皮膚科の豆知識ブログ

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「とびひ」と診断されたらプールに入れない?

とびひ(伝染性膿痂疹)は小児に多い疾患なので、保護者から学校やプールに関する質問を受けることがあります。

小児の感染症について、登校やプールに関してまとめてみます。

 

まず出席停止については法律(学校保健安全法)に定められています。

出席停止期間が規定されているのは、学校感染症第一種から第三種類の疾患です。

さらに「その他の感染症」という項目もあり、条件によっては第三種感染症として扱う疾患とされています。

 

学校感染症

・第一種
・第二種
・第三種
・その他の感染症(条件によっては第三種として扱う)

 

伝染性膿痂疹は「その他の感染症」で、その他に手足口病、伝染性軟属腫が含まれています。

しかし出席停止が必要なのかは記載が曖昧なため、現場では混乱が生じることがあります。

そこで皮膚科学会と小児科学会から統一見解が発表されています。

日本皮膚科学会雑誌 129(7): 1477, 2019 NAID:130007665645

病変が広範囲の場合や全身症状のある場合は学校を休んでの治療を必要とすることがありますが、病変部を外用処置して、きちんと覆ってあれば、学校を休む必要はありません。

 

これによると、治療・処置がしてあれば学校・保育所を休む必要はありません。

ただし病変が多発していたり、広範囲の場合は休ませるほうがいいようです。

 

またプールについても学会から統一見解が出されています。

日本皮膚科学会雑誌 125(6): 1203, 2015 NAID:130005071487

プールの水ではうつりませんが、触れることで症状を悪化させたり、ほかの人にうつす恐れがありますので、プールや水泳は治るまで禁止して下さい。

 

これによると、水中で感染することはないが、肌と肌が接触して感染させる恐れがあるため、プールは禁止するのが望ましいようです。

 

これらの学会の統一見解をもとに判断すれば間違いはなさそうです。

 

膿瘍は穿刺吸引で治療できる?

膿瘍の治療の基本は切開排膿です。

しかし切開には時間がかかり、その後も処置が必要になってしまいます。

そのため外来が忙しい時は躊躇する場合もあります。

 

一方、穿刺吸引は短時間で終わり、その後の処置が必要ないのが長所です。

それでは穿刺吸引のみで膿瘍の治療を行うことはできるのでしょうか。

論文を見てみましょう。

Ann Emerg Med. 57(5): 483, 2011 PMID: 21239082

膿瘍に対して切開排膿を行った54例と穿刺吸引を行った47例で、1週間後の治療失敗率が調査されています。

【治療失敗率】

・切開排膿:20%
・穿刺吸引:74%

両群間の差(95% CI): 54%(35-69)

 

このように穿刺吸引は切開排膿に比べて治療の失敗率が高いようです。

穿刺吸引を試みて最初はうまくいったとしても、後に切開が必要になる可能性があることを患者に伝えておく必要があるでしょう。

 

膿瘍を切開したあとにガーゼは詰めたほうがいい?

膿瘍の治療の第一選択は切開排膿です。

切開を行って貯留していた膿を圧出した後は、ドレナージ用のガーゼを詰めるのが一般的です。

 

しかし本当にガーゼを詰める必要はるのでしょうか。

ガーゼパッキングの効果を調べた論文があります。

Acad Emerg Med. 16(5): 470, 2009 PMID: 19388915

 

5㎝以下の膿瘍に対して切開を行った後、ガーゼを詰めた23例とガーゼを詰めなかった25例で、48時間後の治療失敗率が調査されています。

【治療失敗率】

・ガーゼあり:17.4%
・ガーゼなし:20.0 %
 (p=0.72)

 

このように治療失敗率に差はなかったようです。

痛みスコアに関しては、ガーゼを詰めたほうが有意に高く、ガーゼパッキングを行うかどうかは意見が分かれています。

私は基本的にガーゼパッキングを行うようにしていますが、小さな膿瘍では必要ないかもしれません。

 

膿瘍を切開したあとに抗菌薬は必要か?

膿瘍に対しては切開排膿を行い、その後抗菌薬を投与するのが一般的です。

しかし米国感染症学会のガイドラインでは、基本的に(発熱などの全身症状を伴う場合を除いて)抗菌薬は不要と記載されています。

Clin Infect Dis. 59(2): 147, 2014 PMID: 24947530

本当に必要はないのでしょうか。

抗菌薬の効果を調べた論文を見てみましょう。

Ann Emerg Med. 56(3): 283, 2010 PMID: 20346539

 

抗菌薬投与群88例、プラセボ投与群102例で1週間後の治療失敗率が調査されています。

【治療失敗率】

・抗菌薬投与:17%
・プラセボ:26%
P=0.12、Diffrence: 9%(95%CI, -2 to 21)

 

このように抗菌薬の投与は治癒率には影響しなかったようです。

ところがその後の研究では抗菌薬によって治癒率が上がるという結果も出ています。

N Engl J Med. 374(9): 823, 2016 PMID: 26962903

膿瘍が2cm以上の患者で、抗菌薬投与群630例、プラセボ群617例の治癒率(治療終了1~2週間後)が調査されています。

【治癒率】

・抗菌薬投与:81%
・プラセボ:74%
P=0.005、Diffrence: 6.9%(95%CI, 2.1 to 11.7)

 

このように2㎝以上の膿瘍では抗菌薬の効果が示されているようです。

そのため私は基本的に抗菌薬を投与しています。

ただし2cm以下の小さな膿瘍で蜂窩織炎の合併がない場合は切開排膿のみでもいいかもしれません。

 

皮膚科の医学書に関する雑感③「エビデンス型」

皮膚科の医学書に関する雑感を書くシリーズ。

今回は全3回中の3回目。

エビデンス型の医学書についてです。

 

▼前回の記事▼

www.derma-derma.net

 

エビデンス型の医学書

臨床の基礎が固まりマニュアル通りの診療がこなせるようになったら、次の段階に進む時期が来ます。

自分がやっている治療や検査にはどんな裏付けがあるのか。つまりエビデンスを知る必要があるのです。

 

エビデンスというと、ただの雑学的なつまらないものになりがちです。

しかしエビデンスを具体的に臨床応用していく方法かわかれば、大きな武器になります。

 

そんな実践的な形でエビデンスを紹介してくれる医学書の代表は「ステップビヨンドレジデント」でしょう。

ステップビヨンドレジデント

 

救急の現場で犯しやすいミスを例に、最新の論文を交えて救急外来のセオリーを紹介していく形式になっています。

読み物としての面白さに重点が置かれていて、ポップで読みやすいのも特徴です。

 

 

また「寄り道呼吸器診療」も日常の疑問に答えるエビデンスを紹介する興味深い医学書です。

寄り道呼吸器診療

 

いかにして机上の学問と臨床をつなげるのか。

教科書に書かれていないような疑問に出会ったとき、「エビデンスはあるのだろうか?」と寄り道することの重要性を知ることができます。

 

エビデンスの辞書

そしてエビデンスの使いかたが分かると、エビデンスをまとめた教科書の有用性が高まります。

「内科診断リファランス」は病歴、身体所見、検査などの具体的な数値が大量に掲載されたエビデンスの辞書とも言える教科書です。

内科診断リファレンス

 

しかし皮膚科の分野では、これらのような本は少ないようです。

 

皮膚科のエビデンス型の医学書

皮膚科のEBMを集めた本はありますが、既存の薬の有効性を示したものばかりで製薬会社の説明会のような内容です。

EBM皮膚疾患の治療

 

身近な疑問に答えるような本はないようです。

皮膚科の領域でもエビデンスをまとめた医学書を読んでみたいと思っています。

 

まとめ

3回にわたって皮膚科の医学書に関する雑感を書いてきました。

各分野で優れた医学書が発売されていますが、皮膚科分野はまだまだ発展途上だと思います。

今後もっと良い皮膚科の本が出てきて欲しいですね。