皮膚科の豆知識ブログ

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著書の参考書籍①誰も教えてくれなかった診断学

この度、医学書院様より本を出版しました。

www.derma-derma.net

 

この本は様々な書籍、教科書から影響を受けて制作されています。

 

  1. 誰も教えてくれなかった診断学
  2. 極論で語る神経内科
  3. 内科診療フローチャート
  4. 不明熱・不明炎症レジデントマニュアル
  5. 嫌われる勇気

 

このブログではこれらの本を紹介しながら、私の著書の内容を解説したいと思います。

まずはタイトルの参考にもさせていただいた「誰も教えてくれなかった診断学」です。

誰も教えてくれなかった診断学

私が診断推論という考え方を初めて知ったのは「誰も教えてくれなかった診断学」を読んだときでした。

 

以前から診断学に興味があった私は色々な本を読んできましたが、症状別に鑑別診断が列挙してあるだけのものがほとんどで、現場で役に立つことは多くありませんでした。

従来の診断学の教科書には思考プロセスが書かれていないために、初心者が活用することは難しかったのです。

 

その思考プロセスを体系化したのが診断推論です。

 

「誰も教えてくれなかった診断学」を読んだ際は衝撃を受けました。

この本には実際の疾患についてはほとんど書かれておらず、診断に至るまでの思考過程が論理的に解説されていたからです。

 

そして診断推論の理論に魅せられた私は、皮膚科診断にも応用できないだろうかと考えます。

 

皮膚科の診断推論

ところが診断推論の教科書には「皮膚科の診断はパターン認識です」としか書かれておらず、納得いく記載はありませんでした。

 

皮膚科医の頭の中にも無意識の思考パターンがあるはずです。

そこで私は皮膚科診断の思考過程を言語化できないかとずっと考えてきました。

 

今回幸いにも執筆の機会をいただき、私の思考過程を言語化できたのではないかと思います。

 

物事の理解を深める上で、言語化というプロセスは非常に重要なのだそうです。

なんとなく感覚でやっている皮膚科診断を言語化したことで、自分の成長にもつながった気がしています。

 

ただ未熟な部分も多く、さらなるブラッシュアップが必要だと思います。

是非手に取っていただき、感想やご意見をいただけましたら嬉しいです。

 

つづく

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本の感想、ご意見はこちらからお願いします。

 

著書の紹介「誰も教えてくれなかった皮疹の見かた・考えかた」

この度、医学書院様より本を出版しました。

誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた

 

みなさんは皮膚科の教科書を読んで、このような感想を持ったことはないでしょうか?

 

・難しい用語の解説ばかりでとっつきにくい

・疾患の写真が並べられているだけで診断の方法がわからない

 

「誰も教えてくれなかった皮疹の見かた・考えかた」は、これらの問題を解決するために執筆した皮膚科診断の解説書です。

 

まずこの本の位置づけを紹介したいと思います。

医学書の種類は大きく2つに分類されます。

 

一つは知識を体系的に論じた「成書」と呼ばれる教科書です。

網羅的で理論がしっかり書かれており、疾患の基礎知識を身につけることができます。

誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかたの図

もう一つは「マニュアル」的な教科書です。

具体的な投薬例などが掲載されていて、目の前の患者への対処法を理解することができます。

 

多くの医学書はこれらのどちらかに分類されます。

 

ところが「成書」と「マニュアル」だけでは、実際の臨床現場では対応に困る場合があります。

個々の疾患については詳しく書かれていますが、根底にある「その疾患をどのように疑い、どのように追い詰めるか」という考え方が書かれてないからです。

 

そこで成書とマニュアルの間を埋めるものとして、エビデンスでは得られない思考回路考え方を解説した「通読型」の教科書が存在します。

 

誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかたの感想の図

内科の分野では初学者向けの優れた通読型の教科書が数多く出版されています。

ところが皮膚科の分野で初学者向けの教科書というと、マニュアルを薄くしただけのようなものが多く、通読型の教科書は少ない印象を受けます。

 

それなら自分で書いてしまおう!

「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」は皮膚科の通読型の教科書として執筆しました。

 

この本は様々な書籍、教科書から影響を受けて制作されています。

 

  1. 誰も教えてくれなかった診断学
  2. 極論で語る神経内科
  3. 内科診療フローチャート
  4. 不明熱・不明炎症レジデントマニュアル
  5. 嫌われる勇気

 

これらの本を一冊ずつ紹介しながら、私の書籍の内容を解説したいと思います。

つづく

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膿痂疹は培養検査で診断できる?

「細菌培養が陽性なので膿痂疹と診断したが、抗菌薬が効かない」という相談を受けることがあります。

これは診断が間違っているパターンがほとんどです。

膿痂疹の診断は培養検査ではできないからです。

 

湿疹などのびらん面には、黄色ブドウ球菌をはじめとする様々な細菌が定着しています。

そのため湿疹から細菌培養を行うと、高い確率で定着菌が検出されます。

 

湿疹患者14例の病変から細菌培養を行った論文を見てみましょう。

西日本皮膚科 46(5): 1193, 1984

 

培養陽性率は以下の通りです。

細菌培養陽性率:71%

 

その後ステロイド外用のみで細菌は陰性化したようです。

つまり培養検査で細菌が検出されても、感染を起こしているとは限らないということです。

 

湿疹病変に対して抗菌薬の外用を行うと、細菌が検出されなくなりますが湿疹は悪化します。

逆にステロイドの外用を行うと湿疹が良くなり、そこに定着していた細菌は自然に消失します。

細菌が分離された場合、それが感染か定着かを鑑別することが大切なのです。

 

しかし現実的には、湿疹を掻きむしってできたびらん面なのか、それとも膿痂疹のよってできたびらん面なのか区別がつかない症例も多いです。

 

さらに湿疹と膿痂疹が合併している場合もあります。

伝染性膿痂疹患者75人の検討では18人(24%)が湿疹を合併していたようです。

皮膚科の臨床 49(5), 587, 2007 NAID: 40015474220

 

合併しているときや、どうしても区別ができないときは両方の治療を同時に行います。

湿疹をステロイド外用で治療して、膿痂疹を抗菌薬内服で治療するのがいいでしょう。

 

膿痂疹に使う外用薬はどれがいい?

伝染性膿痂疹に対してどの外用抗菌薬を使用したらよいのでしょうか。

細菌培養の結果がわかるまで数日かかります。そのため抗菌薬の選択は過去の報告をもとに行う必要があります。

抗菌薬選択の参考として、伝染性膿痂疹の原因菌を見てみましょう。

 

皮膚科の臨床 49(5): 587, 2007 NAID: 40015474220

伝染性膿痂疹患者344例の原因菌が調査されています。

1 黄色ブドウ球菌(MSSA): 75%
2 黄色ブドウ球菌(MRSA) :23%
3 A群β溶血性レンサ球菌: 5%

 

伝染性膿痂疹の原因菌はほとんどが黄色ブドウ球菌のようです。またMRSAの割合は20%程度です。

そのためまずはMSSAに感受性がある抗菌薬を選択するのがよさそうです。

 

薬剤感受性

外用薬では必ずしも感受性のデータが役立つわけではありません。

皮膚表面の薬剤濃度は内服薬と比較してかなり高くなります。

そのためMPC(耐性菌出現阻止濃度)を超え、耐性菌にも効果を発揮する場合があるからです。

 

実際、黄色ブドウ球菌に関する研究では、ゲンタシン軟膏が耐性菌にも有効である可能性が示されています。

薬学雑誌. 131(11), 1653, 2011 NAID: 130001491121

ゲンタマイシンのMPC:32μg/ml

皮膚表面のゲンタマイシン濃度:895μg/ml

 

とはいえ薬剤感受性は薬剤選択の参考にはなるでしょう。

黄色ブドウ球菌に対する抗菌薬の感受性を見てみましょう。

 

膿痂疹患者から検出された黄色ブドウ球菌273株(MSSA197株、MRSA76株)の薬剤耐性を調べた国内の論文です。

J Med Microbiol. 57(10): 1251, 2008 PMID: 18809554

 

CLSIのブレイクポイントに従って耐性率が調べられています。

 

<薬剤耐性率>

とびひの外用抗菌薬の図

日常的に多用されているゲンタマイシン(ゲンタシン)は耐性化が進んでおり、有効性が疑問視されています。

耐性がない外用抗菌薬は①ムピロシン(バクトロバン)、②フシジン酸(フシジンレオ)、③ナジフロキサシン(アクアチム)の3種類のようです。

 

①ムピロシン(バクトロバン)

IDSA(米国感染症学会)のガイドラインではムピロシンが第一選択薬ですが、日本では鼻腔内のMRSAにしか保険適応がなく使用できません。

Clin Infect Dis. 59(2): e10, 2014 PMID: 24973422

Treatment of bullous and nonbullous impetigo should be with either topical mupirocin or retapamulin twice daily (bid) for 5 days.

 

②フシジン酸(フシジンレオ)

フシジン酸は外用薬のみで使用されている抗菌薬で、使用頻度が低いので感受性が残っているようです。

しかし耐性獲得が早いという意見もあり、多用するのは避けたほうがいいかもしれません。

Clin Infect Dis. 59(10): 1451, 2014 PMID: 25139961

 

③ナジフロキサシン(アクアチム)

ナジフロキサシンはキノロン系の抗菌薬で、フシジン酸よりも耐性菌の誘導が少ないというデータがあります。

f:id:weltall2:20211011135355p:plain

臨床医薬 26(7): 483, 2010

 

そのため私はナジフロキサシン(アクアチム)を第一選択として使用しています。

 

内服薬はこちら

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膿痂疹に使う内服薬はどれがいい?

伝染性膿痂疹に対してどのような内服抗菌薬を使用したらよいのでしょうか。

細菌培養の結果がわかるまで数日かかります。そのため抗菌薬の選択は過去の報告をもとに行う必要があります。

抗菌薬選択の参考として伝染性膿痂疹の原因菌を見てみましょう。

 

皮膚科の臨床 49(5): 587, 2007 NAID: 40015474220

伝染性膿痂疹患者344例の原因菌が調査されています。

1 黄色ブドウ球菌(MSSA): 75%
2 黄色ブドウ球菌(MRSA) :23%
3 A群β溶血性レンサ球菌: 5%

 

原因菌はほとんどが黄色ブドウ球菌のようです。またMRSAの割合は20%程度です。

そのためまずはMSSAに感受性がある抗菌薬を選択するのがよさそうです。

 

次に黄色ブドウ球菌に対する抗菌薬の感受性を見てみましょう。

膿痂疹患者から検出された黄色ブドウ球菌273株(MSSA197株、MRSA76株)の薬剤耐性を調べた国内の論文です。

J Med Microbiol. 57(10): 1251, 2008 PMID: 18809554

 

CLSIのブレイクポイントに従って耐性率が調べられています。

 

<薬剤耐性率>

とびひの抗菌薬の選択の図

小児科領域の細菌感染症で頻用されているペニシリン系やマクロライド系は耐性率が高く、膿痂疹への使用は勧められません。

MSSAに対して有効なのはセファレキシン、クリンダマイシン、ミノサイクリン、レボフロキサシンのようです。

 

IDSA(米国感染症学会)のガイドラインでは第一選択薬としてセファレキシンの7日間投与が推奨されています。

Clin Infect Dis. 59(2): e10, 2014 PMID: 24973422

Oral therapy for ecthyma or impetigo should be a 7-day regimen with an agent active against S. aureus.

Because S. aureus isolates from impetigo and ecthyma are usually methicillin susceptible, dicloxacillin or cephalexin is recommended. 

 

もし細菌培養でMRSAが検出された場合は、培養検査の薬剤感受性を参考にして抗菌薬を変更します。

ただしミノサイクリンは8歳未満、レボフロキサシンは15歳未満の小児には使用できないので注意が必要です。

 

外用薬についてはこちら

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