皮膚科の豆知識ブログ

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傷の治癒を促進する方法

傷の洗浄は一般的に行われていますが、周囲の皮膚に関してはあまり意識されていないことが多いです。

今回は傷の周囲の皮膚に関する論文を紹介します。

J Wound Care. 14(4): 169, 2005(PMID: 15835228)

 

褥瘡に対して周囲の皮膚を生食のみで洗浄した群と、石鹸を使って洗浄した群で治癒までの期間を比較しました。

【褥瘡 (StageⅡ) 治癒までの期間】

・周囲皮膚を生食洗浄:20日
・周囲皮膚を石鹸洗浄:15日

 

石鹸で洗浄した方が有意に早く治癒したようです。

創の収縮は創周囲の皮膚から起きるため,傷の治癒に大きく関わっています。

 

周囲皮膚を清潔に保つことで治癒までの期間を短縮させる可能性があります。

洗浄の際は周囲の皮膚にも気を使うことが重要です。

 

外傷に抗菌薬は必要か?

以前、手術後の予防的抗菌薬の効果は証明されていないという論文を紹介しました。

それでは外傷の場合はどうでしょうか。

汚染のない外傷で抗菌薬の効果を調べたメタアナリシスを紹介します。

Am J Emerg Med 13(4): 396, 1995

(PMID: 7605521)

【創部感染発症率】

・予防抗菌薬なし:6.0%
・予防抗菌薬あり:6.8%

odds ratio = 1.16 (95% CI 0.77-1.78)

 

汚染がない創では、予防的抗菌薬に有意な効果はないようです。

一般的な外傷では抗菌薬は必要ないでしょう。 

 

それでは動物咬傷の場合はどうでしょうか。

動物咬傷(犬)で抗菌薬の効果を調べたメタアナリシスです。

Ann Emerg Med. 23(3): 535, 1994

(PMID: 8135429)

【創部感染発症率】

・抗菌薬なし:16.1%
・抗菌薬あり:9.8%

Relative Risk=0.56(95% CI 0.38-0.82)

 

どうやら動物咬傷では予防効果がありそうです。

特に手の咬傷では抗菌薬の投与が推奨されています。

【手の咬傷の感染発症率】

・抗菌薬なし:26.7%
・抗菌薬あり:5.8%

Relative Risk=0.23(95% CI 0.05-0.95)

 

予防効果はなかったという別の研究もあるようですが、動物咬傷では予防抗菌薬を検討してよさそうです。

 

傷の培養検査で気をつけること

 「傷を見たら培養をしろ」昔はそんなふうに習ったことがあるような気がします。

創部の培養はよく行われていますが注意が必要です。

 

傷が感染を起こしているのかは、創部培養で分かるのでしょうか。

非感染創の培養を行った研究を見てみましょう。

Med J Malaysia. 56(2): 201, 2001(PMID: 11771081)

 

受傷直後の開放骨折患者33人に対して、創部の培養が行われました。

非感染創の培養陽性率:39.3%(13人/33人)

 

傷が感染を起こしていなくても、定着菌によって4割程度陽性になるようです。

そのため培養検査では感染の有無はわかりません。

 

また感染が起こったときのために、予め培養を行っておくケースがありますが、それについてはどうでしょうか。

この研究では、その後感染を起こすかどうかも調査されています。

 

まず感染は培養陽性、陰性に関わらず起こっています。 

そして感染前に培養された菌と、感染時に検出された菌が一致したのは33%でした。

 

そのため創部の培養は感染時の起因菌予測にも使用できません。

非感染創の培養検査は行わないほうがよいでしょう。

 

 

熱傷は何分間冷やせばいいのか?

熱傷で最も重要な処置は「冷却」と言われています。

しかし何分くらい冷やしたらいいかは教科書には書かれておらず、熱傷のガイドラインにも記載がありません。

 

そこで海外のガイドラインを調べてみると、オーストラリアのガイドラインに詳しい記載がありました。

Clinical guidelines for burn patient management, 4th edition

 

ガイドラインの内容を紹介します。

 

オーストラリアのガイドライン

 

・Cool the burn with cool running tap water for 20 minutes.(流水で20分間冷やす)

・Ideal water temperature for cooling is 15°C, range 8°C to 25°C. (適温は8~25℃)

・Cooling is effective up to 3 hrs after injury. (受傷後3時間以内の冷却が有効)

 

このように冷却は流水で20分間、受傷後3時間以内に行うのがいいようです。

 

また氷や濡れタオルでの冷却についてもガイドラインに記載があります。

Ice should not be used as it causes vasoconstriction and hypothermia. Ice can also cause burning when placed directly against the skin.

(氷は血管収縮や低体温を引き起こすため使用すべきではない。また皮膚に氷が直接接触すると凍傷の可能性がある。)

 

Wet towels are not efficient at cooling the burn as they do not cool the wound adequately. They should not be used unless there is no water readily available, i.e. in transit to medical care.

(濡れタオルでは十分な冷却ができないので効果的ではない。使用するのは移動中などで流水が利用できないときに限る。)

 

氷は逆に組織を損傷する可能性、濡れタオルは十分な冷却ができないため推奨されていません。

 

これらの内容は人間では明確には証明されておらず、動物実験のデータに基づいているようです。

それらのデータも紹介します。

 

冷却時間

まず冷却時間についての論文です。

J Burn Care Res. 29(5): 828, 2008 PMID: 18695595

 

17匹のブタに人工的に5か所の熱傷を作り、4か所にそれぞれ5分、10分、20分、30分間の冷却(流水)が行われました。

そして受傷9日後の改善率が比較されています。

やけどを冷やす時間の図

改善率は、冷却なし、冷却時間5分、10分と比較して、20分と30分が優れています。

20分と30分の間に有意な差はありません。

この結果からは冷却は20分以上行うのが望ましいようです。

 

冷却温度

次に冷却温度についての論文を紹介します。

Wound Repair Regen. 16(5): 626, 2008 PMID: 19128257

31匹のブタに人工的に熱傷を作り、4つ処置が行われました(①9匹、②7匹、③8匹、④7匹)。

①冷却なし、②氷で20分冷却、③流水(2℃)で20分冷却、④流水(15℃)で20分間冷却。

そして治癒までの期間が調べられています。

治癒までの平均期間

・冷却なし:4.5週
・氷:4.7週
・流水(2℃、15℃):4.0週

 

治癒が最も早いのは流水で冷却した群で、最も遅いのは氷で冷却した群です。

2℃と15℃では治癒までの期間に有意な差はありません。

この結果からは氷は避けて流水で冷却するのがよさそうです。

 

冷却開始までの時間

最後に冷却開始までの時間についての論文です。

J Burn Care Res. 30(4): 729, 2009 PMID: 19506512

 

12匹の豚に人工的に4箇所の熱傷を作り、それぞれ受傷直後、5分後、20分後、60分後に冷却(流水で20分間)が行われました。

そして受傷1日後と9日後に皮膚生検を行い、熱傷の深さが計測されています。

熱傷の冷却時間の図

このように熱傷の深さには有意な差はなかったようです(P>0.05)。

この結果からは受傷して60分後でも冷却は有効と考えられます。

 

まとめ

現在、冷却は流水で20分間、受傷後3時間以内に行うのが推奨されているようです。

それは人間のデータではなく、動物実験に基づいています。

 

熱傷にステロイド外用は効く?

受傷直後の熱傷に対して、炎症を抑制する目的でステロイド外用薬が使用されることがあります。

標準皮膚科学(第11版)には以下のような記載があります。

Ⅰ度熱傷:紅斑・疼痛が著しければ、ワセリン基剤のステロイド、消炎鎮痛薬を塗布する。

 

ステロイドは本当に熱傷の炎症を抑制するのでしょうか。

論文を見てみましょう。

 

Br J Anaesth. 72(4): 379, 1994 PMID: 8155434

 

ボランティア12人の両足に人工的に熱傷を作成し、左右それぞれにワセリンとステロイド軟膏(デルモベート)の外用が12時間ごとに行われました。

その後3日間の紅斑指数(erythema index:EI)の変化が調査されています。

熱傷に対するステロイド外用の効果の図

(●ワセリン、▲ステロイド)

このように紅斑指数に有意差はありません(P=0.25)。

また水疱形成はステロイド外用群のほうが少ないですが、有意な差ではなかったようです。

水疱形成

・ワセリン:100%
・ステロイド:75%
(P=0.25)

 

また疼痛に関しても調べられています。

MPDT(mechanical pain detection thresholds)=疼痛検知閾値(低いほうが痛みに過敏)

熱傷とステロイド外用の図

(●ワセリン、▲ステロイド)

 

疼痛についても有意な差はないようです(P=0.59)。

これらの結果からは、ステロイドには熱傷の症状を抑制する効果はなさそうです。

 

Ⅱ度熱傷の場合は創傷治癒を阻害する可能性があるのでステロイドは使用しないほうがいいでしょう。

Ⅰ度熱傷の場合もステロイドが症状を改善する可能性は低そうです。

ただ何も塗らないのは抵抗があります。

短期間だけなら気休め程度にステロイドを塗ってみてもいいかもしれません(水疱形成が少ない傾向はあった)。