皮膚科の豆知識ブログ

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BCG接種後の副反応はどうする?

ときどきBCGの副反応に遭遇することがあります。

今回はBCG副反応についてまとめてみました。

 

発症時期

まず発症時期に関する論文を見てみましょう。

1997年~2008年に皮膚科から報告されたBCG副反応のまとめです。

日本皮膚科学会雑誌 121 (1), 39-45, 2011 NAID: 10030569476

 

発症までの期間は3か月以内がほとんど(81%)のようです。

BCG接種から症状発症までの期間

・1か月以内:37%
・2~3ヶ月:44%
・4ヶ月以降:19%

 

対応

次は対応についてです。

BCG副反応はリンパ節病変と皮膚病変に分類されています。

 

  • リンパ節炎
  • 皮膚病変(結核疹、真性結核)

 

さらに皮膚病変は結核疹と真性結核の2つに分類されます。

結核疹は結核菌に対するアレルギー反応。真性結核は皮膚に感染した結核菌による病変です。

副反応の種類によって対応が異なります。

 

リンパ節炎

まずリンパ節炎についてです。

222例のリンパ節炎を経過観察した論文では7カ月以内に90%が自然消退しています。

Tuber Lung Dis. 77(3): 269, 1996 PMID: 8758112

【リンパ節炎の自然消退】

・4か月以内:75%
・7ヶ月以内:90%

 

そのため小さなものでは経過観察が推奨されています。

【リンパ節炎の対応】

・2cm未満:経過観察
・2~3cm:症例ごとに判断
・3cm以上:抗結核薬を考慮

 

結核疹

次に結核疹についてはどうでしょうか。

結核疹は結核菌に対するアレルギー反応なので、基本的には積極的な治療は必要ありません。

論文によると丘疹状結核疹は平均2か月程度(8.7週)で自然消退すると報告されています。

西日本皮膚科 84(3): 229, 2022

 

真性結核

最後に真性結核についてです。

真性結核も自然消退する症例が30%程度あるようで、まず2~3か月間の経過観察が推奨されているようです。

改善傾向がない場合は生検を行い、結核菌が検出されれば抗結核薬を3~6ヶ月内服を行うという指針が示されています。

2~3 カ月間の経過観察を基本とする。

増大、自壊する例、あるいは閉鎖傾向がない場合には生検、菌検索を行い、結核菌が検出された場合には抗結核薬の内服を考慮する。

 

検査の性能がわかる「尤度比」とは?

 

検査の性能は、感度と特異度からある程度わかります。

しかし「感度38%、特異度96%」の検査と言われても、イメージがつきにくいのではないでしょうか。

そんなときに便利な尤度比について解説します。

 

尤度比とは

 

尤度比は感度と特異度から計算することができます。

 

・陽性尤度比=感度/(1-特異度)
・陰性尤度比=(1-感度)/特異度

 

そして尤度比から検査後の疾患の確率を知ることができるのです(検査前確率が5~95%の場合)。

【陽性尤度比】

•10~:確定診断的な所見
•5~10:可能性をかなり上げる
•2~5:可能性を上げる
•1~2:可能性を変えない

 

【陰性尤度比】

•~0.1:除外診断的な所見
•0.1~0.2:可能性をかなり下げる
•0.2~0.5:可能性を下げる
•0.5~1:可能性を変えない

(日本内科学会雑誌 96:831-832, 2007、ジェネラリストのための内科診断リファレンス)

 

尤度比5以上、0.2以下からが質のよい検査。

尤度比10以上、0.1以下からが非常に質のよい検査と考えられています。

 

最初に示した感度38%、特異度96%の検査の尤度比を計算してみましょう。

 

•陽性尤度比:1.55(1~2=可能性を変えない)
•陰性尤度比:0.12(0.1~0.2=可能性をかなり下げる)

 

この検査が陽性でも疾患の可能性は変わらず診断はできません。

一方、陰性の場合は可能性がかなり下がり、除外診断することができます。

このように感度・特異度ではなく尤度比で考えると、検査がわかりやすくなると思います。

 

さらに詳しく

 

もう少し詳しく見てみましょう。

尤度比から検査後の疾患の確率を数値として知ることができます。

J Gen Intern Med 17:646-649,2002(PMID:12213147)

【陽性尤度比】

10→ +45%
5 → +30%
2 → +15%
1 → +0%

【陰性尤度比】

1 → -0%
0.5 → -15%
0.2 → -30%
0.1 → -45%

 

(検査前確率が5~95%の場合)

 

たとえば尤度比10の検査が陽性であれば、確率はだいたい45%増すということです。

検査前の確率が50%であれば、検査後の確率は95%でほぼ確定診断することができます。

 

そして陰性尤度比0.1の検査が陰性であれば、確率は45%減ります。

検査前の確率が50%であれば、検査後の確率は5%でほぼ除外診断できます。

 

検査の性能を知りたいときは、感度・特異度から尤度比を計算してみてください。

 

ASOはどんなときに使うのか?

溶連菌感染症を診断するための血液検査としてASOがあります。

ASOはどのような場面で使用するのでしょうか。

 

A群溶連菌が産生する活性蛋白streptolysin Oに対するIgG抗体がASO(anti-streptolysin O)です。

IgG抗体なので上昇するまでに時間がかかることに注意が必要です。

 

上昇するまでにどれくらいの時間がかかるのでしょうか。

それを調べた論文があります。

Br J Rheumatol. 37(3): 335, 1998(PMID: 9566678)

【溶連菌感染後のASOの陽性率】

・1週後:35%

・2週後:45%

・3週後:65%

・4週後:95%

・8週後:100%

 

このように感染後1週間くらいから上昇し、約4週間でピークになるようです。

蜂窩織炎などでASOが測定されていることがありますが、ASOでは急性期の溶連菌感染症は診断できないことに注意が必要です。

 

一方、溶連菌感染後に生じる結節性紅斑やIgA血管炎などの疾患で、感染の証明のために使用する場合は有用です。

 

マイコプラズマ抗体検査はどう使う?

マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニエ)感染症はスティーブンスジョンソン症候群の原因にもなるため、皮膚科でも重要な感染症です。

肺炎のイメージが強いですが、肺炎に至るのは3~10%で、ほとんどが感冒症状のみなのだそうです(Chest. 95(3) 639, 1989 PMID:2646077)。

そのため皮疹の原因をつきとめるためには、抗体検査が必要になる場合があります。

しかし抗体検査にはいろいろな種類があり、使い分けや判定法などを知っておかなければなりません。

 

まず抗体検査にはCF法とPA法の2種類があります。

  1. CF法(主にIgG)
  2. PA法(主にIgM)

CF法とPA法はIgMとIgGの両方を反映した抗体検査ですが、CF法は主にIgGを、PA法は主にIgMを調べています。

そのため現時点での感染を知るためには、PA法のほうが良いようです。

 

それではPA法の感度・特異度はどれくらいなのでしょうか。

Clin Vaccine Immunol. 13(6): 708, 2006(PMID: 16760332)

・40倍:感度89.4%、特異度83.7%(陽性尤度比5.56)

・320倍:感度56.1%、特異度 97.4%(陽性尤度比18.7)

 

抗体陽性(40倍)だけでは特異度が低く、診断確定は難しそうです。

診断基準では320倍以上の数値が必要とされています。

 

またPA法は主にIgMを測定していますが、IgGも一部含まれているため、ペア血清での診断も可能です。

・ペア血清4倍以上:感度 88.5%、特異度100%

 

可能であればペア血清での診断が望ましいでしょう。

 

抗核抗体が陽性だけど症状がないとき

抗核抗体が陽性、しかし臨床症状は無いという状況に遭遇することがあります。

健常者での抗核抗体の陽性率はどれくらいなのでしょうか。

Arthritis Rheum. 40(9): 1601, 1997(PMID: 9324014)

 

健常人120人に対して抗核抗体の検査が行われています。

【健常者の抗核抗体陽性率】

・陰性:68%
・陽性:32%

(40倍以上:32%、80倍以上:13%、160倍以上:5%、320倍以上:3%)

 

以上のように抗核抗体は健常者でも陽性になることがあるため、判断はなかなか難しいです。

そのため有意な上昇は160倍以上とされています。

 

しかしその所見はSLEの発症を予見するものかもしれません。

SLEの初期は抗核抗体のみ陽性になり、その後に特異抗体が検出されるようになるそうです。

N Engl J Med. 349(16): 1526, 2003

①抗核抗体陽性(2年前)

②dsDNA抗体陽性(1年前)

③Sm抗体陽性(半年前)

④発症

 

とはいえ抗核抗体の判断には悩むことが多いです。

臨床症状がない患者に抗核抗体をオーダーすることは控えたほうがいいでしょう。