拙著「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」には、いくつかわかりにくい部分があったようです。
そこで、このブログで読者の疑問に解答していきたいと思います。
前回は蕁麻疹について解説しました。
今回は蜂窩織炎の診断についてもう少し詳しく解説します。
蜂窩織炎の診断法
蜂窩織炎の診断の決め手となる絶対的な検査は存在せず、臨床所見のみから判断するしかありません。
それではどのような所見に注目すればよいのでしょうか。
もしかすると炎症の4徴と呼ばれる「疼痛、発赤、腫脹、熱感」から判断するという話を聞いたことがある人がいるかもしれません。
ですが皮下組織に炎症が生じる4つの疾患はすべて炎症の4徴を示します。
皮下組織に炎症が生じる原因
- 感染症
- 自己免疫疾患
- 循環障害
- 深部の炎症(急性関節炎)
つまり炎症の4徴からは鑑別できないということですね。
このような理由から蜂窩織炎の診断は実はかなり難しく、一般医の誤診率は33%だったという報告もあるようです。
Br J Dermatol. 164(6): 1326, 2011 PMID: 21564054
それではどうしたらよいのでしょうか。
結局のところ、どんな鑑別疾患があるのかを十分に把握して、感染症以外の疾患を一つ一つ確実に除外していくしかないわけですね。
一般的な教科書には書かれていませんが、蜂窩織炎は基本的に「除外診断を行う疾患」ということになります。
除外診断のポイント
感染症以外の疾患を除外する上で、注目するポイントは2つあります。
- 病変の数
- 関節の可動域制限、可動時痛
まず注目するのは病変の数です。蜂窩織炎はほとんどが単発で片側性であり、皮疹が多発している場合は蜂窩織炎以外の疾患を考えます。
次に関節部に病変が生じている場合は急性関節炎の除外が必要です。
関節の診察に慣れていない人が簡便に区別するポイントは関節の可動域制限です。
関節の炎症では関節を動かしたときに痛みが生じ、関節の可動域が減少します。
そのような所見があれば関節炎を疑って整形外科医に相談しましょう。
一方、皮下組織の炎症では、皮膚を触ると痛みを訴えることはありますが、関節の他動的運動では痛みは増強しません。
これで②自己免疫疾患と④急性関節炎が除外できたことになりますね。
残りは③循環障害です。
ただ次回の記事で解説しますが、循環障害の診断も大変難しく、初診時に除外するのはまず無理と考えてよいと思います。
そのためまず感染症を考えて治療を開始して、改善が乏しい場合に循環障害を考えるという形になるでしょう。
抗菌薬の効果判定
それでは抗菌薬の効果判定はどれくらいで行えばよいのでしょうか。
蜂窩織炎で入院した患者216人の治療への反応率(臨床症状と検査所見)を調査した臨床研究があります。
Clin Infect Dis. 63(8): 1034, 2016 PMID: 27402819
この研究によると抗菌薬開始後48時間で多くの患者に反応が見られ、72時間でほとんどの患者に反応が見られます。
|
臨床症状改善 (発熱・皮膚症状) |
検査値が20%以上改善 (白血球・CRP) |
1日後 |
39% |
66% |
2日後 |
86% |
93% |
3日後 |
97% |
98% |
この結果から、抗菌薬を投与しても48~72時間で反応が見られない場合は、診断の見直しが必要と考えてよいでしょう。
循環障害については次回解説します。