皮膚科の豆知識ブログ

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皮膚外科手術ランキング

皮膚科の手術は全身を対象にするので多岐にわたります。

そのためどんな手術があって、どんな手術法を習得しなければならないのか分かりにくい部分があります。

 

そこで自治医科大学皮膚科では、どのレベルの手術までを行えるかの客観的な指標として、皮膚外科手術ランキングが作られているそうです。

臨床皮膚科69(5) 129 2015

 

今回はこのランキングを紹介します。

ランキングはHからAまでの8段階に分けられています。

Hランク:皮膚腫瘍切除、植皮

Gランク:局所皮弁②(Limberg flap, V-Y flap)

Fランク:局所皮弁①(bi-lobed flap)、男性外陰部手術

Eランク:鼠経リンパ節郭清

Dランク:顔面特殊部位の再建(眼瞼, 口唇, 鼻)

Cランク:腋窩リンパ節郭清、女性外陰部手術、肛門部手術

Bランク:骨盤内リンパ節郭清

Aランク:頸部リンパ節郭清

 

Hランク

皮膚腫瘍切除、植皮

 

皮膚科手術では腫瘍切除後に皮膚欠損部の再建が必要です。

基本は単純縫縮ですが、無理な場合は植皮や皮弁で再建を行います。

Hランクは単純縫縮と植皮術です。

整容面を考えなければ、皮弁での再建が必須な状況は限られます。

Hランクをマスターできれば、一般診療で困ることはあまりないでしょう。

 

Gランク

局所皮弁②(Limberg flap, V-Y flap)

 

GランクはLimberg flapやV-Y flapなどの比較的簡単な局所皮弁です。

これらの皮弁術をマスターすれば手術の幅が少し広がります。

 

Fランク

局所皮弁①(bi-lobed flap)、男性外陰部手術

 

Fランクはbi-lobed flapなどの少し難しい局所皮弁です。

また乳房外パジェット病などで行う、陰嚢・陰茎部の広範な切除も含まれます。

皮膚外科が専門でなければ、このランクへの到達を目標にしたいところです。

 

Eランク

鼠経リンパ節郭清

 

Eランクは皮膚科で最もよく行われる鼠径リンパ節郭清です。

平面的な構造をしているので、他の部分の郭清と比較して難易度が低いと考えられています。

 

Dランク

顔面特殊部位の再建(眼瞼, 口唇, 鼻)

 

Dランクは眼瞼、外鼻、口唇、耳介などの再建手術です。

2 つ以上の皮弁を組み合わせる必要がある場合や、皮弁切り離しを伴う 2 期的な手術、粘膜や軟骨などの再建も要する手術が想定されています。

このあたりになってくると専門性が高くなってきます。

 

C~Aランク

腋窩、骨盤内、頸部リンパ節郭清、女性外陰部手術、肛門部手術

 

Cランク以降は主に鼠径部以外のリンパ節郭清です。また歯状線を超える肛門部手術や、子宮口近くまで及ぶ女性外陰部手術も含まれています。

Cランク以上になってくると、他科に手術を依頼するケースもありそうです。

 

まとめ

今回は皮膚外科手術の難易度ランキングを紹介しました。

みなさんの現在のランクはどれくらいしょうか。

どのランクを目標にするのかを考えながらトレーニングを積んでいくとよいかもしれません。

 

皮膚科診療・御法度10か条

米国皮膚科学会のホームページに「皮膚科医が守るべき10の原則」が掲載されています。

Ten Things Physicians and Patients Should Question

 

日本の状況と異なる部分もありますが、知っておくと有用です。

今回はこの10の原則を紹介したいと思います。

 

其ノ一

爪白癬が疑われるとき、真菌検査をせずに内服抗真菌薬を処方するべからず

Don’t prescribe oral antifungal therapy for suspected nail fungus without confirmation of fungal infection.

 

視診の爪白癬診断率は、皮膚科医であっても7割程度です。治療を開始する前に真菌検査を行って正確に診断することが重要です。

関連記事:爪白癬は見た目で診断するべからず

 

其の二

感染を起こしていないアトピー性皮膚炎患者に抗菌薬を処方するべからず

Don’t use oral antibiotics for treatment of atopic dermatitis unless there is clinical evidence of infection.

 

アトピー性皮膚炎患者の皮膚には黄色ブドウ球菌が大量に存在しており、悪化の原因になっています。

しかし菌を減らす目的で抗菌薬を使用しても、アトピー性皮膚炎の症状を改善する効果はありません。

保湿剤で黄色ブドウ球菌の増殖を抑制できるという報告があり、しっかりとスキンケアすることのほうが重要です。

(Pediatr Dermatol. 33(2): 165, 2016 PMID: 27001317)

 

其の三

手術創に対してルーチンで外用抗菌薬を使うべからず

Don’t routinely use topical antibiotics on a surgical wound.

 

術後の創部に対してゲンタシン軟膏が使われることが多いです。

しかし外用抗菌薬には、有意な術後感染予防効果はないことが示されています。

(JAMA. 276(12): 972, 1996. PMID: 8805732)

そのため皮膚の保護効果しかないと考えられます。

さらに抗菌薬は接触皮膚炎のリスクもあることから、ルーチンでの使用は推奨されていません。

 

其の四

湿疹・皮膚炎に対して内服ステロイドを長期間使うべからず

Don’t use systemic (oral or injected) corticosteroids as a long-term treatment for dermatitis.

 

急性の湿疹で症状が重篤な場合は、短期間のステロイド内服が有効です。

しかしアトピー性皮膚炎などの慢性の湿疹病変に対して、内服ステロイドを使用するのは避けなければなりません。

一旦症状は軽快しますが、中止によって再燃することが多く、一度始めると中止できなくなる可能性があります。

長期投与されている患者に中止を勧めても受け入れてもらえず、漫然と投与を継続せざるを得ないこともよく経験します。

 

其の五

湿疹に対して特異的IgE検査やプリックテストを行うべからず

Don’t use skin prick tests or blood tests such as the radioallergosorbent test (RAST) for the routine evaluation of eczema.

 

湿疹の原因精査のために特異的IgE検査が行われていることがあります。

しかし一般的に湿疹はⅣ型アレルギーなので、Ⅰ型アレルギーの検査は基本的に役に立ちません。

もし原因を調べたいならばパッチテストを行う必要があります。

 

其の六

ざ瘡に対して細菌培養検査を行うべからず

Don’t routinely use microbiologic testing in the evaluation and management of acne.

 

細菌感染はざ瘡の原因となるいくつかの要因のうちの1つに過ぎません。

病変に存在する細菌の種類を調べるための培養検査は、治療には影響しないため基本的に必要ありません。

 

其の七

両側性の下腿の発赤に抗菌薬を使うべからず

Don’t routinely use antibiotics to treat bilateral swelling and redness of the lower leg unless there is clear evidence of infection.

 

静脈うっ滞性皮膚炎と蜂窩織炎はよく似ています。そのため静脈うっ滞性皮膚炎が蜂窩織炎と誤診されて、抗菌薬が処方されるケースは多いです。

見分けるのは難しいですが、病変の部位が参考になります。

蜂窩織炎は基本的に片側性です。そのため両側性の下腿の発赤を見た場合は、蜂窩織炎ではなくうっ滞性皮膚炎を考える必要があります。

 

其の八

炎症性粉瘤にルーチンで抗菌薬を使うべからず

Don’t routinely prescribe antibiotics for inflamed epidermal cysts.

 

従来、炎症性粉瘤の原因は細菌感染と考えられていて、感染性粉瘤と呼ばれていました。

しかし本当の原因は感染ではなく、嚢腫内の角化物に対する異物反応とされています。

そのため通常の皮膚感染症に使用されるセフェム系の抗菌薬は無効で、治療の基本は切開排膿です。

 

其の九

早期の悪性黒色腫にセンチネルリンパ節生検は行うべからず

Don’t perform sentinel lymph node biopsy or other diagnostic tests for the evaluation of early, thin melanoma because they do not improve survival.

 

現在はガイドラインが整備されていますが、昔は不要な症例に対してもセンチネルリンパ節生検が行われていることが多かったようです。

早期の悪性黒色腫は転移のリスクは低く、センチネルリンパ節生検を行う必要はありません。

 

其の十

体幹四肢の1cm未満の皮膚癌にモーズ手術を行うべからず

Don’t treat uncomplicated, nonmelanoma skin cancer less than 1 centimeter in size on the trunk and extremities with Mohs micrographic surgery.

 

日本ではモーズ手術はほとんど行われておらず、あまり関係がないかもしれません。

モーズ手術は、術中迅速検査で切除断端を確認しながら腫瘍を切除する方法です。

最小限のマージンで腫瘍を切除できるメリットはありますが、時間がかかり、小さな腫瘍ではそのメリットは限定的なようです。

 

まとめ

今回はアメリカ皮膚科学会の10の原則を紹介しました。

Ten Things Physicians and Patients Should Question

 

日本の状況とは違う部分もありますが、知っておくと役に立つと思います。

 

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単純ヘルペスの再発率はどれくらい?

単純ヘルペスは何度も再発するのが特徴です。

それではどれくらいの頻度で再発するのでしょうか。

 

再発性単純ヘルペスの患者290人へのインタビュー調査の結果を見てみましょう。

口唇ヘルペスと性器ヘルペスにわけて、再発回数が調査されています。

臨床医薬 29(2): 137, 2013.

【口唇ヘルペスの年間再発回数】

・~2回:51 %
・3~5回:41%
・6回~:6%
・不明:2%

 

【性器ヘルペスの年間再発回数】

・~2回:28%
・3~5回:40%
・6回~:27%
・不明:5%

 

このように再発の頻度は口唇ヘルペスと性器ヘルペスで異なっています。

口唇ヘルペスでは再発は半年~1年に1回程度のことが多いようです。

一方性器ヘルペスの方が再発頻度は高く、多くの人が2~3か月に1回程度再発しています。

 

性器ヘルペスが年に6回以上再発する場合は再発抑制療法を検討する必要があります。 

www.derma-derma.net

 

単純ヘルペスが治るまでどれくらいかかる?

単純ヘルペスに対しては抗ウイルス薬を5日間投与するのが一般的です。

しかし内服終了時には、まだ治癒していない患者もいるようです。

それではどれくらいの期間で単純ヘルペスは治癒するのでしょうか。

 

5日間治療の効果

臨床試験の結果を見てみましょう。

546人の口唇ヘルペスあるいは性器ヘルペスの患者に、抗ウイルス薬(バルトレックスorファムビル)が投与されました。

臨床医薬. 29(3), 285, 2013

・痂疲化までの平均日数:4.0日
・治癒までの平均日数:6.0日

  

痂皮化まで平均4日、治癒までに平均6日かかっています。

内服終了時、痂皮化はしているが治癒していないという患者が多いようです。

 

1日治療の効果

また最近は高用量を1日だけ内服する短期間投与(one-day treatment)も行われています。

こちらの効果についても論文を見てみましょう。

259人の再発性ヘルペスに対して短期間投与が行われました。

日臨皮会誌 35(3): 488, 2018 (NAID)130007411774

・痂疲化までの平均日数:4.0日
・治癒までの平均日数:4.7日

 

こちらも5日間治療と同じくらいの時間がかかるようです。

つまり治療は1日で終了しますが、すぐに治癒するわけではなく、その後数日かかるということです。

そのため効果をあまり実感できない人もいるようです。

 

まとめ

 

以前インフルエンザに対して1回で内服が終了するゾルフーザという薬剤が発売されました。

しかし内科の知り合いに聞くと、患者の満足度はあまり高くなかったそうです。

 

ゾルフーザはインフルエンザの罹患期間を半日から1日程度短縮します。

しかし内服が終了してから治癒するまでに2、3日かかります。その間に不安になって再び外来を受診する患者が多かったということでした。

 

短期間投与は、1日で治療が終了するというメリットが強調されていますが、患者の満足度は必ずしも高いとは言えません。

「治るまで飲みたい」という希望を言われることもあり、治療法の選択は慎重に行う必要がありそうです。

 

再発抑制療法はいつまで続けたらいいですか?

年6回以上再発する性器ヘルペスでは再発抑制療法が適応になります。

治療期間の目安は1年とされていて、添付文書には「本剤を1年間投与後、投与継続の必要性について検討することが推奨される」と記載されています。

それでは再発抑制療法を中止したらどうなるのでしょうか。

 

再発抑制療法を50日間行い、治療中と治療終了後のウイルス排泄量を調べた論文があります。

(J Infect Dis. 190(8): 1374, 2004 PMID: 15378428)

 

この報告によると、治療中はウイルス排泄量は減少しますが、抗ウイルス薬を中止すると、すぐに治療前の量に戻ってしまうようです。

 

基本的に再発抑制療法を中止すると、もとに戻ってしまうと考えたほうがよさそうです。

 

しかし1年以上治療をつづけると、予防効果が持続する可能性もあります。

アシクロビルを用いた再発抑制療法を2年間行った患者23人の、治療終了後の経過を見た論文があります。

臨床皮膚科 56(5): 118, 2002 (NAID)40020003736

【年間再発回数】

・治療前:11.1回
・治療終了後1年目:3.5回
・治療終了後2年目:3.3回
・治療終了後3年目:2.5回

 

このように2年間治療を行った場合、中止後も予防効果が持続しています。

治療継続は2年程度を目安にするとよいかもしれません。