皮膚科の豆知識ブログ

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「薬を飲んだら悪くなった」と言われないために

他院で治療を開始された帯状疱疹の患者が転院してくることがあります。

その理由は「薬を飲んだら悪くなった」から。

 

これは薬のせいで症状が悪化したわけではありません。

抗ウイルス薬の作用はウイルスの増殖抑制なので、効果発現までに時間がかかります。

そのため治療を開始しても、しばらくは症状が進行するのです。

 

それでは進行が止まるまでどれくらいの時間がかかるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

帯状疱疹患者206人にバルトレックスを投与し、皮疹の進行が停止するまでの日数が調べられました。

J Dermatol. 44(11): 1219, 2017 PMID:28681394

【皮疹の進行停止率】

・投与開始日 0%
・1日後 20%
・2日後 44%
・3日後 89%

 

このデータからは、皮疹の進行が止まるまで2~3日かかるようです。

つまりその間は、治療をしていても症状が悪化します。

このことを患者に説明しておかなければ、薬で症状が悪化したと勘違いされてしまうので注意しましょう。

 

帯状疱疹の痛みが消えるまでどれくらいかかる?

帯状疱疹は皮膚症状が治癒した後も痛みが残ることが多いです。

それでは、どれくらいの期間痛みが続くのでしょうか。

論文を見てみましょう。

まず帯状疱疹患者316名に抗ウイルス薬を投与後、6ヶ月間フォローした研究です。

Int J Clin Pract. 61(7): 1223, 2007 PMID: 17362479

疼痛消失までの中央値:35日

 

次に帯状疱疹患者721名に抗ウイルス薬を投与して、1年間フォローした研究です。

J Eur Acad Dermatol Venereol. 28(12): 1716, 2014 PMID: 25564680

疼痛消失までの中央値:21日

<疼痛消失率>

・30日後:68%
・60日後:81%
・90日後:88%
・1年後:4%

 

1ヶ月で7割、2ヶ月で8割の人が疼痛消失するようです。

これらの結果から、痛みは1~2か月程度は続くと考えておいたほうがよいでしょう。

ただし10~20%の患者は3か月以上痛みが続きます。

  

また年齢によって痛みが続く期間が違い、高齢になるほど長引くようです。

【疼痛消失までの中央値】

50歳未満:16日
50歳以上:23日

 

高齢者では皮疹が治った後も痛みが長引くことを、あらかじめ説明しておいたほうがよいでしょう。

 

帯状疱疹の再発率はどれくらい?

帯状疱疹になるのは一生に1回と言われています。

ところが一部で2回以上発症する人がいるようです。

 

それでは帯状疱疹が2回以上発症する割合はどれくらいなのでしょうか。

帯状疱疹に関する文献を集積したシステマティックレビューを見てみましょう。

BMJ Open. 4(6): e004833, 2014 PMID:24916088

The risk of recurrence of HZ ranged from 1% to 6%, with long-term follow-up studies showing higher risk (5–6%). 

 

再発率は1~6%で、10~20年単位の長期の観察では5~6%と報告されています。

そこまで高い数値ではないようで、だいたい5%くらいと考えたらよいでしょう。

 

しかし必ずしも一生に1回ではないことから、帯状疱疹の既往がある人にも帯状疱疹ワクチンの接種は推奨されています。

ただし帯状疱疹からワクチン接種までどれくらいの間隔を空けるかは、まだデータがないようです。

 

また帯状疱疹の再発と診断されている患者の中には、単純ヘルペスを帯状疱疹と間違えている場合もあるので注意が必要です。

www.derma-derma.net

 

論文からみた凍結療法の具体的方法

ウイルス性疣贅の治療では凍結療法が行われます。

しかし教科書には具体的な方法は書かれていません。

そこで論文から凍結療法について考えてみたいと思います。

 

接触時間

まず液体窒素の接触時間の目安です。

海外の臨床試験で用いられている手法を見てみましょう。

Br J Dermatol. 94(6): 667, 1976 PMID: 820365

接触時間の目安はイボの周囲が凍結して白くなる程度

 

イボの周囲が凍結して白くなるのが接触時間の目安のようです。

小さな病変で2~3秒くらい、大きな病変で15~20秒くらいになるでしょう。

 

接触回数

次に接触回数です。

凍結を1回だけ行った場合と2回行った場合の治療効果を比較した論文があります。

Br J Dermatol. 131(6): 883, 1994 PMID: 7857844

【疣贅の治癒率】

1回:57%
2回:62%

 

このように凍結は複数回行ったほうが効果が高いようです。ただし具体的な回数は決まっていません。

海外の臨床試験では3回という基準が用いられています。

(CMAJ. 182(15): 1624, 2010 PMID20837684)

 

日本の論文には5回という記載もあります。

(皮膚 20(3): 422, 1978)

 

まとめると3~5回になるでしょう。

 

凍結前の処置

また海外の治療指針には、処置前に表面の角質を削ると凍結効率が増し治癒率が上がるという記載があります。

Am Fam Physician. 84(3): 288, 2011 PMID: 21842775

When using cryotherapy for plantar warts, paring the wart before treatment can increase the clearance rate.

 

日本の皮膚科医へのアンケートでは、足底のイボに対して角質除去が行われていることが多いようです。

臨床医薬 28(11): 1101, 2012

【角質除去を行っている割合】

・顔:2%
・手:62%
・足底:93%

 

具体的なエビデンスはなさそうですが、足底のイボの治療では角質を削ってから凍結療法を行うのがよいでしょう。

 

凍結療法の注意

最後に凍結療法の注意点です。

治療の際に使用するコップや綿棒が使いまわされていることがあります。

しかしウイルスは液体窒素では死滅しないようです。

(Med J Aust. 164(5): 263, 1996 PMID: 8628157)

 

感染防止の観点からコップや綿棒は使い捨てのものを使用する必要があります。

 

次の記事では凍結療法の治療間隔について解説します。

凍結療法の治療間隔はどれくらい?

 

凍結療法の治療間隔はどれくらい?

イボの治療では凍結療法が行われます。

保険では月4回まで(週1回)の治療が認められていますが、治療間隔はどれくらいがよいのでしょうか。

 

まず日本の皮膚科医へのアンケートを見てみましょう。開業医と勤務医で治療間隔が異なるようです。

臨床医薬 28(11): 1101, 2012

【開業医の治療間隔】

・1週間に1回:49%
・2週間に1回:41%
・その他:10%

 

【勤務医の治療間隔】

・1週間に1回:22%
・2週間に1回:63%
・その他15%

 

開業医は1週間に1回が多く、勤務医は2週間に1回が多いようです。

 

それでは海外ではどうなっているでしょうか。

英国皮膚科学会のガイドラインを見ていましょう。

Br J Dermatol. 71(4): 696, 2014 PMID: 25273231

Standard practice is to repeat the treatmentevery 2–3 weeks until the warts have cleared.

 

このように海外のガイドラインでは2~3週に1回の治療が推奨されているようです。

 

それでは2週間に1回と3週間に1回では治療効果の差はあるのでしょうか。

これにはメタアナリシスのデータがあります。

Cochrane Database Syst Rev. 12;(9): CD001781, 2012 PMID: 22972052

Cryotherapy at 2- vs 3-weekintervals

RR 1.03,  95% CI 0.77 to 1.37

 

2週間に1回と3週間に1回では治癒率に有意な差はないようです。

ただ個人的には2週間に1回くらいが丁度いい気がしています。