皮膚科の豆知識ブログ

日々の小さな疑問を解決する論文を紹介。講演、お仕事の依頼は「お問い合わせ」からお願いします。

薬疹の病型は何が多い?

薬疹には色々なパターンがあります。

それではどのような病型が多いのでしょうか。

論文を見てみましょう。

日皮会誌 122(10): 2495, 2012 NAID: 130004714871

 

横浜市立大学付属病院を受診した341人の薬疹患者のデータが解析されています。

【薬疹の病型】

・紅斑丘疹型:41%
・多形紅斑型:13%
・湿疹型:8%
・蕁麻疹型:8%
・重症薬疹:7%

 

一番多いのは紅斑丘疹型です。

しかしこの報告は大学病院受診患者なので、重症薬疹や特殊な薬疹が多く含まれている可能性があります。

NEJMの薬疹の総説には80%以上が紅斑丘疹型と記載されているので、実際にはほとんどが紅斑丘疹型なのかもしれません。

N Engl J Med 366: 2492, 2012(PMID: 22738099)

The majority of skin events attributed to drugs are either exanthematous (maculopapular or morbilliform) eruptions (>80%) or urticaria (5 to 10%).

 

紅斑丘疹型は麻疹型とも言われ、ウイルス感染症と見分けがつかず診断に苦労することも多いです。

薬疹とウイルス性発疹症を区別する方法はあるのでしょうか。

NEJMの薬疹の総説を見てみましょう。

【薬疹とウイルス性発疹症の鑑別】

・薬疹とウイルス性発疹症の鑑別は困難
・皮膚生検でも区別できないことが多い
・薬疹は薬剤開始4日目以降が多い
・投薬3日以内発症はウイルス性発疹症を疑う

 

この文献によるとやはり区別するのは難しいようです。

見た目はもちろん、皮膚生検でも鑑別はできません(ウイルス性は四肢優位、薬疹は体幹優位といわれることもありますが)。

しかし薬剤開始から発症までの時間が参考になる場合があります。

薬剤開始3日以内はウイルス性発疹症、4日以降は薬疹の可能性が高いようです。

薬疹を疑う場合は、病歴をしっかりと聴取する必要があります。

 

薬疹の原因薬剤の特定法

薬疹を疑ったときは使用している薬剤をすべてリストアップします。

その中から原因を絞り込んでいくわけですが、多数の薬剤が新たに開始されている場合は特定が難しくなります。

そんなときは薬剤の開始時期を確認します。

遅延型アレルギーは感作が成立するまでに数日から2週間程度かかります。そのため原因の可能性が高いのは4~14日以内に開始した薬剤です。

 

原因薬剤を絞り込むための指標を紹介します。

N Engl J Med. 366(26): 2492, 2012 PMID: 22738099

開始時期ごとの原因の可能性が4段階に分けて評価されています。

薬疹の原因薬剤

ただしすでに薬剤に感作されていた場合は服薬後3日以内に症状が現れます。

 

薬疹の原因精査の図

もし過去の使用歴がわからない場合は、1か月以内に開始した薬剤はすべてピックアップするのがいいでしょう。

 

薬疹の治療法

重症薬疹の治療法は教科書に書かれていますし、ガイドラインも存在します。

しかしそれ以外の薬疹をどうすればよいのかは、あまり書かれていない気がします。

そこで薬疹の総説から、治療法の部分を抜粋してみます。

N Engl J Med 366: 2492, 2012(PMID: 22738099)

【薬疹の治療(重症薬疹以外)】

・ほとんどの薬疹は薬剤中止2日後まで広がり1週間で消退
・痒みに対しては抗ヒスタミン薬を用いる
・皮疹に対してステロイド外用を用いるがエビデンスは無い

 

ほとんどの薬疹は薬剤を中止すれば1週間程度で消退します。

一般的に対症療法として、ステロイド外用や抗ヒスタミン薬の内服も行われます。

しかしこれらの治療にエビデンスはないようです。

 

ちなみに薬疹の治療法の内訳を調べた報告もあります。

日皮会誌 122(10): 2495, 2012 (NAID)130004714871

 

341人の薬疹患者の治療法がまとめられています。

【薬疹の治療法】

・対症療法のみ:82%
・ステロイド内服:14%
・ステロイドパルス:3%
・その他:1%

 

8割は対症療法のみで治る軽症例。2割程度がステロイド投与を必要とする重症例です。

重症例を見分けて早期に治療開始するのが、皮膚科医の重要な仕事と言えるでしょう。

 

重症薬疹の死亡率はどれくらい?

重症薬疹とされているのは以下の4つです。

 

①Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson syndrome :SJS)

②中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)

③薬剤性過敏症症候群(drug induced hypersensitivity syndrome:DIHS)

④急性汎発性発疹性膿疱症(acutegeneralized exanthematous pustulosis:AGEP)

 

これらの薬疹は生命予後に関わるため注意が必要です。

それではどれくらい危険なのでしょうか。

論文を見てみましょう。

 

SJS・TEN

SJSとTENは一連の病態で、水疱の面積が10%以下がSJS、10%以上(海外では30%)がTENになります。

SJS・TENの総説に死亡率がまとめられています。

Orphanet J Rare Dis. 5: 39, 2010 PMID: 21162721

The average reported mortality rate of SJS is 1-5%, and of TEN is 25-35%.

 

SJSの死亡率は1~5%ですが、TENの死亡率は25~30%とかなり高い数値のようです。

 

DIHS

次にDIHSについて見てみましょう。

薬疹の総説には、DIHSの死亡率は10%程度と記載されています。

N Engl J Med. 331(19): 1272, 1994 PMID: 7794310

 

しかしDIHS117例の前向き研究では死亡率は2%で、そこまでは高くないのかもしれません。

Br J Dermatol. 169(5): 1071, 2013 PMID:23855313

 

合わせると2~10%というところでしょう。

 

AGEP

最後にAGEPについて見てみましょう。

AGEP患者207例の後方研究では死亡率2%と報告されています。

Ann Dermatol Venereol. 130(6-7): 612, 2003 PMID: 13679697

 

まとめ

以上の結果をまとめてみます。

 

重症薬疹の死亡率

SJS

1~5%

TEN

25~35%

DIHS

2~10%

AGEP

2%

 

このようにTENは危険性が特に高いため注意が必要です。

 

SJS/TENの治療はどれくらい早く始めればいい?

スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症(TEN)は危険な重症薬疹です。

SJSの死亡率は1~5%、TENに進行した場合の死亡率は25~35%と報告されています。

www.derma-derma.net

 

治療の第一選択はステロイド全身投与です。

ところが全身にびらんが拡大した段階でステロイドを投与すると、感染症を併発して逆に死亡率が上昇する可能性が指摘されています。

 

熱傷センターに搬送された重症のTEN患者30人(ステロイドあり15人、なし15人)の調査を見てみましょう。

Ann Surg. 204(5): 503, 1986 PMID: 3767483

 

進行してしまった段階では、ステロイドを投与したほうが死亡率が高いという結果が出ています。

【死亡率】

・ステロイドあり:66%
・ステロイドなし:33%

 

皮疹が広がる前にできるだけ早く治療を開始することが重要です。

それではどれくらい早く治療を始めればよいのでしょうか。

論文を見てみましょう。

 

ステロイドの投与が行われなかったSJS/TEN患者321人の経過が調査されています。

Br J Dermatol. 167(3): 555, 2012 PMID: 22639874

病変が最大に拡大するまでの期間(Duration from onset to maximum detachment):7.6日

 

このように病変が全身に拡大するまでには平均7.6日かかるようです。

治療開始がそれ以降になると死亡率が上昇する可能性があり、発症後7日以内に治療を開始するのが望ましいでしょう。

日本皮膚科学会のガイドラインでも、発症7日前後までの治療開始が推奨されています。

 

実際、TEN患者54症例の解析では、発症から皮膚科受診までの日数と死亡率が相関すると報告されています。

日本皮膚科学会雑誌 130(9): 2059, 2020 NAID: 130007889713

発症から皮膚科受診までの期間

・生存群:5.4日
・死亡群:13.5日
(P=0.003)