皮膚科の豆知識ブログ

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アレルギー検査を行う時期はいつがいい?

薬剤アレルギーの原因を調べるために検査が行われることがあります。

・即時型→プリックテスト、皮内テスト
・遅延型→DLST、パッチテスト

 

それではこれらの検査はいつ頃行うのがよいのでしょうか。

 

即時型アレルギー

まず即時型アレルギーについて。

検査時期について書かれた総説から引用してみます。

Ann Fr Anesth Reanim. 21(Suppl 1): 7, 2002(PMID:12091990)

Skin tests are best done after a delay of at least six weeks. If necessary, they can be carried outearlier, but with an increased risk of false negative results.

 

皮膚テストは発症から6週後以降に行うことが望ましいようです。

この理由は、放出されたケミカルメディエーターが補充されるまでにある程度の時間を要するからです。

急性期ではケミカルメディエーターが枯渇しており、検査が偽陰性になる可能性があります。

 

遅延型アレルギー

それでは次に遅延型アレルギーについてです。

こちらDLSTに関する報告です。

Allergy 62(12):1439, 2007(PMID: 17983378)

LTT should be performed within 1 week after the onset of skin rashes in patients with MP and SJS/TEN.

 

DLSTは発症1週間以内の陽性率が最も高く、その後は低下していくようです。

ただしDIHSの場合だけは異なっています。

LTT reactions can be exclusively observed 5–8 weeks after onset in DIHS/DRESS.

 

DIHSでは発症直後はDLSTは陰性で、5~8週後に遅れて陽性化するようです。

この理由としてDIHS発症直後は制御性T細胞が活性化しているため、薬剤特異的なT細胞の活性化を阻害する可能性が考えられています。

 

遅延型アレルギーは薬疹の病型によって適切な検査時期が異なります。

通常の薬疹であれば1週間以内が望ましいようですが、DIHSはある程度時間が経ってから検査を行う必要があります。

 

アレルギー検査(遅延型)の陽性率はどれくらい?

遅延型アレルギーの原因を特定するための検査として「DLST」と「パッチテスト」があります。

それではこれらの陽性率はどれくらいなのでしょうか。総説から引用してみます。

治療 89(12): 3281, 2007 NAID: 40015720937

【薬疹検査の陽性率】

・DLST陽性率:40-60%
・パッチテスト陽性率:30-50%

 

このように陽性率は50%程度とあまり高くありません。

あまり検査を当てにしすぎると、陰性の結果が出たときの判断に苦労することになります。

 

DLSTは患者のリンパ球に薬剤を加えて培養を行う検査です。

そのため細胞の増殖に影響を及ぼす薬剤は偽陽性、偽陰性になりやすいとされています。

皮膚科の臨床59(6): 801, 2017 NAID: 40021234114

【偽陰性になりやすい薬剤】

抗癌剤:細胞毒性でSI値↓

抗癌剤はリンパ球に対する細胞毒性があるため数値が低下して偽陰性になりやすいようです。

 

【偽陽性になりやすい薬剤】

MTX:サルベージ回路を活性化しSI値↑
TS-1:サルベージ回路を活性化しSI値↑
NSAIDs:プロスタグランディン阻害でSI値↑

これらの薬剤は様々な機序で細胞の増殖を促進し、偽陽性になりやすいとされています。

特にMTXの偽陽性率は50%と非常に高いようで注意が必要です。

(臨床リウマチ 19(3): 170, 2007 NAID: 130006789737)

 

アレルギー検査(即時型)の陽性率はどれくらい?

即時型アレルギーの検査として皮膚テスト(プリックテスト、皮内テスト)が行われます。

しかしアレルギーを強く疑いながらも検査が陰性になる場合もあり、判断に迷うケースが多いです。

それでは皮膚テストの陽性率はどれくらいなのでしょうか。

具体的な数字が書かれている古い論文を紹介します。

J Allergy Clin Immunol. 60(6): 339, 1977(PMID: 925260)

 

ペニシリンアレルギーの既往がある患者(アナフィラキシー26人、蕁麻疹366人)に対して皮膚テストが行われています。

【皮膚テストの陽性率】

・アナフィラキシー:46%
・蕁麻疹:17%

 

アナフィラキシーの場合でも陽性率はあまり高くないようです。

さらに蕁麻疹での陽性率はかなり低く、皮膚テストで原因を特定するのは難しいかも知れません。

検査が陰性だったとしても、即時型アレルギーは否定できません。

 

アナフィラキシーの原因は何が多い?

アナフィラキシーを見たときは、どんな原因を考えればよいのでしょうか。

アナフィラキシーの原因を調べた論文を見てみましょう。

アレルギー 71(2): 120, 2022

 

日本アレルギー学会の研修施設79か所、780例の調査です。

【アナフィラキシーの原因】

1. 食物:73%(FDEIA:5.2%)
2. 薬剤:12%
3. 昆虫刺傷:4%

 

このように食物と薬剤が8割以上を占めています。

次にそれぞれの内訳を見てみましょう。

【アナフィラキシーの原因(食物)】

1. 牛乳:22%
2. 鶏卵:20%
3. 小麦:12%

 

【アナフィラキシーの原因(薬剤)】

1. 造影剤:33%
2. 抗菌薬:16%
3. NSAIDs:16%

 

アナフィラキシーを見たときは、まずこれらの原因を考えるのがよいでしょう。

 

ちなみに発症までの時間は食物は10~30分が多く、FDEIAは1~2時間、薬剤と昆虫刺症は10分未満が多いようです。

全体の8割以上が2時間以内に発症しており、2時間以内に摂取したものが原因の可能性が高そうです。

【アナフィラキシー発症までの時間】

・10分未満:26%
・10分~2時間:60%
・2時間~4時間:11%
・4時間以上:3%

 

ペニシリンアレルギーにセフェムは投与できるのか?

ペニシリンアレルギーを持つ患者がいます。

その患者にセフェム系の抗菌薬を投与することは可能なのでしょうか。

これを調べた報告があります。

J Allergy Clin Immunol Pract. 6(5): 1662, 2018(PMID: 29408440)

 

ペニシリンアレルギーと診断されている272人の患者に対して、複数のセフェム系抗菌薬のアレルギー検査が行われました。

抗菌薬を①ペニシリンと側鎖が同じor類似のものと、②側鎖が異なるものに分類して検査陽性率をみてみましょう。

【アレルギー検査陽性率】

・側鎖が同じor類似のセフェム:37.7%

・側鎖が異なるセフェム:1.6%

 

側鎖が同じセフェム系では比較的高い頻度で交差耐性を持つようです。

そのため使用しないほうがよいでしょう。

しかし側鎖が異なれば交差耐性はほどんどないようで、ペニシリンアレルギーがあっても使用ができそうです。

 

ペニシリンと側鎖が同じ薬剤は(R1側鎖がNH2基)4種類あります。

一般的に使用されているのはセファレキシン(ケフレックス)とセファクロル(ケフラール)の2種類です。

R1側鎖がNH2基

  • セファレキシン
  • セファクロル
  • セファドロキシル
  • セファトリジン

 

意外ですが同じ第一世代に分類されるセファゾリン(セファメジン)は側鎖が異なっています。

そのためペニシリンアレルギーがあっても使用ができる可能性がありそうです。