皮膚科の豆知識ブログ

日々の小さな疑問を解決する論文を紹介。講演、お仕事の依頼は「お問い合わせ」からお願いします。

薬疹はどれくらいの頻度で起こるのか?

薬疹はどれくらいの頻度で起こるのでしょうか。

正確な数値はわかりませんが、ある程度の目安は示されています。

Semin Immunopathol. 38(1): 75, 2016(PMID: 26553194) 

・薬疹の発生率:0.1~1%

 

発生率は新規処方100~1000例につき1例と、決して低い数値ではありません。

 

さらに入院患者では発生率が増すようです。

・入院患者の薬疹発生率:1~3%

 

この理由の1つとして入院中に頻用される特定の薬剤で薬疹の頻度が高いことが挙げられています。

NSAIDs、抗菌薬、抗てんかん薬の薬疹発生率:1~8%

 

そのため特に入院中の患者では薬疹に注意が必要です。

 

薬疹の原因薬剤は何が多いか?

抗菌薬、消炎鎮痛薬、抗てんかん薬は薬疹の頻度が高いといわれています。

Semin Immunopathol. 38(1): 75, 2016(PMID: 26553194) 

【薬疹の発生率】

1. 全体:0.1~1%
2. 抗菌薬、消炎鎮痛薬、抗てんかん薬:1~8%

 

具体的にはどのような薬剤の薬疹が多いのでしょうか。

日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会のデータベースに集められた178例の薬疹(紅斑丘疹型、多形紅斑型)の集計結果を見てみましょう。

薬疹データベース構築に関する進捗状況

 

1アモキシシリン:17%
2セレコキシブ:10%
3アセトアミノフェン:10%
4ロキソプロフェン:8%
5カルバマゼピン:6%
6ラモトリギン:3%

 

やはり抗菌薬、消炎鎮痛薬、抗てんかん薬が多く、これらの6薬剤が50%以上を占めています。

多数の薬剤が使用されていて原因が特定できない場合は、これらの薬剤から疑ってみてもよいかもしれません。

 

薬疹の病型は何が多い?

薬疹には色々なパターンがあります。

それではどのような病型が多いのでしょうか。

論文を見てみましょう。

日皮会誌 122(10): 2495, 2012 NAID: 130004714871

 

横浜市立大学付属病院を受診した341人の薬疹患者のデータが解析されています。

【薬疹の病型】

・紅斑丘疹型:41%
・多形紅斑型:13%
・湿疹型:8%
・蕁麻疹型:8%
・重症薬疹:7%

 

一番多いのは紅斑丘疹型です。

しかしこの報告は大学病院受診患者なので、重症薬疹や特殊な薬疹が多く含まれている可能性があります。

NEJMの薬疹の総説には80%以上が紅斑丘疹型と記載されているので、実際にはほとんどが紅斑丘疹型なのかもしれません。

N Engl J Med 366: 2492, 2012(PMID: 22738099)

The majority of skin events attributed to drugs are either exanthematous (maculopapular or morbilliform) eruptions (>80%) or urticaria (5 to 10%).

 

紅斑丘疹型は麻疹型とも言われ、ウイルス感染症と見分けがつかず診断に苦労することも多いです。

薬疹とウイルス性発疹症を区別する方法はあるのでしょうか。

NEJMの薬疹の総説を見てみましょう。

【薬疹とウイルス性発疹症の鑑別】

・薬疹とウイルス性発疹症の鑑別は困難
・皮膚生検でも区別できないことが多い
・薬疹は薬剤開始4日目以降が多い
・投薬3日以内発症はウイルス性発疹症を疑う

 

この文献によるとやはり区別するのは難しいようです。

見た目はもちろん、皮膚生検でも鑑別はできません(ウイルス性は四肢優位、薬疹は体幹優位といわれることもありますが)。

しかし薬剤開始から発症までの時間が参考になる場合があります。

薬剤開始3日以内はウイルス性発疹症、4日以降は薬疹の可能性が高いようです。

薬疹を疑う場合は、病歴をしっかりと聴取する必要があります。

 

薬疹の原因薬剤の特定法

薬疹を疑ったときは使用している薬剤をすべてリストアップします。

その中から原因を絞り込んでいくわけですが、多数の薬剤が新たに開始されている場合は特定が難しくなります。

そんなときは薬剤の開始時期を確認します。

遅延型アレルギーは感作が成立するまでに数日から2週間程度かかります。そのため原因の可能性が高いのは4~14日以内に開始した薬剤です。

 

原因薬剤を絞り込むための指標を紹介します。

N Engl J Med. 366(26): 2492, 2012 PMID: 22738099

開始時期ごとの原因の可能性が4段階に分けて評価されています。

薬疹の原因薬剤

ただしすでに薬剤に感作されていた場合は服薬後3日以内に症状が現れます。

 

薬疹の原因精査の図

もし過去の使用歴がわからない場合は、1か月以内に開始した薬剤はすべてピックアップするのがいいでしょう。

 

薬疹の治療法

重症薬疹の治療法は教科書に書かれていますし、ガイドラインも存在します。

しかしそれ以外の薬疹をどうすればよいのかは、あまり書かれていない気がします。

そこで薬疹の総説から、治療法の部分を抜粋してみます。

N Engl J Med 366: 2492, 2012(PMID: 22738099)

【薬疹の治療(重症薬疹以外)】

・ほとんどの薬疹は薬剤中止2日後まで広がり1週間で消退
・痒みに対しては抗ヒスタミン薬を用いる
・皮疹に対してステロイド外用を用いるがエビデンスは無い

 

ほとんどの薬疹は薬剤を中止すれば1週間程度で消退します。

一般的に対症療法として、ステロイド外用や抗ヒスタミン薬の内服も行われます。

しかしこれらの治療にエビデンスはないようです。

 

ちなみに薬疹の治療法の内訳を調べた報告もあります。

日皮会誌 122(10): 2495, 2012 (NAID)130004714871

 

341人の薬疹患者の治療法がまとめられています。

【薬疹の治療法】

・対症療法のみ:82%
・ステロイド内服:14%
・ステロイドパルス:3%
・その他:1%

 

8割は対症療法のみで治る軽症例。2割程度がステロイド投与を必要とする重症例です。

重症例を見分けて早期に治療開始するのが、皮膚科医の重要な仕事と言えるでしょう。