皮膚科の豆知識ブログ

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湿疹が治るまでどれくらいかかるのか?

湿疹が治るまでには、どれくらいの時間がかかるのでしょうか。

アトピー性皮膚炎の研究を見てみましょう。

外用免疫抑制剤(ピメクロリムス)の寛解維持効果を見た臨床試験ですが、まず寛解導入のために外用ステロイドが使用されています。

Dermatology. 222 :36, 2011 PMID: 21150167

 

74人のアトピー患者の四肢の皮疹に対して、皮疹が改善するまで1日2回のリンデロンV外用が行われました。

その後2週間以内に67人(90%)の患者の皮疹が軽快しています。

 

生検組織のフローサイトメトリーでも、炎症細胞数が健常人レベルまで低下しているようなので、十分に改善していると言えるでしょう。

 

この結果から湿疹病変は基本的に2週間以内に改善すると考えてよさそうです。

2週間以上治らないときは診断の見直しが必要になります。

 

しかし湿疹が治らないのは診断が間違っていた場合だけではありません。

次回の記事で解説したいと思います。

www.derma-derma.net

 

湿疹が治らないときに考えること

「湿疹が治らない」

これは皮膚科医であれば誰しも経験することだと思います。

また「治らない」という訴えでドクターショッピングを繰り返す患者もいます。

 

それでは湿疹が治らない時はどうすればよいのでしょうか。

まず治らない理由にどんなものがあるのを知っておく必要があります。

こちらの論文に湿疹が治らない理由が4つ挙げられています。

皮膚科の臨床59(10): 1517, 2017

 

【湿疹が治らない理由】

1. 診断が間違っている(真菌、酒さ)
2. 何か原因がある(接触皮膚炎)
3. 生活習慣・機械的刺激(過度な手洗い、掻きむしるクセ)
4. 指示通り外用薬を使用していない

 

まず思いつくのは①(診断が間違っている)の可能性です。

しかし実際にはこのパターンはあまり多くはなく、一番多いのは④(指示通り外用薬を使用していない)です。

 

「2、3回塗ってみたけど治らない」という患者は案外多い印象です。

1日2回、1週間しっかりと外用するように指導すると、すぐに治ってしまいます。

湿疹が治らないときは、まずきちんと外用薬を使用できているかを確認する必要があるでしょう。

 

湿疹患者の外用薬継続率はどれくらい?

外来診療を行っていると、外用薬をきちんと使用できていない患者が多い印象があります。

実際、薬を塗るのは大変で、続けれられなくても無理はありません。

それでは具体的に外用薬の継続率はどれくらいなのでしょうか。

論文を見てみましょう。

J Am Acad Dermatol. 54(Suppl): S235, 2006. PMID: 16631951

 

手湿疹患者に対して内服と外用のステロイドが処方されました。

その後、薬剤の使用率が3週間調査されています(外用薬を開けたら記録される電子キャップを使用)。

【薬剤継続率(治療開始3週後)】

・内服薬:85%
・外用薬:64%

 

このように外用薬の継続率は64%と低く、3週間継続できる患者はあまり多くないようです。

ところが自己申告では継続率は90%を超えていたようで、患者の「ちゃんと塗っています」は案外当てにならないかもしれません。

 

普段、診療は「診察→診断→処方」という流れで終わりますが、皮膚科の診療はその後が一番重要です。

処方だけで終わらせずに、しっかり使用してもらうための工夫を行う必要があるようです。

 

湿疹に抗ヒスタミン薬は有効ですか?

皮膚の痒みは、ヒスタミンが神経に作用することで誘発されます。

そのため神経のヒスタミン受容体を阻害する抗ヒスタミン薬には、痒みを抑制する効果があります。

 

しかし湿疹の痒みを起こす物質はヒスタミンだけではありません(IL-4、IL-13などのサイトカイン等)。

抗ヒスタミン薬は湿疹に対して有効なのでしょうか。

接触皮膚炎に関する論文を見てみましょう。

Acta Derm Venereol. 78(3): 194, 1998 PMID: 9602225

 

ニッケルアレルギー患者27人にニッケルで接触皮膚炎を2回起こし、それぞれプラセボとセチリジンの投与が行われました。

そして痒みスコアと皮膚症状(パッチテストスコア、画像解析)が調べられています。

 

まず痒みスコアを見てみましょう。

痒みに関しては有意な差はないようです。

【痒みスコア】

・プラセボ:28.9
・抗ヒスタミン薬:30.0

(p=0.59)

 

次に皮膚症状を見てみましょう。

肉眼的なスコアに差はありませんが、画像で解析すると有意な差があるようです。

【パッチテストスコア】
・プラセボ:3.3
・抗ヒスタミン薬:3.1
(p=0.68)


【画像解析】
・プラセボ:51.07
・抗ヒスタミン薬:41.73
(p=0.03)

 

この結果からは、肉眼ではわからないくらいの若干の皮疹改善効果はあるようですが、抗ヒスタミン薬単独ではほとんど効果はないと考えられます。

 

湿疹の痒みを起こす物質はヒスタミンだけではありません。

抗ヒスタミン薬が抑制するのはヒスタミン依存性の痒みだけなので、有効性は低いのでしょう。

 

ただしステロイド外用と併用すると効果があるかもしれません。

アトピー性皮膚炎の論文を見てみましょう。

Br J Dermatol. 148(6): 1212, 2003 PMID: 12828751

 

400人のアトピー患者に対して、ステロイド外用に加えて抗ヒスタミン薬(フェキソフェナジン)かプラセボの投与が行われました。

(抗ヒスタミン薬:201人、プラセボ:199人)

そして投与前後の痒みスコアの変化が調べられています。

【痒みスコアの変化】

・プラセボ:-0.5
・抗ヒスタミン薬:-0.75

(p=0.0005)

 

このように抗ヒスタミン薬は有意に痒みを減少させています。

つまりステロイド外用を行っている状況であれば、補助療法として抗ヒスタミン薬は有効と考えられます。

 

湿疹に内服ステロイドを使う場面は?

症状が重篤な湿疹に対しては内服ステロイドを使うことがあります。

それでは具体的には、どのような場面で、どれくらいの量を使えばよいのでしょうか。

接触皮膚炎のガイドラインを見てみましょう。

日本皮膚科学会雑誌 130(4), 523, 2020 NAID: 130007833597

 

このように重症例に限りプレドニゾロン20~30㎎/日を1週間程度使用することが示されています。

【ステロイド内服】

20~30mg/日、1週間程度(重症例に限る)

 

それでは皮疹が重症とは具体的にはどのような状態なのでしょうか。

海外の接触皮膚炎ガイドラインに具体的な記載があります。

Ann Allergy Asthma Immunol. 3 Suppl2: S1, 2006 PMID: 17039663

 

「病変が体表面積の20%を超える」場合を重症と判断しているようです。

 When more than 20% of the body is involved, systemic therapy is warranted. 

 

ちなみに用量は0.5~1mg/kg/日と日本より多く、期間も10~14日と長くなっています。

(ただ1mg/kg/日を2週間は若干多すぎるような気がします)

The recommended dose is 0.5 to 1 mg/kg daily for 5 to 7 days, and only if the patient is comfortable at that time is the dose reduced by 50% for the next 5 to 7 days. 

 

日本のガイドラインと合わせて考えると、「病変が体表面積の20%を超える場合にプレドニゾロン20~30㎎/日を1週間程度使用する」という形になるでしょう。

 

またガイドラインには書かれていませんが、私は顔面の症状が強いときもステロイド内服の適応と考えています。


ただし安易にステロイド内服を開始することは長期内服に陥る危険性を含んでいます。

特にアトピー性皮膚炎に関しては、ステロイド内服は推奨されていないことに注意が必要です。

長期間のステロイド内服には種々の重篤な全身性副作用があることから、ステロイド内服薬によってアトピー性皮膚炎を長期間コントロールする治療法は一般的に推奨されず、投与するとしても短期間にとどめるべきである。

(アトピー性皮膚炎ガイドライン2021)