皮膚科の豆知識ブログ

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真菌検査について/著書「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の補足説明①

拙著「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」には、いくつかわかりにくい部分があったようです。

読者からいただいた疑問に対してここで解答していきたいと思います。

今回は真菌検査についてです。

 

抗真菌薬処方の際に真菌検査は必須なのか?

 

まず以下のような疑問を持つ方がいらっしゃったようです。

「真菌検査で確認するまでは抗真菌薬を出さない」というのは皮膚科医のマンパワー的に可能なのですか?

 

日本皮膚科学会のガイドライン(2009年版)の記載を紹介します。

皮膚真菌症の診断には真菌検査が必須です。

そのため真菌の存在を確認しないまま抗真菌薬を出してはいけないとされています。

臨床所見からある程度の診断が可能であるが、病変部に真菌が存在することを証明しない限り確定診断を下すことはできない。

真菌の存在を確認しないまま、抗真菌薬を投与すべきではない。

日本皮膚科学会雑誌. 119(5): 851, 2009 NAID: 130004708665

 

したがってマンパワーに関わらず「真菌を確認するまでは抗真菌薬を出さない」のが基本となります。

 

ただ現実的には、足・爪白癬患者の調査では皮膚科医の真菌検査施行率は64~77%となっているようです。

日本皮膚科学会雑誌. 125(12): 2289, 2015 NAID: 130005111655

 

しかし真菌検査未実施の症例では相当数の誤診が含まれていることが示唆されています。

 

真菌検査ができないときにステロイド外用でよいのか?

 

次の疑問は以下のようなものです。

「皮膚科診察がすぐしてもらえない状況でステロイド、治らなかったらコンサルト」に全ての皮膚科医は賛成なのですか?

 

真菌が確認できない場合、「真菌症の疑いが濃厚であってもステロイドを塗る」というのはガイドラインにも記載がある方法です。

臨床的に足白癬以外の疾患を想定できないが、直接鏡検で真菌が見つからない場合は、ステロイド軟膏を処方し、1週間から2週間後に再受診させ、もう一度直接鏡検を行う。

湿疹・皮膚炎であれば著明改善または治癒しており、真菌も陰性であるが、足白癬であれば皮膚糸状菌が増えているので、真菌の発見が容易になる。

日本皮膚科学会雑誌. 119(5): 851, 2009 NAID: 130004708665

 

ただこれは皮膚科医の対応であり、非皮膚科医がそれを行ってよいかについては記載がありません。

「何もせずに紹介してほしい」という皮膚科医もいるようです。

 

しかしすぐに皮膚科医の診察を受けられない場合、何もせずに放置しておくのは難しいのではないでしょうか。

そこで皮膚科医不在の環境を想定した治療アルゴリズムが提唱されています。

高齢者のいわゆる「おむつ皮膚炎」に対する治療アルゴリズムの提案

 

このアルゴリズムは「真菌検査なしに最初にステロイド外用薬を使用する」という方法で、治らなかったら皮膚科医に真菌検査を依頼します。

 

すべての皮膚科医が賛成ではないかもしれませんが、論文中でアルゴリズムの有用性が証明されており、概ね問題はない対応と言えるのではないでしょうか。

ただステロイド外用薬を処方した後は経過を必ず確認して、治らないときは確実に皮膚科紹介を行ってください。

 

つづく

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皮膚の抗酸菌培養の注意点

非結核性抗酸菌症と言えば呼吸器感染症というイメージですが、皮膚感染症にも出会うことがあります。

呼吸器と皮膚ではどのような違いがあるのでしょうか。

文献を調べてみました。

 

原因菌

呼吸器感染症の原因菌は何が多いのでしょうか。

Emerg Infect Dis. 2016 Jun;22(6):1116-7. PMID: 27191735

 

以下のように約9割はMACのようです。

呼吸器非結核性抗酸菌症の原因菌

1. MAC:89%
2. M. kansaii:4%
3. M. abscessus:3%

 

一方、皮膚ではどうでしょうか。

日本皮膚科学会雑誌. 126(12): 2289, 2016

 

このようにMACは少なくM. marinum、M. fortuitumが多いようです。

皮膚非結核性抗酸菌症の原因菌

1. M. marinum:64%
2. M. fortuitum:10%
3. MAC:8%

 

培養温度

それではこの違いを踏まえて、どのような点に注意が必要か考えてみましょう。

Am J Respir Crit Care Med. 175(4): 367, 2007. PMID: 17277290

 

MACの至適発育温度は35~37℃と言われています。そのため抗酸菌の培養は一般的に37℃で行われます。

Most clinically significant slowly growing mycobacteria grow well on primary isolation at 35° to 37°C.

 

ところがM. marinumやM. fortuitumの至適発育温度は28~30℃です。

Cultures for RGM (rapidly growing mycobacteria) and M. marinum should be incubated at 28° to 30°C.

 

つまり通常の抗酸菌培養の条件ではM. marinumやM. fortuitum発育しないのです。

そのため皮膚の培養検査では30℃と37℃の2つの条件での検査が推奨されています。

All skin, joint fluid, and bone specimens should be cultured at 28° to 30°C and at 35° to 37°C.

 

まとめ

皮膚の非結核性抗酸菌症は呼吸器と原因菌が異なります。

そのため検査を提出する際は30℃での培養を依頼する必要があるようです。

 

NSAIDs外用薬は皮膚炎に使わないほうがいい?(効果について)

NSAIDs外用薬には2種類あります。

 

  • 皮膚疾患用(皮膚炎)
  • 整形外科疾患用(関節痛、筋肉痛)

 

今回は湿疹・皮膚炎に使用する皮膚疾患用NSAIDs外用薬について見てみます。

 

NSAIDs外用薬の位置づけ

ステロイド外用薬には免疫抑制や皮膚萎縮などの副作用があります。

一方、NSAIDs外用薬にはそれらの副作用がなく、かつては「長期的に使用しやすい薬剤」と言われていたようです。

そのため小児の湿疹やアトピー性皮膚炎の皮疹に対して積極的に使用されていました。

 

しかし現在は皮膚炎に対する使用は推奨されていません。

アトピー性皮膚炎ガイドラインにはこのように書かれています。

NSAIDs の抗炎症効果は、ステロイド外用薬と比較すると極めて弱く、アトピー性皮膚炎に対して有効であるというエビデンスはない。

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021

 

それでは実際にはどれくらいの効果があるのでしょうか。

 

NSAIDs外用薬の効果

論文を見てみましょう。

ermatologica. 154(3): 177, 1977 PMID: 140084

 

皮膚炎患者193人(アトピー性皮膚炎67人、接触皮膚炎101人、脂漏性皮膚炎25人)に対するNSAIDs外用薬(ブフェキサマク)の臨床研究です。

3つの組み合わせ(①65人、②69人、③59人)で左右比較試験が行われました。

 

①ブフェキサマクvs mediumランクのステロイド(トリアムシノロンアセトニド)
➁ブフェキサマクvs weakランクのステロイド(ヒドロコルチゾン)
③ブフェキサマクvsプラセボ

 

治療開始後2週間時点で有効性が比較されています。

まず①ではステロイドのほうが有効性が高かったようです。

・ブフェキサマクが有効:11%
・トリアムシノロンが有効:89%

(p<0.001)

 

また➁でもステロイドほうが有効です。

・ブフェキサマクが有効:28%
・ヒドロコルチゾンが有効:72%

(p<0.05)

 

最後に③はプラセボとの有意差はありません。

・ブフェキサマクが有効:67%
・プラセボが有効:33%

(p=0.10~0.20)

 

この結果からは、NSAIDs外用薬の効果はweakランクのステロイドより低く、プラセボとの差がないということになります。

 

まとめ

NSAIDs外用薬の皮膚炎に対する効果はあまり期待できないようです。

ただ別のNSAIDs外用薬(イブプロフェンピコノール)では、mediumランクのステロイドと同等の効果があったという論文もあります。

基礎と臨床20(7): 3831, 1986

 

そのため一概に効果がないとは言えませんが、有効性のエビデンスは乏しいと言えるでしょう。

 

次回はNSAIDs外用薬の副作用について解説します。

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NSAIDs外用薬は皮膚炎に使わない方がいい?(副作用について)

NSAIDs外用薬には2種類あります。

 

  • 皮膚疾患用(皮膚炎)
  • 整形外科疾患用(関節痛、筋肉痛)

 

今回は湿疹・皮膚炎に使用する皮膚疾患用NSAIDs外用薬について見てみます。

 

NSAIDs外用薬の位置づけ

ステロイド外用薬には免疫抑制や皮膚萎縮などの副作用があります。

一方、NSAIDs外用薬にはそれらの副作用がなく、かつては「長期的に使用しやすい薬剤」と言われていたようです。

そのため小児の湿疹やアトピー性皮膚炎の皮疹に対して積極的に使用されていました。

 

しかし現在は皮膚炎に対する使用は推奨されていません。

それではどのような問題点があるのでしょうか。

論文を見てみます。

 

NSAIDs外用薬の問題点

NSAIDs外用薬の問題点は感作性です。

積極的に使用されていた時期(2000年)の論文では、NSAIDs外用薬のパッチテストを行うとアトピー患者の16%が陽性だったと報告されています。

皮膚 42(増刊22): 49, 2000

 

つまり繰り返し使用すると感作され、接触皮膚炎を起こす可能性があるということです。

 

NSAIDs外用薬の接触皮膚炎症例のまとめを見てみます。

Environ Dermatol 6(4): 216, 1999

接触皮膚炎症例の55例の内訳

・ブフェキサマク(アンダーム):49%
・イブプロフェンピコノール(ベシカム、スタデルム):33%
・ウフェナマート(コンベック):11%
・スブロフェン(トパルジック):5%
・ベンダザック(ジルダザック):2%

 

このようにブフェキサマクは接触皮膚炎が多く(使用頻度が多いからかもしれませんが)、症状が重篤であることから2010年にヨーロッパで発売中止勧告が出されました。

そのため日本でも発売中止になっています。

このことからNSAIDs外用薬に対するネガティブなイメージが広がり、使用頻度は激減したようです。

 

ただブフェキサマク以外の製剤も接触皮膚炎のリスクが高いかは分かりません。

ウフェナマートは感作性が低いという話もあるようです。

ウフェナマート製剤は接触皮膚炎の報告症例も少なく、感作性の低い物質と考えられる。

治療学 39(10): 1083, 2005

 

とはいえ接触皮膚炎のリスクはゼロではありません。

また効果に対するエビデンスも乏しいことから、積極的に使用するメリットは低いかもしれません。

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オイラックスにはどんな効果がある?(殺虫効果)

オイラックスという外用薬があります。

この薬剤にはどのような効果があるのでしょうか。

 

オイラックスの成分であるクロタミトンは、1940年代に疥癬に対する殺虫剤として開発されました。

しかしその後に痒みに対する効果が分かり、鎮痒性外用薬としても使用されるようになったようです。

 

つまり以下の2つの作用があるということです。

 

  • 殺虫効果
  • 鎮痒効果

 

今回は殺虫効果について見てみます。

 

保険適用

まずオイラックスには疥癬に対する保険適用はありません。

オイラックスの適用疾患

湿疹、蕁麻疹、神経皮膚炎、皮膚そう痒症、小児ストロフルス

 

しかし社会保険診療報酬支払基金より「クロタミトンを疥癬に処方した場合、当該使用事例を審査上認める」との通知が出されており、使用することが可能です。

 

使用方法

使用方法は統一されていませんが、疥癬のガイドラインには以下のように記載されています。

全身に塗布後、24 時間で洗い流し、5 日間繰り返せばよいとされているが、実際には 10~14 日間程度の塗布が必要である

 

また論文を見てみると、3週間使用している場合もあるようです。

皮膚臨床 27(6): 599, 1985 NAID: 10010831144

 

とはいえ全身への外用を2~3週間継続するのはかなり大変ですね。

 

治療効果

次に治療効果はどうでしょうか。

先ほどの論文によると、3週間使用後の治癒率は61.6%と高くはありません。

 

現在はイベルメクチンやフェノトリンなどのもっと効果が高い薬剤が使用できるため、クロタミトンが第一選択になることはありません。

 

疥癬治療に関するネットワークメタ解析では、「プラセボより勝るがイベルメクチンには劣る」という位置づけになっています。

J Am Acad Dermatol. 80(5): 1435, 2019 PMID: 30654070

surface under the cumulative ranking curve(Cure at 1-2 weeks)

・イベルメクチン内服:61.3
・クロタミトン外用:24.2
・プラセボ:0.2

 

また疥癬のガイドラインでは推奨度C1(行うことを考慮してよいが、十分な根拠がない)となっています。

そのため補助的に使用されている(イベルメクチン内服との併用)のが現状です。

 

次回は痒みに対する効果について見てみます。

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