皮膚科の豆知識ブログ

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蛍光抗体直接法の生検を行う部位はどこがいい?

血管炎や水疱症の診断では、生検組織を用いて蛍光抗体直接法を行う必要があります。

それでは生検を行う部位はどこがよいのでしょうか。

論文を調べてみました。

 

血管炎

IgA血管炎の診断では、蛍光抗体法で血管壁へのIgA沈着を証明します。

しかしどこを生検してもよいというわけではありません。

IgA陽性率と皮疹出現からの経過時間の関連を調べた報告があります。

Arch Dermatol. 134(3): 309, 1998 PMID: 9521029

 

血管炎患者102人に対して行われた蛍光抗体直接法の結果です。

48時間以降はIgA陽性率が低下し、72時間以上経過した病変ではほとんどが陰性になっています。

 

つまり皮膚の血管壁に沈着したIgAは48時間程度で破壊されてしまうということです。

したがって生検は出現したばかりの初期の紫斑から行うことが重要になります。

 

水疱症

水疱症の診断では、表皮や基底膜へのIgG沈着を証明する必要があります。

生検は水疱から行うのがよいと思いがちですが、実はそうでもないのです。

蛍光抗体直接法の陽性率を非水疱部、水疱部、水疱辺縁部の3か所で比較した論文があります。

JAMA Dermatol. 155(2): 158, 2019 PMID: 30624575

 

水疱性類天疱瘡患者343人に行われた蛍光抗体直接法の結果です。

意外にも水疱部の陽性率は非水疱部より低く、一番高いのは水疱辺縁部となっています。

【蛍光抗体直接法の陽性率】

・非水疱部:81%
・水疱部:76%
・水疱辺縁部:90%

 

そのため蛍光抗体直接法は水疱周辺の皮膚で行うのがよさそうです。

 

薬疹はどれくらいの頻度で起こるのか?

薬疹はどれくらいの頻度で起こるのでしょうか。

正確な数値はわかりませんが、ある程度の目安は示されています。

Semin Immunopathol. 38(1): 75, 2016(PMID: 26553194) 

・薬疹の発生率:0.1~1%

 

発生率は新規処方100~1000例につき1例と、決して低い数値ではありません。

 

さらに入院患者では発生率が増すようです。

・入院患者の薬疹発生率:1~3%

 

この理由の1つとして入院中に頻用される特定の薬剤で薬疹の頻度が高いことが挙げられています。

NSAIDs、抗菌薬、抗てんかん薬の薬疹発生率:1~8%

 

そのため特に入院中の患者では薬疹に注意が必要です。

 

薬疹の原因薬剤は何が多いか?

抗菌薬、消炎鎮痛薬、抗てんかん薬は薬疹の頻度が高いといわれています。

Semin Immunopathol. 38(1): 75, 2016(PMID: 26553194) 

【薬疹の発生率】

1. 全体:0.1~1%
2. 抗菌薬、消炎鎮痛薬、抗てんかん薬:1~8%

 

具体的にはどのような薬剤の薬疹が多いのでしょうか。

日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会のデータベースに集められた178例の薬疹(紅斑丘疹型、多形紅斑型)の集計結果を見てみましょう。

薬疹データベース構築に関する進捗状況

 

1アモキシシリン:17%
2セレコキシブ:10%
3アセトアミノフェン:10%
4ロキソプロフェン:8%
5カルバマゼピン:6%
6ラモトリギン:3%

 

やはり抗菌薬、消炎鎮痛薬、抗てんかん薬が多く、これらの6薬剤が50%以上を占めています。

多数の薬剤が使用されていて原因が特定できない場合は、これらの薬剤から疑ってみてもよいかもしれません。

 

薬疹の病型は何が多い?

薬疹には色々なパターンがあります。

それではどのような病型が多いのでしょうか。

論文を見てみましょう。

日皮会誌 122(10): 2495, 2012 NAID: 130004714871

 

横浜市立大学付属病院を受診した341人の薬疹患者のデータが解析されています。

【薬疹の病型】

・紅斑丘疹型:41%
・多形紅斑型:13%
・湿疹型:8%
・蕁麻疹型:8%
・重症薬疹:7%

 

一番多いのは紅斑丘疹型です。

しかしこの報告は大学病院受診患者なので、重症薬疹や特殊な薬疹が多く含まれている可能性があります。

NEJMの薬疹の総説には80%以上が紅斑丘疹型と記載されているので、実際にはほとんどが紅斑丘疹型なのかもしれません。

N Engl J Med 366: 2492, 2012(PMID: 22738099)

The majority of skin events attributed to drugs are either exanthematous (maculopapular or morbilliform) eruptions (>80%) or urticaria (5 to 10%).

 

紅斑丘疹型は麻疹型とも言われ、ウイルス感染症と見分けがつかず診断に苦労することも多いです。

薬疹とウイルス性発疹症を区別する方法はあるのでしょうか。

NEJMの薬疹の総説を見てみましょう。

【薬疹とウイルス性発疹症の鑑別】

・薬疹とウイルス性発疹症の鑑別は困難
・皮膚生検でも区別できないことが多い
・薬疹は薬剤開始4日目以降が多い
・投薬3日以内発症はウイルス性発疹症を疑う

 

この文献によるとやはり区別するのは難しいようです。

見た目はもちろん、皮膚生検でも鑑別はできません(ウイルス性は四肢優位、薬疹は体幹優位といわれることもありますが)。

しかし薬剤開始から発症までの時間が参考になる場合があります。

薬剤開始3日以内はウイルス性発疹症、4日以降は薬疹の可能性が高いようです。

薬疹を疑う場合は、病歴をしっかりと聴取する必要があります。

 

薬疹の原因薬剤の特定法

薬疹を疑ったときは使用している薬剤をすべてリストアップします。

その中から原因を絞り込んでいくわけですが、多数の薬剤が新たに開始されている場合は特定が難しくなります。

そんなときは薬剤の開始時期を確認します。

遅延型アレルギーは感作が成立するまでに数日から2週間程度かかります。そのため原因の可能性が高いのは4~14日以内に開始した薬剤です。

 

原因薬剤を絞り込むための指標を紹介します。

N Engl J Med. 366(26): 2492, 2012 PMID: 22738099

開始時期ごとの原因の可能性が4段階に分けて評価されています。

薬疹の原因薬剤

ただしすでに薬剤に感作されていた場合は服薬後3日以内に症状が現れます。

 

薬疹の原因精査の図

もし過去の使用歴がわからない場合は、1か月以内に開始した薬剤はすべてピックアップするのがいいでしょう。