皮膚科の豆知識ブログ

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【医師国家試験皮膚科領域④】臨床で役立つ解説-膠原病

前回に引き続き、医師国家試験に出題された皮膚疾患の写真から、皮膚科診断について説明していきます。

 

第1回で紅斑のみかたの原則を解説しました。

(第1回はこちら>>医師国家試験皮膚科領域①

 

・表面がザラザラ:表皮の病変(湿疹)

・表面がツルツル:真皮の病変(薬疹)

 

しかし原則には例外があります。

今回は膠原病の皮疹について取りあげてみます。

 

膠原病の皮疹 

膠原病の皮疹も基本的に表面がツルツルの紅斑です。

以下の写真はSLE、皮膚筋炎、成人スティル病、川崎病ですが、見分けるにはどうしたらよいでしょうか。

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答えは「見分けられない」です。

内因性の皮疹は見た目はそっくりで見分けがつきにくいのです。

 

膠原病でも薬疹でもウイルス性発疹症でも同じようなメカニズムで皮疹が生じています。

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そのため、見た目以外のポイント(病歴や検査など)から鑑別していくしかありません。

 

まずSLE。

医師国家試験SLEの図

皮膚筋炎。

医師国家試験皮膚筋炎の図

成人スティル病。

医師国家試験成人スティル病の図

川崎病。

医師国家試験川崎病の図

 

さらにベーチェット病の結節性紅斑も表面がツルツルの紅斑です。

医師国家試験ベーチェット病の図

 

例外:ゴットロン徴候

ただし皮膚筋炎のゴットロン徴候は、表面がザラザラしているので注意してください。

医師国家試験ゴットロン徴候の図

 

 

この理由は、皮疹の形成に外因性の要素があるためだと思われます。

ゴットロン徴候は手指や肘、膝などの摩擦が多い場所に出現します。

つまり摩擦が関係しているため、表皮の変化を伴うのです。

 

まとめ

今回は膠原病の皮疹について解説しました。

次回は表面がザラザラの紅斑について取りあげる予定です。

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【医師国家試験皮膚科領域③】臨床で役立つ解説-蕁麻疹とウイルス感染症

前回に引き続き、医師国家試験に出題された皮膚疾患の写真から、皮膚科診断について説明していきます。

 

第1回で紅斑のみかたの原則を解説しました。

(まだ見ていない方は第1回から御覧ください>>医師国家試験皮膚科領域①

 

・表面がザラザラ:表皮の病変(湿疹)

・表面がツルツル:真皮の病変(薬疹)

 

しかし原則には例外があります。

今回は薬疹以外の表面がツルツルの病変について取りあげてみます。

 

薬疹以外の表面ツルツル紅斑

紅斑の表面がツルツルしている場合、病変は真皮に存在しています。

これは原因物質が体の中からやってきた内因性の皮疹であることを表しています。

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代表的な原因は薬剤ですが、それ以外にはどんなものが考えられるでしょうか。

血流に乗って原因物質がやってくるものとして以下のものが挙げられます。

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蕁麻疹は食物などによる内因性の皮疹です。

また麻疹などのウイルスも感染後、血流に乗って皮膚に到達します。

そして膠原病では自己抗体などによる内因性の機序で皮疹を形成します。

 

表面がツルツルの紅斑の原因

・薬疹

・蕁麻疹

・ウイルス感染症

・膠原病

 

具体的に見ていきましょう。

 

①蕁麻疹

蕁麻疹の皮疹も表面がツルツルです。

医師国家試験蕁麻疹の図

蕁麻疹の皮疹は浮腫を伴う紅斑で「膨疹」と呼ばれます。

薬疹より隆起が強いのが特徴です。

医師国家試験膨疹の図

ただし臨床現場では見分けがつきにくいことも多いです。

見分けるポイントは皮疹の持続時間です。

蕁麻疹は数時間で消えますが、薬疹などは1日以上持続します。

 

②ウイルス感染症

原因物質が薬剤であってもウイルスであっても、皮膚では同じような免疫反応が起こります。

そのため全身性のウイルス感染症でも、表面がツルツルの紅斑を生じるのです。

Aは麻疹、Bは伝染性単核球症の皮疹ですが、違いは分かるでしょうか?

ウイルス性発疹症の鑑別の図

見た目の違いはほとんどなく、皮疹から原因ウイルス(麻疹、風疹、伝染性単核球症、突発性発疹など)を特定することはほぼ不可能です。

 

表面がツルツルの紅斑は、薬歴や病歴などを加味して総合的に判断する必要があるのです。

さらに薬疹とウイルス感染症を見分けることも困難で、いつも苦労させられています。

 

まとめ

今回は蕁麻疹とウイルス感染症について解説しました。

次回は膠原病の皮疹を取りあげる予定です。

つづく

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【医師国家試験皮膚科領域②】臨床で役立つ解説-重症薬疹

前回に引き続き、医師国家試験に出題された皮膚疾患の写真から、皮膚科診断について説明していきます。

 

前回、紅斑のみかたの原則を解説しました。

 

・表面がザラザラ:表皮の病変(湿疹)

・表面がツルツル:真皮の病変(薬疹)

 

しかし原則には例外があります。

今回は例外の中から、表面がツルツルではない薬疹について取り上げてみます。

 

重症薬疹 

重症薬疹のTENは国家試験でもよく出題されているようです。

TENの写真を見てみましょう。

薬疹なのに表面がツルツルではありません。

医師国家試験TENの図

 

これはなぜなのでしょうか。

 

実はTENの皮疹も真皮から始まるので、最初は表面がツルツルしています。

ところが炎症が強いために表皮まで病変が拡大し、表皮が壊死します。

すると水疱を形成し、びらんになってしまうのです。

医師国家試験薬疹の図


以下の薬疹の写真は、一見表面がツルツルの紅斑です。

医師国家試験薬疹の図

 

しかしよく見ると、一部に水疱を形成しているのがわかります。

つまりTENに進行しつつあるということです。

医師国家試験スティーブンス・ジョンソンの図

水疱、びらんが体表面積の30%を超えるとTENの診断となります。 

 

まとめ

薬疹の進行のしかたは以下の通りです。

 

表面がツルツルの紅斑(通常薬疹)→口腔粘膜疹(スティーブンス・ジョンソン症候群)→全身のびらん(TEN)

 

このように本来ツルツルのはずの紅斑が、ツルツルではなくなったときには注意が必要なのです。

 

次回は薬疹以外の表面がツルツルの病変について解説します。

つづく

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【医師国家試験皮膚科領域①】臨床で役立つ解説-総論

今回は医師国家試験に出題された皮膚疾患の写真から、皮膚科診断について解説したいと思います。

医師国家試験皮膚科領域の解説 

国試の皮膚科の分野では症例写真が数多く出てきますが、写真から診断することは難しいのではないでしょうか。

過去問の写真を丸暗記するか、問題文から疾患を推測するか。

合格のためにはそれで十分だと思います。

 

 

しかしせっかくなので、将来臨床で役立つ皮疹のみかたを勉強してみてはいかがでしょうか。

まず以下の2つの写真をみてください。診断はわかるでしょうか。

医師国家試験皮膚科領域の解答の図

 

これらの紅斑の違いは皮疹の表面の性状です。

よく見ると、Aは表面がツルツルしていて、Bは表面がザラザラしているのがわかると思います。

答えはAが薬疹、Bが湿疹です。

 

組織学的な皮疹のみかた

この違いが皮膚科診断では非常に重要になります。

それではなぜこのような違いがあるのでしょうか。 

少し病理組織学的に考えてみましょう。

 

皮膚は3層構造になっています。

外側から表皮、真皮、皮下組織です。

皮膚の模式図

 

表面がザラザラしているのは、一番外側の表皮に病変があることを表しています。

一方表面がツルツルしているのは、病変が表皮にはなく、真皮のみに存在していることを表しています。

皮膚科診断学の図

 

つまり表面の性状から病変が存在する深さが分かるということです。

さらにこの深さの違いがなぜ起こるのかを考えてみましょう。

 

接触皮膚炎などの湿疹は、原因物質が体の外からやってきます(外因性)

そのため皮膚の外側の表皮に病変が生じます。だから表面がザラザラしています。

医師国家試験湿疹の図

 

一方薬疹は、摂取された原因物質が体の中からやってきます(内因性)

そのため皮膚の内側の真皮から病変が生じます。だから表面はツルツルです。

医師国家試験薬疹の図

 

つまり病変の深さがわかれば、皮疹の原因を推測することができるのです。

 

まとめと復習

もう一度最初の写真を見てみましょう。

 

表面がツルツルしているAは真皮に病変があり、原因物質は体の中からやってきたと考えられます。この場合は、まず薬疹を考えます。

 

表面がザラザラしているBは表皮に病変があり、原因物質は体の外からやってきたと考えられます。この場合は、まず湿疹を考えます。

 

それでは次の写真で練習してみてください。どちらが湿疹で、どちらが薬疹かわかるでしょうか。

医師国家試験皮膚科領域の解説の図

 

答えは

A:薬疹、B:湿疹です。

 

いかがでしょうか。

例外も多いのですが、まずこの原則を覚えておけば、皮膚科診断がわかりやすくなると思います。

 

・表面がザラザラ→表皮の病変(湿疹)

・表面がツルツル→真皮の病変(薬疹)

 

これからこの原則を使って、他の疾患についても解説していきます。

つづく

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梅毒の検査が変わった

最近梅毒の検査法が変わっています(用手法→自動化法)。

それに伴っていくつかの変化があり、教科書の記載内容が古くなっています。

そのため知識をアップデートしておく必要があります。

 

まず治療効果判定が「RPR 1/4以下」から「RPR半分以下」に変更されていることに注意です。

梅毒診療ガイド2018

【治療効果判定】

<旧検査法(倍数希釈)>
RPRが1/4以下に低下

<新検査法(自動化法)>
RPRが半分以下に低下

 

次に誰もが知っている梅毒検査解釈の表があります。

しかし新しい検査法では解釈に注意が必要です。

日本性感染症学会誌29(1): 53, 2018

【陽性になる順番】

<旧検査法(倍数希釈)>
RPR→ TP抗体(TPHA)

<新検査法(自動化法)>
TP抗体(TPLA)→RPR

 

新検査法ではTP抗体の方が先に陽性になることが多いようです。

そのため1期梅毒でTP抗体のみ陽性(RPR陰性)の症例が増加しています(25%程度)。

【1期梅毒の抗体検査】

・RPR、TP抗体陰性:6%
・TP抗体のみ陽性:25%
・RPR、TP抗体陽性:69%

 

表ではSTS陰性、TP抗体陽性は「梅毒治癒後」となっていますが、新しい検査法では「感染後早期」の可能性があります。

STS

TP抗原系

結果の解釈

非梅毒

生物学的偽陽性

梅毒

梅毒初期、梅毒治癒後

 

国立感染症研究所のホームページにもその旨が記載されています。

従来の希釈倍率法では梅毒感染初期において, まず, RPRが陽性を示すようになり, その後TP抗原法も陽性を示すとされてきた。しかし, 自動化法ではTP抗原法の方が先に陽性を示すこともあり, 検査結果の解釈に注意を要する。