皮膚科の豆知識ブログ

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【書籍の復習用】国試解説:第5回

前回に引き続き書籍の内容をもとにして国家試験の問題を解説していきます。

 

今回は第3章の内容になります。

 

【問題】

以下の紅斑をみたときに、まず確認するのはなんでしょう。

(112C-25)

国試問題文(抜粋)

32歳の女性.痒みを伴う皮疹を主訴に来院した.昨日夕食後に皮疹が背部に出現し,消退した後に下肢に同様の皮疹が出現した.

 

【解説】

答え:皮疹の持続時間

 

表面の変化がなく、境界明瞭な紅斑なので病変は真皮にあるようです。

その場合はマスト細胞性の蕁麻疹とT細胞性の中毒疹を考えます。

そして蕁麻疹と中毒疹の鑑別点は皮疹の持続時間です。

24時間以内に消えるのが蕁麻疹、24時間以上持続するのが中毒疹です。

この症例は数時間で皮疹が消退しているようなので蕁麻疹だとわかります。

隆起が強いので見た目一発診断も可能ですが、順序立てて考えましょう。

つづく

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保湿剤にはどんな効果がある?

皮膚科の治療では保湿剤が重要な役割を果たします。

それでは保湿剤には具体的にはどのような効果があるのでしょうか。

 

再燃予防効果

保湿剤は皮膚炎そのものに対する直接的な効果は期待できませんが、ドライスキンを改善することができます。

そのためドライスキンが原因になる疾患(アトピー性皮膚炎,手湿疹,皮脂欠乏性湿疹)では、症状が改善した後も保湿剤を続けることで再燃を予防することができます。

 

論文を見てみましょう。

まずアトピー性皮膚炎では、保湿剤の使用で再燃リスクが低下することが示されています。

【6か月以内の再発率】

・保湿剤使用:32%
・保湿剤未使用:68%

Hazard ratio:3.2 (95% CI: 1.3 to 7.8)

J Eur Acad Dermatol Venereol. 23(11): 1267, 2009 PMID: 19508310

 

手湿疹でも、保湿剤の使用で再燃までの期間が延長することが示されています。

【再燃までの期間(中央値)】

・保湿剤使用:20日
・保湿剤未使用:2日

Acta Derm Venereol. 90(6): 602, 2010

 

ステロイドとの併用効果

また保湿剤とステロイド外用薬と併用することで、症状をより改善することができる可能性もあります。

論文を見てみましょう。

J Eur Acad Dermatol Venereol. 26(5): 597, 2012 PMID: 21605175

 

手湿疹患者に対して、①ステロイド外用1日2回と②ステロイド外用1回+保湿剤1回が行われました。

そして2週間後の重症度スコアがそれぞれ調査されています。

【2週間後の重症度スコア(HEES)】

・0.9:ステロイド1回+保湿剤1回
・2.5:ステロイド2回

(p=0.019)

 

このようにステロイド外用1日2回より、ステロイド外用1回+保湿剤1回のほうが効果が高い可能性が示されています。

治療前の重症度が高い症例(HEES>8)に限ると有意差がなかったようですが(P= 0.514)、少なくとも同等の効果は期待できるようです。

 

そのためステロイドだけではなく保湿剤も併用して治療したほうがよさそうです。

 

保湿剤は1日何回塗ればいい?

保湿剤は1日何回塗ればいいのでしょうか。

添付文書を見ても、使用回数は1日1~数回と記載されていてよくわかりません。

論文を見てみましょう。

日本皮膚科学会雑誌 122(1): 39, 2012 NAID: 130004708841

 

健常成人5人の前腕に人工的に乾燥皮膚を作り、1か所は1日1回、もう1か所は1日2回ヒルドイドソフトの外用を行いました。

2週間毎日使用し、角質水分量の目安となる電導度が測定されています。

 

結果は1日1回よりも2回のほうが効果的だったようです。

 

そのため私は朝と入浴後の1日2回使用するように指示しています。

それでは具体的にはどのような保湿剤を使用すればよいのでしょうか。

次回の記事で解説します。

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保湿剤は入浴後に塗った方がいい?

保湿剤は入浴後に塗るのがいいといわれています。

その理由は2つあるようです。

 

  1. 入浴後に皮膚の乾燥が進むのを予防
  2. 入浴で吸収した水分を閉じ込めるので保湿効果が高い

 

まず入浴洗浄によって皮膚表面の皮脂が取れるため、そのまま放置しておくと皮膚の乾燥が進みます。

そのため入浴後の保湿が勧められています。

 

もう一つの理由は入浴後は保湿効果が高いからです。

入浴後は皮膚が水分を吸収しており、直後に保湿剤を塗ることで、増加した水を捕らえ保湿効果がより高まるとされています。

 

これらは本当なのでしょうか。

論文を調べてみました。

Pediatr Dermatol. 26(3): 273, 2009 PMID: 19706087

 

アトピー性皮膚炎の小児5人が入浴(腕のみを10分間お湯に浸す)を行い、以下の4つのパターンで角質水分量の変化が調べられました。

 

  • 入浴のみ
  • 入浴直後に保湿剤使用
  • 入浴30分後に保湿剤使用
  • 入浴せずに保湿剤使用

 

入浴後は皮膚の乾燥が進む?

まず入浴後に皮膚の乾燥が進むかどうかを見てみます。

「入浴のみ」と「入浴直後に保湿剤を使用」を比較してみましょう。

入浴直後と90分後の角層水分量の変化を見てみます。

角質水分量の変化率(平均)

・入浴のみ:-13%
・入浴直後に保湿剤外用:+9%

 

このように入浴後に皮膚の乾燥が進んでしまうようですが、保湿剤を外用することで乾燥を予防することができています。

 

保湿剤は入浴直後が有効?

次に保湿剤の使用は入浴後なるべく早いほうがいいのかを見てみます。

「入浴直後に保湿剤を使用」と「入浴30分後に保湿剤を使用」を比較してみましょう。

保湿剤使用前と使用90分後の角層水分量の変化を見てみます。

角質水分量の変化率(平均)

・入浴直後に保湿剤外用:+9%
・入浴30分後に保湿剤外用:+9%

(有意差なし)

 

このように30分後でも水分量の変化は変わらず、必ずしも入浴直後である必要はなようです。

 

入浴中に吸収した水分を閉じ込める?

最後に入浴後に保湿剤を塗ると保湿効果が高いのかを見てみます。

「入浴を行わずに保湿剤を使用」と「入浴直後に保湿剤を使用」を比較してみましょう。

保湿剤使用前と使用90分後の角層水分量の変化を見てみます。

角質水分量の変化(平均)

・入浴なしで保湿剤外用:+86%
・入浴直後に保湿剤外用:+9%

(有意差なし)

 

このように入浴なしで保湿剤を使用したほうが保湿効果は高かったようです(ただし有意差はなし)。

つまり「入浴中に吸収した水分を閉じ込めて保湿効果アップ」というわけではないとわかります。

 

まとめ

入浴後は皮膚の乾燥が進むため、入浴後に保湿剤を外用したほうがよいと考えられます。

ただし入浴後は保湿効果が高いというわけではなさそうです。

 

ワセリン、ヒルドイド、尿素はどれがいい?

保険で処方できる保湿剤は3種類あります。

 

  • ワセリン(プロペト)
  • ヘパリン類似物質(ヒルドイド)
  • 尿素(ウレパール、パスタロンなど)

 

これらはどのように使い分ければよいのでしょうか。

論文を見てみましょう。

日皮会誌 121(7): 1421, 2011 NAID: 10031164973

 

8人の健常成人の前腕3か所に、それぞれワセリン、ヘパリン類似物質、尿素の保湿剤を外用しました。

毎日外用し、その後2週間の角質水分量が調査されています。

 

結果はヘパリン類似物質と尿素では無塗布と比較して角質水分量が上昇していますが、ワセリンでは有意差はありませんでした。

 

ワセリンは水分蒸発を防ぐことで間接的に角質の水分を増加します。

しかし保水成分は含まれておらず直接水分を与えることはできません。

そのためヘパリン類似物質や尿素と比較すると、保湿作用は劣るようです。

 

それではヘパリン類似物質と尿素はどちらを使用すればよいのでしょうか。

病変部に使用した場合、尿素製剤は刺激の副作用が多いという報告があるようです。

Smarting was reported by 41/63 of the participants treated with urea cream and by 26/66 of those treated with placebo cream (RR 1.65, 95% CI1.16 to 2.34; P = 0.005;  95% CI 2 to 11).

Cochrane Database Syst Rev. 2(2): CD012119, 2017 PMID: 28166390

 

そのため私はヘパリン類似物質を使用することが多いです。

ただしヘパリン類似物質にはクリームやローションなど様々な剤型があります。

それらの剤型の違いについて次回の記事で解説します。

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