皮膚科の豆知識ブログ

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爪白癬は見た目で診断するべからず

爪白癬では爪の変形が起こります。

ただし爪の変形が必ずしも爪白癬とは限らないことに注意が必要です。

 

それでは爪白癬の割合はどれくらいなのでしょうか。

皮膚科クリニック受診者の爪を観察した報告を見てみましょう。

Int J Dermatol. 36(10): 783, 1997(PMID: 9372358)

皮膚科受診者2001人のうち455人(23%)に爪の変形があったようです。

さらにそれらの患者に真菌検査を行い、爪白癬かどうかが調べられています。

真菌検査陽性:41%

真菌検査陰性:59%

 

このように爪変形の60%は爪白癬ではないようです。

それでは皮膚科医であれば見た目で爪白癬を診断できるのでしょうか。

 

診断率を調べた論文を見てみましょう。

J Dermatol. 42(2): 221, 2015(PMID: 25545551)

 

皮膚科医31人に対して、写真だけ(58枚の爪白癬の写真と55枚の爪白癬以外の写真)を見て爪白癬かどうかを判断するテストが行われました。

正解率:67.7%

 

このように皮膚科医であっても3割程度誤診しています。

実際、視診のみで爪白癬と断定されていることも多く、中には爪白癬ではない爪の変形に対して延々と内服治療が行われているケースもあります。

診断確定のためには真菌検査を行うようにしましょう。

 

爪白癬の治療は内服か外用か?

これまで爪白癬には外用薬が効かないので、内服薬を使用する必要がありました。

ところが最近爪白癬に効果がある外用薬が発売され、内服薬を使用しないケースが増えています。

それでは外用薬の効果はいったいどれくらいなのでしょうか。

臨床試験の結果を見てみましょう。

【内服薬の治癒率】
ラミシール(6ヶ月):54.7%
Progress in Medicine. 29(3): 873, 2009

【外用薬の治癒率】
クレナフィン(12ヶ月):19.6%
西日本皮膚科. 82(2): 103, 2020

 

直接比較はできませんが、内服薬と比べて内服薬の治癒率はかなり低く、効果は高くないと言わざるを得ません。

 

さらに治療継続率の問題もあります。

外用抗真菌薬は1年以上継続する必要がありますが、治療継続率を調べた論文を見てみましょう。

日臨皮会誌. 34(6): 742, 2017

【爪白癬の外用治療継続率】

・1ヶ月後:57%
・3ヶ月後:42%
・6ヶ月後:27%

 

このように外用薬の継続率は低く、自覚症状がない爪白癬に対して1年間外用を続けられる人はほとんどいないと言ってよいでしょう。

爪白癬の治療はなるべく内服薬を使用したほうがよさそうです。

 

【医師国家試験皮膚科領域⑦】臨床で役立つ解説-感染症の皮疹

前回に引き続き、医師国家試験に出題された皮膚疾患の写真から、皮膚科診断について説明していきます。

 

第1回で紅斑のみかたの原則を紹介しました。

  (第1回はこちら>>医師国家試験皮膚科領域①

 

・表面がザラザラ:表皮の病変

・表面がツルツル:真皮の病変

 

この原則に基づいて感染症の皮疹について解説していきます。

 

細菌感染症の皮疹

 

まず細菌感染症について考えてみます。

皮膚の細菌感染症は感染部位によって2つに分類されています。

 

  1. 表在性皮膚感染症
  2. 深在性皮膚感染症

 

細菌が表皮に感染した場合、皮膚の表面の変化を伴います。

一方真皮以下に感染した場合は、皮膚の表面の変化はなくツルツルしています。

 

医師国家試験感染症の皮疹の図

 伝染性膿痂疹は表在性感染症の代表例で表面の変化を伴います。

医師国家試験伝染性膿痂疹の図

 

一方、丹毒は真皮の細菌感染症なので表面はツルツルしています。

医師国家試験丹毒の図

丹毒の皮疹と膠原病の皮疹は、ともに真皮の炎症なのでそっくりです。

(SLEの皮疹)

 

ウイルス感染症の皮疹

 

次にウイルス感染症の皮疹について考えてみましょう。

 

第3回で解説したように、ウイルス感染症の皮疹は内因性なので、基本的には真皮に病変を形成します(第3回はこちら>>医師国家試験皮膚科領域③

 

そのため皮疹は薬疹と見分けがつきません。

(麻疹の皮疹)

(薬疹の皮疹)

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しかしヘルペスや手足口病などの一部のウイルスは表皮で増殖するため、皮膚表面の変化を生じます。

口唇ヘルペスの皮疹

医師国家試験ヘルペスの図

 

手足口病の皮疹

医師国家試験手足口病の図

 

このように見た目の違いによって、病原体の感染部位を推測することができます。

 

まとめ

 

今回は感染症の皮疹について解説しました。

これまで説明してきたように、皮疹の見た目は病態を反映しています。

直接、国家試験には役に立たないかもしれませんが、実臨床で皮疹を見る際に役立つと思います。

ぜひ表面の性状に注目して皮疹を観察してみてください。

 

【医師国家試験皮膚科領域⑥】臨床で役立つ解説-乾癬と日光角化症

前回に引き続き、医師国家試験に出題された皮膚疾患の写真から、皮膚科診断について説明していきます。

 

第1回で紅斑のみかたの原則を解説しました。

 (第1回はこちら>>医師国家試験皮膚科領域①

 

・表面がザラザラ:表皮の病変(湿疹)

・表面がツルツル:真皮の病変(薬疹)

 

しかし原則には例外があります。

今回は表面がザラザラの紅斑について取りあげてみます。

 

湿疹以外の表面ザラザラ紅斑

紅斑の表面がザラザラしている場合、病変は表皮に存在しています。

これは原因物質が体の外からやってきた外因性の皮疹であることを表しています。

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この場合は湿疹と感染症を考える必要があります。

しかしそれ以外にも表皮に病変を形成する場合があります。

それは自己免疫疾患と悪性腫瘍です。

 

表皮の病変

①外因性の皮疹(湿疹、感染症)

②表皮の自己免疫疾患(乾癬、落葉状天疱瘡)

③表皮内癌

 

自己免疫疾患は自己免疫の機序で表皮に炎症を起こします。

また悪性腫瘍は表皮の細胞が悪性化することによって、表皮に病変を生じます。

 

それぞれについて具体的に見ていきましょう。

 

①自己免疫疾患

基本的に膠原病の皮疹は真皮に病変を生じます。

しかし乾癬は表皮の自己免疫疾患であり、表皮に病変を生じます。

そのため乾癬の皮疹は表面がザラザラしています。

医師国家試験乾癬の図

 

真皮に病変を生じる薬疹と比較してみましょう。

AとB、どちらが乾癬か分かるでしょうか。

医師国家試験乾癬と薬疹の比較

パッと見は似ていますが、よくみると表面の性状が異なっています。

表面がツルツルのAが薬疹で、表面がザラザラのBが乾癬です。

 

また天疱瘡は基本的には水疱とびらんを生じる表皮の自己免疫疾患です。

しかし浅い部分に病変が生じる落葉状天疱瘡は、水疱がはっきりせず湿疹と見た目が似ています。

医師国家試験天疱瘡の図

 

②悪性腫瘍

悪性腫瘍は腫瘤を形成するものが多いですが、表皮内癌(上皮内癌)は病変が表皮に限局しているため湿疹と見た目が似ています。

以下の写真は日光角化症です。

医師国家試験日光角化症の図

日光角化症は湿疹と見分けがつかないことが多いです。

鑑別のためには生検が必要ですが、全員に生検を行うことはできません。

そこで現場では、まず湿疹として治療して改善しなければ生検を行うという対応を行っています。

 

表皮内癌を放置して浸潤癌に進行すると皮疹が隆起します。

医師国家試験有棘細胞癌の図

 

まとめ

表皮に病変を形成する疾患は3つです。

 

①外因性の皮疹(湿疹、感染症)

②表皮の自己免疫疾患(乾癬、落葉状天疱瘡)

③表皮内癌

 

表面がザラザラの紅斑は以上の3疾患を鑑別する必要があります。

皮膚科は見た目だけで診断ができるのが魅力と言われたりもしますが、見た目だけでこれらを鑑別することは難しい場合が多いです。

そのためKOH法や皮膚生検などの検査を有効活用する必要があるのです。

 

今回は表皮の病変について解説しました。

次回は感染症の皮疹全般について詳しく解説する予定です。

つづく

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【医師国家試験皮膚科領域⑤】臨床で役立つ解説-皮膚真菌症

前回に引き続き、医師国家試験に出題された皮膚疾患の写真から、皮膚科診断について説明していきます。

 

第1回で紅斑のみかたの原則を解説しました。

(第1回はこちら>>医師国家試験皮膚科領域①

 

・表面がザラザラ:表皮の病変(湿疹)

・表面がツルツル:真皮の病変(薬疹)

 

しかし原則には例外があります。

今回は表面がザラザラの紅斑について取りあげてみます。

 

湿疹以外の表面ザラザラ紅斑

紅斑の表面がザラザラしている場合、病変は表皮に存在しています。

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これは原因物質が体の外からやってきた外因性の皮疹であることを表しています。

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代表的な原因は湿疹ですが、それ以外にはどんなものが考えられるでしょうか。

湿疹の他に皮膚感染症も外因性の皮疹です。

 

外因性の皮疹の原因

  • 湿疹
  • 病原体(細菌、真菌、ウイルス) 

 

皮膚感染症の代表的なものは真菌です。

皮膚真菌症の皮疹は表皮に感染した真菌に対する炎症反応なので、湿疹と見た目がそっくりです。

 

皮膚真菌症

以下は頭部白癬の写真ですが、皮膚真菌症の皮疹は表面がザラザラで、湿疹との見分けはつきにくいです。

医師国家試験頭部白癬の図

 

次に手の皮膚真菌症です。こちらも見た目で手湿疹と鑑別することはできません。

医師国家試験皮膚真菌症の図

 

また皮膚真菌症は皮疹が環状になることがあります。

この場合は区別しやすいですが、やはり見た目だけでは診断することはできません。

医師国家試験体部白癬の図

 

湿疹と皮膚真菌症の鑑別のためには、KOH法による直接鏡検が必要です。

医師国家試験KOH法の図

 

まとめ

今回は皮膚真菌症について解説しました。

表皮の病変は見た目では診断ができないので、KOH法によって湿疹と皮膚真菌症の鑑別を行います。

湿疹と白癬の鑑別の図

 

また表皮の病変は外因性以外に例外が2つ存在します。

それは表皮の自己免疫疾患と表皮内癌です。

 

①外因性の皮疹

②表皮の自己免疫疾患

③表皮内癌

 

次回は表皮の自己免疫疾患(乾癬)と表皮内癌(日光角化症)について解説します。

つづく

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