皮膚科の豆知識ブログ

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ヒルドイドはクリームとローションどちらがいい?

保湿剤であるヒルドイドには様々な剤型があります。

これらはどのように使い分ければよいのでしょうか。

ローションとクリーム(ソフト軟膏)を比較した論文を紹介します。

日本皮膚科学会雑誌 122(1): 39, 2012 NAID: 130004708841

 

健常成人5人の前腕に人工的に乾燥皮膚を作り、1か所はヒルドイドソフト軟膏、もう1か所はヒルドイドローションの外用を行いました。

1日2回、2週間使用し、角質水分量の目安となる電導度が測定されています。

 

ほとんど差はありませんが、8日目と14日目ではローションのほうが保湿効果が高くなっています。

 

つまりヒルドイドローションはヒルドイドソフトより若干効果が高いと言えそうです。

 

ただしこれはまったく同じ量を塗ったときの結果です。

ローションのほうが伸びがよいので、クリームよりも塗布量が少なくなる可能性があります。

そのため実際には臨床的な差にはつながらないかもしれません。

基本的に剤型による効果の違いは少ないと考えてよいでしょう。

 

尿素の濃度は何%がいいですか?

尿素製剤には2つの濃度があります。

 

・ウレパール→10%
・ケラチナミン→20%
・パスタロン→10%と20%

これらはどのように使い分ければよいのでしょうか。

論文を見てみましょう。

Dermatol Ther. 31(6): e12690, 2018 PMID: 30378232

 

尿素は角質細胞中の天然保湿因子(NMF)の一種です。

そのため10%以下の低濃度では保湿剤として作用します。

At lower doses (≤10%), urea-containing topical formulations act as a skin moisturizer.

 

ところが10%を超えるとケラチンを変性させ、角質溶解作用が出てきます。

At higher concentrations (>10% urea), urea-based preparations exert a keratolyticaction. 

 

そのため角化した病変(踵の角化や胼胝など)を軟化させる目的では20%製剤を使用するとよいでしょう。

 

  • 10%製剤(保湿)→ウレパール、パスタロン
  • 20%製剤(角質を軟化)→ケラチナミン、パスタロン

 

保湿剤とステロイドはどちらを先に塗る?

保湿剤とステロイド外用薬を併用する状況は多いです。

そんなときに気になるのが「どちらを先に塗ればいいのか」。

 

先に保湿剤を塗ってしまうと、後で塗るステロイドの吸収率が低下するような気もします。

 

しかし保湿剤を後で塗ると、最初に塗ったステロイドが周りに広がってしまうのでよくないかもしれません。

 

そこで塗る順番について参考になる論文を紹介します。

 

①皮膚へのステロイド移行性

 

まず皮膚へのステロイドの移行性を調べた論文です。

西日本皮膚科 73(3): 248, 2011 NAID: 130004831795

 

健常人の前腕3か所にステロイドと保湿剤の外用が行われました(①ステロイドのみ、②ステロイドの後に保湿剤、③保湿剤の後にステロイド)。

そして外用3時間後に分光度計を用いて、皮膚内のステロイド含有量が調べられています。

 

皮膚表面(0μm)や浅い部位(2~4μm)では、先に保湿剤を塗った群で皮膚内へのステロイドの移行性が低くなっています。

しかし6μmの深さでは順番による差はないようです。

(D群:ステロイドのみ、E群:ステロイドの後に保湿剤、F群:保湿剤の後にステロイド)

 

角層の厚さは10~20μmなので、保湿剤とステロイドを塗る順番は臨床効果には差を及ぼさないと考えられます。

(またステロイドのみでは移行性が高いようですが、その差はごくわずかなので臨床的な差はないだろうと考察されています)

 

②臨床効果

 

次に臨床効果を調べた論文も見てみましょう。

Pediatr Dermatol. 33(2): 160, 2016 PMID: 26856694

 

アトピー性皮膚炎の小児46人に対して、26人は保湿剤→ステロイド、20人はステロイド→保湿剤の順番で外用が行われました。

そして2週間後の重症度スコアが調査されています。

【重症度(EASI)スコア】

・保湿剤→ステロイド:4.6(2.7-11.5)
・ステロイド→保湿剤:10.4(4.9-16.1)
(p=0.11)

 

このように重症度スコアには有意差はなく、どの順番で塗っても臨床的な有効性は変わらないようです。

どちらでもよさそうですが、私は先に広めに保湿剤を塗ってから、病変の部位にステロイド外用薬を塗るように指示しています。

 

もっと皮膚科診断を学びたい人のための本

私の著書の第4刷が発行されました。

多くの方にご購入いただき大変うれしいです。

www.derma-derma.net

 

ですが「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」を読んで物足りないと思った方や、もっと詳しく皮膚科診断を勉強したいと思った方もいるかもしれません。

そこで今回はネクストステップの教科書を紹介したいと思います。

 

皮疹の因数分解・ロジック診断

皮疹の因数分解・ロジック診断

 

この教科書のコンセプトは「直観に頼らない論理的な皮疹の診断法」。

著者の北島康雄先生は、原発疹・続発疹の概念は実際の臨床ではあまり役に立たないと書かれています。

皮膚科のほとんどの教科書では発疹は原発疹と続発疹に分けられている。それはそれで意味はあるが、臨床現場で実際に皮疹を診る場合には意味があるとは思えない。

したがって、ここでの皮疹の分類は原発疹・続発疹の視点はあえて入れていない。

 

私の著書のコンセプトはこの教科書を参考にした部分があり、読者の方はスムーズに受け入れることができると思います。

 

私は紅斑を表面ザラザラと表面ツルツルの2つに分類しましたが、見た目ではそれ以上鑑別するのは難しいと記載しました。

しかし「皮疹の因数分解・ロジック診断」では、見た目だけでもっと詳しく鑑別する方法が述べられています。

 

例えば同じ湿疹の中でも、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹は病理所見が微妙に異なっています。

その違いが見た目に及ぼす影響が詳しく解説されており、この考え方をマスターできれば診断力が大きく上がると思います。

(ただ高度な内容なので私も完全にはマスターできていません…)

 

初学者の方には難易度が高いかもしれませんが、より詳しく勉強したい方にぜひ読んでいただきたい教科書です。

 

皮膚病理イラストレイテッド①炎症性疾患

皮膚病理イラストレイテッド

 

著書の中でも説明しましたが、皮疹の見た目は病理組織学に基づいています。

つまり病理を学ぶことで、皮疹についてより深く理解することができるのです。

 

ところが一般的な皮膚病理の教科書を読んでも、その知識をどうやって皮疹の診かたに応用していいのかはわかりません。

さらに皮膚病理には「海綿状態」、「棘融解」、「液状変性」など独自の用語があり、とっつきづらいという問題もあります。

 

そこで「皮膚病理イラストレイテッド」が役立ちます。

この教科書はいわば皮膚病理の通読型の教科書。

 

従来の病理アトラスのように写真が並べられただけのものではありません。

一つ一つの所見が生じる病態が詳しく解説されており、論理的に理解する構成になっています。

この「病態から論理的に理解する」というスタイルは私の著書にも取り入れさせていただきました。

 

私の著書では病理の細かい解説はなるべく避けるようにしたため、詳しく知りたい方には物足りなさが残ったかもしれません。

そんな方はこの教科書で学ぶことで、「病態→病理組織→皮疹の見た目」の対応関係をより深く理解することができると思います。

 

まとめ

 

今回は2冊の教科書を紹介しました。

もっと詳しく皮膚科診断を勉強したいと思った方は、ぜひ読んでみてください。

 

「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の第4刷が発行されました

この度、私の著書「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の第4刷が発行されました。

購入してくださった皆様ありがとうございました。

 

第○刷というのは増刷された回数を表しています。

最初に印刷した本が売り切れて、追加で印刷することを重版(増刷)と言います。

さらに増刷した本が売り切れた場合は、再び増刷されます。

(正確には売り切れそうになった段階で増刷が決定)

 

つまり第4刷とは、増刷分も売り切れて合計3回増刷されたということになります。

 

  • 第1刷:1月1日
  • 第2刷:3月15日(増刷1回目)
  • 第3刷:6月1日(増刷2回目)
  • 第4刷:9月1日(増刷3回目)

 

それでは増刷にはどんな意味合いがあるのでしょうか。

 

一般的にほとんどの書籍は増刷されずに販売終了してしまうそうです。

増刷率(重版率)はわずか10~20%と言われています。

したがって増刷が決まった時点で、その書籍はヒット作と言うことができるようです。

 

とはいえ執筆は今回が初めてということで、粗削りで未熟な点が多々あると思っています。

(現時点でも、価格と内容が釣り合っていない、5章がクソ、などの温かくも厳しいご意見をいただいております)

 

そこで読者の方々からの意見を取り入れた、完成度の高い完全版(改訂第2版)をいずれ出版できればと考えています。

 

それでは改訂第2版が出ている書籍はどれくらい増刷されているのでしょうか。

書店で調べてみました。

 

まず定番の教科書「あたらしい皮膚科学」を見てみます。

14刷発行後に改訂第2版が発行されているようです。

増刷13回…!桁が違いますね。

あたらしい皮膚科学

2005年5月:第1刷発行
2010年2月:第14刷発行
2011年4月:改訂第2版発行

 

ですがさすがに10刷以上は無理そうです。

別の本も見てみましょう。

最近改訂版が発売された「あらゆる診療科で役立つ皮膚科の薬」です。

こちらは4刷で改訂版が出ています。

あらゆる診療科で役立つ皮膚科の薬

2013年10月:第1刷発行
2018年5月:第4刷発行
2022年5月:改訂第2版発行

 

となると、このまま順調にいけば改訂版も夢ではなさそうです。

改訂版にむけて皆様からの感想やご意見をいただけましたら嬉しいです。

 

本の感想、ご意見はこちらからお願いします。