皮膚科の豆知識ブログ

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医学書は何部売れればヒット作?

この度、医学書院から本を出版をさせていただきました。

 

私の中のコンテンツを出し尽くしたつもりですが、単著の執筆は初めてなので粗削りで未熟な点が多々あります。

(現時点でも、価格と内容が釣り合っていない、5章がクソ、などの温かくも厳しいご意見をいただいております)

 

そこで読者の方々からの意見を取り入れた、完成度の高い完全版(改訂第2版)をいずれ出版できればと考えています。

しかし多くの書籍は初版のみで絶版になってしまうそうです。

つまり改訂第2版の出版のためにはヒット作になる必要があるのです。

 

それでは医学書のヒット作とはどのようなものなのでしょうか。

今回はそれを考えてみたいと思います。

 

ヒット作とは?

 

ヒット作とは一般的にどのような書籍のことを言うのでしょうか。

これには2つの基準があるそうです。

 

  1. 販売部数
  2. 重版

 

販売部数

まず思いつくのが販売部数です。

出版業界では10万部売れたものをベストセラーと呼ぶそうです。

 

年間に出版される本は8万冊ですが、その中で10万部以上売れるのはわずか300冊程度(0.4%)。

さらにミリオンセラー(100万部)になると年に数冊程度と言われています。

https://masterpublish.com/bestseller/

 

重版

もう一つの指標として重版があります。

最初に印刷した本が売り切れて、追加で印刷することを重版(増刷)と言います。

 

一般書の場合、新人の初刷部数(最初に印刷する部数)は5000部が多いそうです。

https://kagiroi.com/publishing-times/3476/

 

しかしほとんどの書籍が重版されずに販売終了してしまい、重版率は10~20%と言われています。

地方からヒット本を連発中!兵庫県明石市の出版社、ライツ社の秘話

 

したがって重版が決まった時点でヒットしたと言うことが多いようです。

 

このようにヒット作には2つの基準があります。

それでは医学書の場合はどうなのでしょうか。

 

医学書の売り上げは?

 

医学書はどれくらい売れるのでしょうか。

一般書と比べて医学書は販売対象者が少ないため、当然売り上げは少なくなります。

 

医者の数は全国で10万人弱であり、全国の医者の1割が購入したとしても1万部にしかなりません。

1万部売れたら医学書のベストセラーと言えるそうです(一般書の1/10)。

http://www.wound-treatment.jp/next/dokusho273.htm

 

ただし皮膚科の本になると、さらに販売対象者は少なくなります。

皮膚科学会の会員は約1万2千人のようなので、皮膚科医がほぼ全員購入しないと1万部には届きません。

おそらく5000部くらい売れればベストセラーと言ってよいのではないでしょうか。

(私の本は研修医や皮膚科以外の医師向けなので、もう少し販売対象者が多いことを期待しますが)

【ベストセラー】

・一般書:10万部
・医学書:1万部
・皮膚科の医学書:5000部?

 

医学書の重版

 

それでは重版についてはどうでしょうか。

一般書の場合、新人の初刷部数は5000部ですが、医学書では2000部のことが多いそうです。

http://www.wound-treatment.jp/next/dokusho273.htm

 

つまり2000部が完売すれば重版されますが、実際は売り切れた段階ではなく、売り切れそうになった時点で重版が決まります。

となると1000~1500部程度売れれば重版されると考えてよいでしょうか。

 

第一の目標として1000~1500部売れて重版されること。

そこから2刷、3刷と重版が続けば、売り上げ5000部の可能性が出てきます。

 

次回の記事ではそのためにどうすればいいのかを考えてみたいと思います。

つづく

www.derma-derma.net

 

蜂窩織炎と丹毒の鑑別は必要なのか?

深在性の皮膚細菌感染症は、病変の深さによって蜂窩織炎と丹毒に分類されています。

 

  • 真皮浅層:丹毒
  • 真皮深層~皮下組織:蜂窩織炎

 

皮膚の深い部位に炎症がある蜂窩織炎では紅斑の境界が不明瞭ですが、浅い部位の丹毒では境界がはっきりしている点が鑑別点とされています。

しかし実際の臨床現場では、はっきり区別できないことも多いです。

 

これらを区別する意味はあるのでしょうか。

海外のガイドラインを見てみましょう。

英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドライン

Eysipelas can often be difficult to tell apart from cellulitis and recognised that both infections may be caused by Streptococcus pyogenes or Staphylococcus aureus.

(丹毒と蜂窩織炎を鑑別するのは難しい場合があり、どちらも溶連菌または黄色ブドウ球菌によって引き起こされる)

 

Therefore, management of both infections, with regard to antibiotic choice, is the same.

(したがって抗菌薬の選択は丹毒も蜂窩織炎も同様である)

 

このように蜂窩織炎と丹毒に治療法の違いはないと記載されており、厳密に鑑別する必要はないかもしれません。

 

次にIDSAのガイドラインを見てみましょう。

米国感染症学会(IDSA)ガイドライン

Clin Infect Dis. 59(2): e10, 2014 PMID: 24973422

 

丹毒には3つの定義があるようです。

一つは真皮上層の細菌感染症。

The term “erysipelas” has 3 different meanings.

(1) for some, erysipelas is an infection limited to the upper dermis

 

二つ目は顔面の蜂窩織炎。

海外では病変の深さに関係なく、顔面に生じた蜂窩織炎のことを丹毒と呼ぶ場合もあるようです。

 (2) for many, erysipelas has been used to refer to cellulitis involving the face only

 

三つ目は蜂窩織炎の同義語。

ヨーロッパでは丹毒と蜂窩織炎は同義語で、区別されていないようです。

 (3) for others, especially in European countries, cellulitis and erysipelas are synonyms

 

このように海外ではそもそも丹毒と蜂窩織炎の区別すらされていないこともあるようです。

治療方針の違いもないことから、これらを区別する必要はないのかもしれません。

 

血液検査や培養検査で蜂窩織炎を診断できる?

蜂窩織炎の診断は基本的に臨床症状から行われます。

それでは検査はどれくらい有用なのでしょうか。

 

血液検査

まず血液検査について見てみましょう。

白血球、CRPは感染症の指標として広く使用されていて、初診時のスクリーニングとしてルーチンで行われています。

蜂窩織炎の総説にこれらの検査の陽性率が示されています。

JAMA. 316(3): 325, 2016 PMID: 27434444

・白血球上昇:34~50%
・CRP上昇:77~97%

 

このように白血球やCRPが上昇しない場合もあり、検査値が正常であったとしても蜂窩織炎を否定することはできません。

 

培養検査

次に細菌感染症診断のゴールドスタンダードと言われる培養検査について見てみましょう。

J Infect. 64(2): 148, 2012 PMID: 22101078

蜂窩織炎の血液培養に関する19の文献(血液培養1578件)のシステマティックレビューです。

・血液培養陽性率 :7.9%

 

このように蜂窩織炎で血液培養が陽性になることは少なく、免疫不全のない健常者では菌血症を合併する可能性はかなり低いようです。

 

次に組織培養の陽性率を見てみましょう。

Epidemiol Infect. 138(3): 313, 2010 PMID: 19646308

 

蜂窩織炎の生検組織培養に関する16の文献(組織培養808件)のシステマティックレビューです。

・皮下組織培養陽性率: 16%

(針生検:0~40%、皮膚生検:18~26%)

 

細菌は皮下組織に存在しているため、痰や尿と違って検体を採取するのは容易ではありません。

そのため皮下組織培養の陽性率は16%と低いようです。

 

また陽性率が低い理由として、蜂窩織炎では炎症反応の強さに比して局所の細菌密度が低いことも考えられています。

 

まとめ

以上のように蜂窩織炎を検査で診断するのは難しいようです。

そのため非特異的な臨床所見のみから診断するしかなく、蜂窩織炎を誤診してしまう場合もあるようです。

次回の記事では蜂窩織炎を誤診しないためのポイントを紹介します。

www.derma-derma.net

 

蜂窩織炎を誤診しないための方法

前回の記事で蜂窩織炎の診断を確定できる検査はないことを解説しました。

www.derma-derma.net

 

そのため非特異的な臨床所見のみから診断するしかありません。

それでは蜂窩織炎の診断はどれくらい難しいのでしょうか。

論文を見てみましょう。

Dermatol Online J. 17(3): 1, 2011 PMID: 21426867

 

救急外来で蜂窩織炎と診断されて入院した患者145人に対して、皮膚科医または感染症医が診察を行い診断を確定しました。

蜂窩織炎ではなかった患者:41人(28%)

 

その結果145人中41人(28%)が蜂窩織炎ではないと診断されています。

つまり一般医の蜂窩織炎の誤診率は28%ということです。

 

誤診した疾患の内訳は以下の通りです。

1 静脈うっ滞性皮膚炎 36%
2 静脈血栓症 10%
3 非特異的皮膚炎 5%
4 その他 49%

 

静脈うっ滞性皮膚炎が蜂窩織炎と誤診されることが多いようです。

それではどうやって鑑別したらよいのでしょうか。

蜂窩織炎の総説を見てみましょう。

JAMA. 316(3): 325, 2016 PMID: 27434444

 

これらの疾患を鑑別するポイントは、片側性か両側性かに注目することです。

Stasis dermatitis is the condition that most often mimicscellulitis.

It is distinguished by its bilateral nature because bilateral cellulitis in the absence of skin trauma is extremely rare, and alternate diagnoses should be evoked before a diagnosis of bilateral cellulitisis conferred.

 

両側性の蜂窩織炎は稀なので、皮疹が両足にある場合はうっ滞性皮膚炎を考えます。

 

またうっ滞性皮膚炎の他に痛風や偽痛風にも注意する必要があります。

Gout is also frequently confused for cellulitis, especially because it can present with fever or leukocytosis and serum uricacid level may not be elevated, and it should be considered in cases in which the erythema overlies a joint. 

 

関節部の蜂窩織炎を疑う病変は痛風や偽痛風を鑑別します。

ただし鑑別が難しいケースもあり、診断的治療としてNSAIDsの内服が行われる場合があるようです。

A trial of nonseroidal anti-inflammatory drugs or joint aspiration can help distinguish gout from cellulitis.

 

蜂窩織炎に膿瘍を合併する頻度はどれくらい?

蜂窩織炎はまれに膿瘍を合併することがあります。

その場合は切開排膿が必要になるため、膿瘍の有無を確認しておくことは重要です。

 

それでは膿瘍を合併する頻度はどれくらいなのでしょうか。

論文を見てみましょう。

Arch Intern Med. 164(15): 1669, 2004

抗菌薬の5日間投与と10日間投与の比較試験に蜂窩織炎患者169人がエントリーされました。

その中で膿瘍を合併していた患者は13人だったようです。

さらにその後、治療中に6人が膿瘍を形成しています。

膿瘍を合併した蜂窩織炎患者:19人(11%)

 

この結果からは蜂窩織炎患者の約10%が膿瘍を合併するようです。

それでは膿瘍はどうやって診断すればよいでしょうか?

論文を見てみましょう。

Ann Emerg Med. 74(3): 372, 2019 PMID: 30926187

 

皮膚軟部組織感染症患者1216人(膿瘍あり827人、膿瘍なし389人)で、膿瘍診断における臨床所見と超音波検査の精度が調査されています。

【臨床所見】
・感度:90.3%
・特異度:97.7%

【超音波検査】
・感度:94.0%
・特異度:94.1%

 

このように臨床所見(視診と触診)だけでもかなりの精度で診断ができるようです。

臨床所見から膿瘍と診断できた患者に超音波検査を行っても、治療方針が変更されたのは1.2%だったようです。

 

ただし8.6%の症例は臨床所見では判断ができませんでした。

・臨床所見で膿瘍を診断:29.2%
・臨床所見で膿瘍がないと診断:63.2%
・臨床所見では判断不能:8.6%

 

その場合は超音波検査を行うのがよいでしょう。