皮膚科の豆知識ブログ

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本当の局麻アレルギーは少ない?

局所麻酔薬に対するアレルギーの既往がある患者は多いですが、はたしてそれは本当にアレルギーなのでしょうか。

局麻アレルギーの既往がある患者に皮膚テストを行った研究があります。

アレルギー 58(6): 657, 2009 NAID: 110007337994

 

20人の患者に対してキシロカイン(エピネフリン入)のプリックテストと皮内テストが行われました。

皮膚テスト陽性率:15%

 

検査の陽性率は15%と低い数値です。

陰性の患者はアレルギーではなく、迷走神経反射であった可能性が高いとされています。

アレルギーの既往があっても、実際には使用できるケースが多いようなので、皮膚テストで確認を行うことは重要だと思います。

 

またキシロカインのアレルギーには2種類があります。

 

【キシロカインのアレルギー】

・キシロカインによるもの
・添加の防腐剤によるもの

 

エピネフリン入りのキシロカインには防腐剤が含まれており、防腐剤に対するアレルギーの方がいるようです。

防腐剤アレルギーであれば、防腐剤の入っていないキシロカインの使用が可能です。

 

キシロカイン(エピネフリンなし)→防腐剤なし

キシロカイン(エピネフリン入り)→防腐剤あり

 

ゴム手袋アレルギーの原因はラテックスだけではない

医療用のゴム手袋に対するアレルギーを持つ人がいます。

有名なのはラテックスアレルギーで、ラテックスフリーの合成ゴム手袋が使用されています。

 

  • 天然ゴム:ラテックス
  • 合成ゴム:ポリイソプレン、ニトリルなど

 

ところがゴム手袋アレルギーの原因はラテックスだけではないことに注意が必要です。

 

ゴムの加工には加硫促進剤(ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、メルカプトベンゾチアゾールなど)が使用されます。

この加硫促進剤に対して感作される場合があるのです。

感染対策ICTジャーナル 15(3): 185, 2020

 

代表的なゴム手袋アレルギー

  1. ラテックスアレルギー(接触蕁麻疹)
  2. 加硫促進剤アレルギー(接触皮膚炎)

 

加硫促進剤アレルギーの場合は、ラテックスフリーの手袋を使用しても症状は改善しません。

この場合は加硫促進剤非含有の手袋を使用する必要があります。

難治性の手湿疹ではパッチテストを行うのが望ましいでしょう。

 

魚摂取後のアレルギーは魚アレルギーなのか?

 魚を食べた後に蕁麻疹が出現する患者さんがいます。

これは魚アレルギーと思われがちですが、原因は他にも2つ考える必要があります。

 

魚を食べた後の蕁麻疹の原因

1. 魚アレルギー
2. アニサキスアレルギー
3. アレルギー様の食中毒(ヒスタミン)

 

魚摂取後の蕁麻疹の患者の中から、魚のIgEが陰性だった患者のアニサキスIgEを調べた報告があります。

日本皮膚科学会雑誌127(3): 447, 2017

アニサキスIgE陽性率:60%

 

やはり魚自体のアレルギー以外にも、アニサキスアレルギーの可能性を考えたほうがよさそうです。

加熱して死滅したアニサキスに対しても、アレルギーが起こる可能性があり注意が必要です。

 

また魚が傷むときに作り出されたヒスタミンがアレルギー症状を起こすこともあり、ヒスタミンによる食中毒と表現されています。

こちらはIgEは陽性にはならないため、診断の確定は難しいですがアレルギーではない可能性も考慮しておくことが大切になります。

 

ハチに刺されたら何%くらいアレルギーが出る?

ハチに刺された場合2回目が危険と言われますが、実際にアレルギーを起こす可能性はどれくらいあるのでしょうか。

 

まずハチに刺された患者はどれくらいの割合で感作されるのかを考えてみます。

論文を見てみましょう。

JAMA. 262(2): 240, 1989

 

1年以内にハチに刺された患者27人に対して、ハチ毒の皮膚テストが行われました。

皮膚テスト陽性:7人(26%)

 

このようにハチに刺された患者の3割程度が感作されるようです。

(刺された直後は検査が陰性なので、1ヶ月程度は間隔を開けたほうがよいそうです)

 

それではハチ毒に感作された人はどれくらいの割合でアナフィラキシーを起こすのでしょうか。

論文を見てみましょう。

J Allergy Clin Immunol. 100: 760, 1997 PMID: 9438483

 

ハチ毒に対する皮膚テストが陽性の患者98人の追跡調査です。

その中の65人が調査中にハチに刺されています。

アナフィラキシーを起こした患者:11人(17%)

 

ハチ毒に感作されている患者の中でアナフィラキシーを起こしたのは17%です。

感作されているからといって必ずしもアナフィラキシーを起こすわけではないようです。

 

2回目の刺症でアレルギーが起きるのはだいたい5%くらいと考えてよいでしょうか。

ある程度の目安を知っておけば患者さんに説明する時にも役に立つと思います。

 

ちなみにハチ刺症の皮膚症状には2種類があります。

一つはIgE抗体によるⅠ型アレルギー。もう一つはⅣ型アレルギーです。

 

①局所反応(Ⅰ型アレルギー):3日以内に消失
②遅延型局所反応(Ⅳ型アレルギー):4日以上持続

 

(西日本皮膚科 56(2): 280, 1994)

 

ハチ刺症には抗ヒスタミン薬を処方しがちですが、Ⅳ型アレルギーには無効です。

4日以上持続する遅延型局所反応には、ステロイド内服を検討する必要があります。

 

蚊に刺されたときのアレルギー反応は人によって違う

蚊に刺されたときの皮膚症状は、吸血の際に注入される唾液腺物質によって起こります。

唾液腺物質に対するアレルギー反応が皮膚症状の原因です。

しかし人によって蚊に刺されたときの反応は違います。

なぜ違いがあるのでしょうか。

 

アレルギー反応には即時型と遅延型の2種類があります。

 

  1. 即時型→15分前後で生じる
  2. 遅延型→1~2日後に生じる

 

つまり蚊に刺された後の反応には、①刺された直後に起こるものと、②翌日に起こるものの2種類あるということです。

どちらの反応が起こるかは、蚊に刺された回数によって変わります。

そのため人によって症状の出かたが違っているのです。

Nature. 158: 554, 1946  PMID: 21001941

 

①無反応

②遅延型反応

③即時型+遅延型反応

④即時型反応

⑤無反応

 

最初は感作が成立していないので無反応ですが(1)、何度か刺されるとまず遅延型反応が生じます(2)。

その後刺咬回数が増えると即時型反応が加わり(3)、さらに刺されると遅延型反応が減弱して即時型反応だけになります(4)。

そして最終的には無反応になります(5)。

 

子どもは一般的に②の状態なので、翌日以降に症状が生じます。

また20代では多くが③の状態で、刺された直後と翌日以降に症状が出ます。

一方高齢者は無反応のことが多いようです。

みなさんはどの状態でしょうか。