研究によると抗菌薬開始後48時間で多くの患者に反応が見られ、72時間でほとんどの患者に反応が見られます。

 

臨床症状改善

(発熱・皮膚症状)

検査値が20%以上改善

(白血球・CRP)

1日後

39%

66%

2日後

86%

93%

3日後

97%

98%

 

この結果から、抗菌薬を投与しても48~72時間で反応が見られない場合は、診断の見直しが必要と考えてよいでしょう。

循環障害については次回解説します。

www.derma-derma.net

 

蕁麻疹の病歴聴取のコツ/著書「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の補足説明➁

拙著「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」には、いくつかわかりにくい部分があったようです。

そこで、このブログで読者の疑問に対して解答していきたいと思います。

前回は真菌検査について解説しました。

www.derma-derma.net

 

今回は蕁麻疹についてです。

 

蕁麻疹の診断法

 

表面がツルツルで境界が明瞭な紅斑は、蕁麻疹と中毒疹に分類する必要があります。

 

  • 蕁麻疹:マスト細胞性の反応
  • 中毒疹:T細胞性の反応

 

見た目だけでは区別できないことも多いですが、蕁麻疹には個々の皮疹が24時間以内(通常は数時間)で消退するという特徴があります。

つまり「皮疹が短時間で消退する」ことがわかれば蕁麻疹と考えてよいわけですね。

 

ここでこんな質問をいただきました。

 

数時間待たないとわからないなら、その場では診断できないのですか?

 

確かに見た目だけではその場で診断はできません。そこで重要になるのが病歴です。

つまり病歴から短時間で消退することを確認できればいいわけですね。

したがってこの病歴の聴取が診断の最大のヤマとなります。

 

病歴聴取のコツ

 

ところが患者に「すぐに消えますか?」や「短い時間で治りますか?」と聞くと、大抵の場合「No」と答えます。

その理由は、数時間以内に消えるのは「個々の皮疹」であって「すべての皮疹」ではないからです。

 

わかりにくいかもしれませんので図で説明したいと思います。

図のように個々の皮疹は数時間で消えてしまいますが、また別の場所に出現するため皮疹はずっと出ています。

つまり数時間以内に治癒するわけではないのですね。

 

したがって「すぐに消えますか?」や「短い時間で治りますか?」という聞き方では区別できず、質問を工夫する必要があるわけです。

私は「形が変わりますか?」や「場所が変わりますか?」、「出たり引いたりしますか?」などと聞くようにしています。

 

次回は蜂窩織炎について補足説明します。

www.derma-derma.net